昭和42年
年次経済報告
能率と福祉の向上
経済企画庁
第1部 昭和41年度の日本経済
2. 上昇の主導力と主役の交替
輸出,景気対策・減税,それに企業金融の大幅緩和は,民間需要を誘い出す有効な呼び水となつた。しかし,下期に民間需要が急増した原因はそれだけではなかつた。民間需要の内部からも,この呼び水に呼応して誘発効果を大きくする原因があつた。以下にこれをみていこう。
在庫投資が本格的に増加したのは,景気が底をついて3期目の41年7~9月であつた。在庫投資は,総需要の増加と金利低下に刺激されて台頭する需要であるから,輸出の増大や景気対策などが進むにつれて増加するはずであつた。しかし,景気が回復期に入つた40年後半から41年前半へかけて,多くの業種で生産調整が行なわれたことでもわかるように,企業の投資意欲の立直りはおそかつた。
これは,形態別にみた在庫投資の動きにもうかがわれる( 第7図 )。原材料在庫投資の動きはこれまでとかわらなかつたが,仕掛品や流通在庫のような加工および市場段階における企業の意図した在庫投資の先行性は従来にくらべてよわかつた。需給バランスが改善され,企業収益が好転して,はじめて企業の投資意欲が復活してきた。すでに増加していなければならないはずの在庫投資需要が貯められ,それがいちどに表面化することになつたから,41年後半の在庫投資の増加は大きく,かつ急テンポであつた。
在庫投資にくらべて,設備投資ははやくから増勢に転じた。国民所得ベースの設備投資でみると,景気底入れの翌期からつよい増勢に転じている( 第8図 )。
これは,非製造業の資本金1億円以上の企業の投資が運輸通信・電力などを中心に景気後退のなかでもふえつづけたほか,同1億円未満の企業の投資も建設・卸小売・サービス業などを中心に景気底入れまえの40年7~9月から増勢に転じていたからである。また,製造業の資本金1億円未満の企業の投資をみても,景気底入れとほとんど同時に増勢に向かつている。このように,非製造業あるいは中小企業の設備投資が今回はつよい増勢を示した。これは,公共工事の受注増や景気後退の影響がすくない末端消費に結びついた部門,あるいは労働力不足に対応するための投資を迫られている中小企業にみられたつよい増勢であつた。とくに,全産業の資本金1億円未満の設備投資を景気底入れ後1年間の増加率でみると,前々回の20%,前回の34%に対して,今回は53%の増加であつた。前述したように,金融の大幅緩和と金利低下が,このような中小企業の投資増加を促進した大きい原因であつた。1億円未満の企業の設備投資の全産業投資に占める比率は,36年の30%から次第に上昇して,40年は37%,41年は43%と高まり,全体の設備投資につよい影響を与えるようになつた。国民所得ベースの設備投資が,はやくからつよい増勢に転じたのもそのためであつた。
そこへ,製造業の資本金1億円以上の企業の設備投資が,41年7~9月から増勢を示しはじめた。後述するように,需給ギヤツプが解消して,6年ぶりにつよい増勢ヘ転じたのである。製造業の1億円以上の投資は,変動が大きく,いったんふえだすとその伸びはいちじるしい。こうして,下期には国民所得ベースの設備投資はいちだんと増勢をつよめるようになつてきた。
個人消費も,次第に増勢を回復しつつある。41年度の農村消費は,前年度にひきつづいて堅調であつた。これは農業所得が前年度とほぼ同様17%の増加をしめし,農家所得も15%弱と過去3年なみの増勢をつづけたためである( 第4表 )。
これに対して,都市勤労者の消費は,景気後退による所得の伸びなやみから,39,40年度と鈍化したが,41年度は景気上昇につれて再び増勢をつよめている。
まず所得の動きを全産業の定期給与についてみると,39年度9.3%増,40年度8.6%増から41年度は10.7%増に高まつた。これは大企業の所定外給与が生産の急増につれて増加したからで,製造業500人以上の企業についてみると,41年度下期には定期給与の前年同期比14%増のうち5%は所定外給与による増加であつた。企業収益の好転を反映して,特別給与も増勢をつよめている。なお,都市勤労者世帯の世帯収入でもほぼ同様の動きを示した( 第5表 )。
こうした所得増にともなつて,消費も次第に増勢を回復しつつある。全国の小売販売額は40年の8.0%増から41年度には10.5%増へ,百貨店売上高も同じく9.7%増から12.7%増ヘ伸びを高めている。
また,都市勤労者世帯の消費支出も7.9%増から8.3%増と伸び,消費者物価の上昇率が,前年度の7.4%から41年度には4.6%ヘ鈍つたため,実質でみた消費の伸びは前年度の0.5%から3.5%へと高まつた。消費の内容をみるとテレビの買替え需要や乗用車の普及などにより,家具什器費が前年同期比で40年上期の5%減から同下期17%増,41年上期4%増,同下期11%増と大きなふえ方をしめしている。耐久消費財産業の国内向け出荷の動きからみても,乗用車とカラーテレビの増加が目立つている( 第9図 )。
なお,地価上昇や建築費の急騰で住宅投資がはばまれがちではあるものの持家建築は40年から伸びを高めており( 第6表 ),資本支出にも増加傾向がうかがわれる。