昭和41年

年次経済報告

持続的成長への道

経済企画庁


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持続的成長への道

諸部門の動的均衡

社会資本の充実

日本経済の高度成長の過程で、従来から蓄積の立ち遅れていた社会間接資本ストックの不足は、一層深刻化した感がある。

日本では、社会資本ストックがもともと低水準であった上に、戦後急速に増加した民間設備投資に、公共投資が追い付かなかったために、両者の差はますます拡大していった。 第85図にみられるように社会資本自体増加率は決して低くなかったが、民間資本対社会資本比率は、昭和28年度の0.87から38年度は0.55にまで低下した。

第85図 国民総生産、民間資本、社会資本の相対関係の推移

また、消費水準が上昇して、上水道、下水道、終末処理施設、公園等生活環境施設に対する欲求水準が上昇してきたし、住宅、乗用車、冷房、電話等に対する需要の伸びも急速で、需給のアンバランスが激しくなった。 さらに産業や人口の都市集中化が著しく、それが通勤混雑等に集中的に現れている社会資本のストックの地域的アンバランスを深化せしめた。 例えば第107表にみるように、30年代における人口の都市集中傾向をみると、25〜30年全増加人口608万人に対する、東京地区(東京、埼玉、千葉、神奈川)、大阪地区(大阪、兵庫)、愛知地区の3大工業地帯での増加人口の比率は62.9%であったが、30〜35年の間では全増加人口414万人の97.3%を占め、35〜40年においてはそれが109.6%にも達し、3大工業地帯以外では純減となったことを示した。 この間、人口の入れ物である建築物は家庭、職場等を含めた着工床面積でみても、上記3大工業地帯の全国に対するシェアは、上記3期間にそれぞれ39.2%、45.4%、56.0%とその比率を高めてはいるが、とうてい人口増加寄与率には及ばない。 さらに公共施設の建設はあとにみるように、国全体としても各部門で非常な立ち遅れとアンバランスを示しているが、地域別にみても、上記の人口集中激化地域での公共工事(着工)のシェアは、31年度30%であったが、35年度、38年度でも40%に留まっているといった状態である。

第107表 増加人口・着工建築物・公共工事着工の地域別構成

社会資本蓄積の不足状態がどのように現れているかを主要部門別にみると次のようだ。

道路 道路整備計画の進ちょくに伴って道路投資額(昭和35年価格、以下同じ)は、第87図のように高率な伸びを示したが、輸送量の増加はさらに急激であった。 このため、既にあい路現象が目立ってきていた昭和30年度と比較しても、単位輸送量当たりの道路資産額は低下の一途をたどり、昭和39年度では約50%となった。 第86図は平均値を示すものであり、大都市街路、主要幹線道路については、「全国交通情勢調査」(建設省調べ)の結果によっても、一層交通混雑が進行していることが示されている。

第87図 港湾原単位の低下

第86図 道路原単位の低下

港湾 港湾についても、投資額の伸びは取り扱い貨物量の伸びに追いつかず、船舶大型化の要因もあって、主要港湾では滞船、滞貨が慢性化してきている。 港湾整備計画の進展によって、多少緩和傾向がみられるものの、依然6大港(東京、横浜、名古屋、大阪、神戸、北九州)では、入港船の1割強が平均1日の沖待ちを余儀なくされている。

鉄道 戦中戦後の投資不足が大きかった鉄道は、老朽、荒廃設備の更新と合わせて、線路増設、電化、ディーゼル化等の輸送力強化施策を推進してきた。 しかし急増する輸送需要に対しては、応急的な可動設備(車両)増によらざるを得ない面が多く、このため基礎施設の不足一層深刻化した(第88図)。 現在では、大都市通勤線区、主要幹線の線路容量はほとんど極限状態にあるものとみられる。 国鉄については第3次長期計画(昭和40〜46年度)により線路増設、ターミナル改良等、基礎輸送力の充実が図られることとなり、輸送事情も大幅に改善されるものと期待されるが、輸送力不足の状態はなお解消されないものと思われる。

