昭和42年
年次経済報告
能率と福祉の向上
経済企画庁
第1部 昭和41年度の日本経済
4. 国際収支の均衡
景気の上昇に伴つて,貿易収支の黒字幅は縮小傾向にある。貿易規模が拡大するにつれて貿易外収支の赤字もふえる傾向にあるが,ベトナム関連の軍関係受取の著増や投資収益収支の赤字幅縮小などにより,41年度の赤字幅は9億100万ドルと前年度よりやや改善された( 第14表 )。
一方,長期資本収支は,船舶,機械等の輸出伸長にともなう延払信用供与額が著増し,円借款供与額等も高水準をつづけているので,8億3,600万ドルの赤字と前年度を大幅に上回つた( 第15表 )。もつとも,過去の借入金返済が41年度中にかなり進み,42年度に入るとインパクト・ローンの流入増が若干みられるなど,外国資本の返済超過は次第に落着く動きがみえてきた。
また金融勘定は,41年末頃までは欧米金利の割高傾向を反映して,輸入ユーザンス等の外銀借入の減少,自由円の流出がみられ,また輸出の好調による輸出ユーザンスの増大があつて,為銀ポジシヨンは大幅に改善した。しかし反面外貨準備は,総合収支の好調にもかかわらず,若干の減少を示した。42年に入ると,欧米諸国の金利低下により,内外金利差が逆転し,外銀借入の増大や,輸出ユーザンスの減少等により,再び為銀ポジシヨンは悪化し( 第16表 ),反面外貨準備は若干増大している。
ところで,わが国の対外債権・債務の変化について,かなりの誤差を含むが,一応,フロー・ベースである国際収支統計から推定してみよう。
まず,長期対外債権・債務面では,36~39年度間に7億ドル余債務超過となつたが,40~41年度間には約14億ドルの債権超過となつた。これは主として輸出延払信用の著増によるものである。
つぎに,短期対外債権・債務面では,36~39年度間に約13億ドルの債務超過となり,40~41年度間には,約5億ドルの債権超過となつた。これは40~41年中の輸出増大を背景とした輸出ユーザンスの増加と,欧米金利の割高化を反映した輪入ユーザンスの減少や自由円の流出超などによるものであつた。
以上を総合した対外ボジシヨンは,36~39年度間に約20億ドル純債務が増加し,40~41年度間に約19億ドルの純債権が増加し,36~39年度間の債務増加をほぼ回復したとみられる。その結果,36~41年度間の対外ポジシヨンの変化の内容を長期・短期別にみると,長期では債権超過,短期では債務超過となつている。
このように,40~41年度中において,わが国の対外債権・債務バランスの推移をみると債権の増加が著しかつた。ただ,長期対外債権面では欧米先進国のような直接投資中心ではなく,輸出延払信用中心に債権が増加したものである。一方,債務面でも返済が大きく進捗したわけではなく,欧米資本市場の逼迫や米国の対外投融資規制強化で取入れが困難だつたという消極的な理由によるものであつた。また短期対外債権債務面でも,40~41年中の輸出ユーザンス増大や欧米金利の割高化を基本的背景として起つたものであつた。
しかし,42年にはいる頃から延払輸出信用を中心に長期対外債権・債務面での債権超過傾向は続いているものの,短期対外債権・債務面では,前述のように輸出ユーザンスの減少,輸入ユーザンス等短期外資の流入増が生じている。
以上のように,41年に入つて景気上昇がはじまり,需給ギヤツプも解消して設備投資が増勢に転ずるなかで,貿易収支の黒字幅は縮小傾向を示しつつある。世界経済も,42年に入るとアメリカの景気が停滞を示し,西ヨーロツパの景気もイタリアはひきつづき好調であるが,イギリス,西ドイツの立直りははかばかしくない。
もつとも,国際収支は赤字傾向をつづけているが,外貨準備は逆に微増をつづけている。
これは,最近2年間大幅に債権増加をみたわが国の対外債権・債務バランスが,内外の環境変化に伴い,短期対外債権・債務バランス面で再び債務増加の方向をたどりはじめたことを物語つている。
こうした状況からみて,今後アメリカ経済の景気回復,国内供給力の増大などから輸出好転の期待もあるが,国際収支の先行きについては当面慎重に見守つていく必要があろう。
外貨準備は増えていても,総合収支が長期的に赤字をつづけるようでは健全な姿とはいえない。台頭した設備投資は国内の供給力を高め,競争力をつよめて,やがて輸出を伸ばしていく推進力ではあるが,物価,労働力需給,社会資本需給など国内均衡とならんで国際均衡が維持できるよう堅実に伸ばしていくことが必要である。