昭和42年

年次経済報告

能率と福祉の向上

経済企画庁


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第1部 昭和41年度の日本経済

4. 国際収支の均衡

(1) 輸出の鈍化

景気が上昇すると,供給余力がなくなって輸出が鈍化しやすいが,今回の景気上昇局面で生じた輸出鈍化の原因はなんであろうか。

輸出(通関額)は,41年を通じてみるとかなり順調な増加基調(前年比16%増)であつたが,前年(27%増)にくらべると伸びは鈍化している。輸出が鈍化した原因は3つあつた。

第1は,対米輸出環境が不利化したことである。世界(日本を除く)の輸入が1伸びるときの日本の輸出の伸び,すなわち弾性値は,39~41年は2.46であつたが,41年は1.76に低下している。これは,主として対米輸出の伸びなやみに原因があつた。39~40年には,アメリカの輸入は年率12%増,日本の対米輸出は28%増であつたが,41年になるといずれも19%増とアメリカの輸入の伸びはかえつて高まつたのに日本の対米輸出は鈍化した。日本の輸出に占めるアメリカ向けの比重は3割に達するから,アメリカの輸入が伸びているのに日本の対米輸出が伸びないのは問題であるが,これはアメリカにおける繊維品,鉄鋼の輸入が伸び悩んだことが大きい原因であつた。アメリカにとつては,繊維品,鉄鋼の輸入が鈍化しても,総輸入に占めるそれらの比率は14%(1965年)にすぎないから,ほかの商品が伸びていれば総輸入の伸びは鈍らない。しかし,日本にとつては,これらの商品の対米総輸出に占める比率は37%(1965年)に達するから,その影響は大きかつた。

第13表 商品別対米輸出の伸び率,構成比および弾性値

第2は一部の重化学工業品の供給余力が低下したことである。アメリカの輸入の伸びに対する日本の対米輸出の伸びの比率,すなわち弾性値(ただし,日本の輸出構成比で修正)は,40年の1.3から41年には0.9へ低下している。その内容をみると,合繊および重化学工業品,とくに金属製品,鉄鋼,非鉄金属などで弾性値の低下がみられる( 第13表 )。これらの商品は,アメリカの輸入の伸びより日本の対米輸出の伸びが低く,景気上昇過程で,需給ギヤツプが解消したことが,対米輸出の鈍化に影響を及ぼしているとみられる。

このように,41年の輸出鈍化は,対米輸出,それも輸出環境や国内事情に原因があつた。なかでも対米輸出が39年後半から40年に急増し,41年後半に鈍化した背景には,アメリカの鉄鋼輸入の変動と日本の鉄鋼の供給余力の変化が大きく影響していた。つまり,40年には対米輸出環境の有利化と日本の供給余力の増大があり,41年はその逆になつた(前掲 第13表 )。今後の対米輸出を考える場合にも,こうした短期的変動要因に左右される面が大きい点を注意する必要があろう。

第3は,傾向的に日本の労働集約的軽工業品の輸出競争力が低下していることである。日本の伝統的な輸出商品である人形・造花・はき物・クリスマス装飾用品などの雑貨,シヨール・スカーフ・マフラーなどの繊維品の輸出のなかには,人手不足と賃金コストの上昇や発展途上国の急速な競争力の強化を背景として,弾性値が低下しているものもある(前掲 第13表 )。

このほか,輸入抑制などでアフリカ向け,関税引上げなどで大洋州向け輸出が前年より減少したことも,輸出が鈍化した原因のひとつであつた。

ところで,42年に入ると,輸出(通関額季節修正値)は総じて停滞的な状態がつづいている(前掲 第20図 )。

このような最近における輸出停滞は以上の事情に次の2つの原因が加わつたからである。

第1は,一時的な減少要因である。中共向け化学肥料の成約のおくれなどの事情があつて,42年1~3月の共産圏向け輸山は前期より約30%減少した(季節修正値)。

第2は,海外経済とくにアメリカの景気停滞である。ベトナム戦の影響でアジアの近隣諸国に対する輸出は好調をつづけているが,アメリカ経済の停滞で対米輸出が振わない。アメリカの商品輸入(季節修正値)は,39年末から41年夏にかけて年率約20%の増勢にあつたが,10~12月以降停滞状態がつづいている。日本の対米輸出(通関額)も1~3月には前期比約6%減少した。

41年中に主として輸出環境と国内要因から輸出が鈍化しつつあつたところへ,42年に入るとアメリカの景気停滞が重なつてきた。今後の輸出回復については,景気が安定した拡大過程をたどり,設備役資によつて供給力の拡充が進むとともに,海外とくにアメリカの景気好転に期待するところが大きい。

第21図 要因別輸入前年度比増加額


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