第88図 線路容量のひっ迫

電話 電話需要の伸びは国民所得の伸びを上回って急速であったが、増設機数の不足によって、第89図のように申し込み需要の積滞(増設対象需要マイナス増設数)は次第に拡大してきている。 電話普及率の国際比較(100人当たり機械、1965年現在、電電公社調べ)ではアメリカ45.88、イギリス18.27に対し、我が国(有線放送を含む)は12.54と低く、電話需要は今後も急速な上昇をたどるものと思われる。

第89図 電話需要の積滞

住宅 住宅需要は人口増、世帯規模の細分化、人口の都市集中化等によって次第に増加してきた反面、住宅建設の伸びもあって需給ギャップは縮小傾向にあるものとみられる。 総理府統計局の住宅統計調査によれば、昭和38年は、33年に対比し、世帯数で294万の増であったが、総住宅戸数は316万の増と世帯数の伸びを上回った。 しかし住宅需要の大都市偏在傾向か及び住宅の質的水準向上への欲求は強く、第90図のような極端な需給ギャップもみられる。 全国では昭和38年度末で約278万戸の住宅数が不足しているものと推計されている。

第90図 住宅需要の増加

水道 水道普及率は、昭和30年度末の32.2%から昭和40年度は68.4%と2倍以上の伸びを示し、給水量も逐年増加してきた(第91図)。 しかし国際水準からみれば、普及率では(厚生省調べ昭和39年度)イギリス96%、西ドイツ37%と比較して低位にある。 1人当たり給水量も年々増加しているが、施設能力の立ち遅れのため、39年度現在で、6大都市では1人1日約170l、その周辺都市の中にも、これと同程度の能力不足がみられる。

第91図 給水需要の増加

下水道 消費水準の上昇に伴い、在来のくみとり便所を水洗便所に改良したいという下水道に対する欲求水準が上昇しているが、下水道の普及は著しく立ち遅れている。 昭和39年度末の下水道による水洗便所利用人口は4764千人で総人口の4.8%に過ぎない。これを諸外国と比較すれば、アメリカ89.7%、イギリス92.3%、西ドイツ75.3%、フランス86.5%、イタリア41.4%、フィリピン6.6%となっている。

以上みたように、昭和39〜40年度の景気後退期で、民間設備についてはかなりのデフレギャップがあったと思われる反面、社会間接資本に関連する部門では、慢性的な供給力不足が依然として続いていた。

これまでは資金面からみてもドッジライン以後の均衡財政の下では、これ以上のテンポでの公共投資は不可能であったし、また物価安定の見地から公共料金の上昇をできるだけ抑制することが必要であったので、公共企業部門での自己資本蓄積が抑制される結果となったことも考えられる。

しかし、社会資本蓄積のこれ以上の立ち遅れは、生産、サービス部門での効率化を妨げるのみならず、国民生活に対する影響面からも無視できない現状となっている。 また、最近大気汚染、水質汚濁、騒音等の公害問題が一層重大化し、その国民生活に及ぼす影響が懸念されているが、この問題に対処するためには、今後は土地利用の面から予防対策を確立することが必要であり、都市計画的事業として行われる緩衝地帯の設置等も新しい社会資本整備の課題として推進されなければならない。 なお、公害の個々の発生源における公害防除施設の整備は、いわゆる社会資本の範ちゅうには属さないが、極めて社会性の高い民間投資としてその促進を図る必要がある。

上記の諸分野に対する投資を積極的に進めていくと同時に、建設業の機械化、能率化、地価騰貴の抑制等を図りつつ、地域開発を推進することが重要であるが、特に過密化の防止と過密地域に対する計画的投資等によって社会資本の遅れを改善していくことは、40年代の重要な課題である。


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