昭和42年
年次経済報告
能率と福祉の向上
経済企画庁
第1部 昭和41年度の日本経済
5. 当面する諸問題
今回は,景気上昇がはじまつても,大企業の新規求人や常用雇用の回復はおそかつた。39年から40年へかけての不況期を通じ,大企業が設備投資の調整を行ない,老朽設備の更新をかなり積極的に進めた結果,大企業の新規求人は41年4~6月まで減少をつづけ,製造業の常用雇用も4~6月まで停滞を示した( 第29図 )。大企業の新規求人や常用雇用がふえなかつたので,労働力不足とはいいながら中小企業の労働力需給はある程度緩和され,これまでの賃金格差の縮小傾向は40年から41年へかけてかなり鈍つた。
しかし,41年後半から景気上昇が本格的となり,設備投資も増勢をつよめるにつれて,大企業の新規求人が急増しはじめ,製造業の常用雇用も増勢に転じて,労働市場は再び引締まり傾向をみせつつある。
学卒を除く有効求職者1人あたり有効求人(新規求人と前月より繰越された求人の合計)の倍率は景気の谷であつた40年10~12月の0.6倍から上昇して,42年はじめには過去のピーク(39年7~9月)の水準であつた0.84倍をこえている。
その内容をみると,有効求人数の80%は35歳以下の年齢層に集中しているが,同年齢層の有効求職者数は全体の60%にとどまつており,この年齢層の需給逼迫が著しいことがわかる( 第30図 )。
こうした動きにつれて,41年後半から卸小売業( 第20表 ),非耐久消費財産業など中小企業の比重が高い分野で常用雇用はこれまでの増加傾向から停滞傾向ヘ変わつてきた。中小企業の人手不足は再びつよまつているといえよう。
中小企業の経営面をみると,この人手不足と人件費の上昇が大きな隘路となりつつある( 第21表 )。とくに,小規模企業でこの傾向が目立ち,景気の上昇で受注がふえても人手不足で消化しきれない企業もでている。
一方,労働力不足下における中小企業の適応もすすんでいる。これまで若年労働力に依存していた繊維,食料品,弱電関係や卸小売業などの中小企業では,主婦の労働力や中高年層の雇用がふえつつあるし,より積極的に生産性の向上をはかるため設備投資も活発化している。中小企業(当庁調べ,従業員10~299人,製造業)の設備投資は,40年度の21%減から41年度25%増,42年度(計画)19%増と増加している。
投資内容も,景気の上昇過程であるにもかかわらず生産能力の拡充がふえず,合理化,福利厚生施設や新製品生産を目的とする企業の割合が増加しているのが目立つている( 第22表 )。機械部品工場における高速自動旋盤の導入,鍛造工場における連続鍛造設備の採用など設備の近代化が進められている一方,教育訓練による労働力の質の向上がはかられ,小規模企業では工場アパートの建設(機械部品),原材料の共同仕入れ(陶磁器),共同工場の設置(パン,飲料)などの協業化も普及しつつある。また,縫製品におけるパーマネントプレスなど新製品の開拓に力を注ぐ動きもみられた。
こうしたなかで,労働力不足や市場条件の変化に適応した企業とそうでない企業の格差は拡がつている。環境の変化に適応できなかつた企業は,景気が上昇しても立直れない場合が多い。41年5~12月の8ヵ月間に倒産した企業の実態をみても,コスト高,採算悪化や,業績不振で金融機関の信用がえられず融通手形の操作禍・高利金融による破綻で倒産する企業の割合が前8ヵ月間よりふえている( 第23表 )。
また,いつたん倒産した企業の再建はむずかしくなつてきており,倒産企業の半分近くが廃業となつてしまう( 第24表 )。こうした傾向は,小規模企業ほど多くみられる。中小企業の近代化はすすめられつつあるとはいうものの,日本経済の構造変化がはげしい現状で,新しい環境へ適応していくための積極的な近代化はいつそう必要とされるであろう。