昭和41年

年次経済報告

持続的成長への道

経済企画庁


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昭和40年度の日本経済

景気立ち直りの原因

政策的要因

景気が40年秋に底入れし、その後次第に明るさをとりもどすようになってきたのには二つの原因が挙げられる。第1は経済の内部における需給バランスの回復の進行、第2は財政、金融面からの景気対策の効果である。

金融政策

景気対策としてまずとられたのは金融政策であった。金融政策の転換は39年12月16日の預金準備率の引き下げにはじまり、40年に入ってからは公定歩合が1月9日、4月3日、6月26日と各1厘づつ引き下げられた。また7月からは窓口規制が廃止され、7月16日には預金準備率が再び引き下げられた。

公定歩合は前回の緩和期には、4厘引き下げられたので、それに比べると今回の下げ幅は小さいが、6月の引き下げの結果、公定歩合の水準は日歩1銭5厘(商業手形の再割引歩合)と、26年以降の最低となり、定期預金金利をも下回ることになった。

しかし、金融政策の転換だけでは、不況の進行をやめることはできなかった。それは、金融がゆるんでも、市中の貸出金利の低下がすぐに進まなかったということにもよるが、基本的な理由は企業の期待利潤率が低下していたことにあり、そのため、金融がゆるんでもその活動が活発化しなかったからであった。

金融緩和に伴って、コール・レートの低下は急速で、月越もの実勢金利は、年初の日歩2銭8厘から6月には2銭にまで急落した。しかし当初、貸出金利の低下は、1月の公定歩合引き下げに際し、並手形金利が据え置かれたこともあって、かなり鈍かった。都市銀行の貸出金科の低下の動きをみると、第10図の通りで、40年5月ごろまでの低下のテンポは遅く、緩和時点の1月前を100として、前回は同じ期間に4.7%低下したが、今回は1.9%に止まっている。しかしその後は貸出金利の下げ幅も大きくなって、40年12月までには6.4%の低下となった。前回の緩和期の低下は9%であったが、公定歩合の下げ幅が今回は1厘小さいという点を考えに入れて比較すれば、40年末までに大体、前回並の低下をみたわけであり、41年に入っても金利の低下傾向は続いている。

第10図 貸出金利の比較

40年上期中、貸出金利が下げしぶったのは、都市銀行の場合には、39年中の引き締め期に金利の高いコール資金への依存が高まっており、これが40年の前半まで尾を引いて、資金ポジションや収益が悪化していたので、まずその改善を図る必要があったことが一因となっている。しかし一層大きな理由は、39年末から、企業の倒産が急増し、また証券市場が極度に低迷し、特に5月ごろから一部証券会社にも経営が行き詰まるものが現れるような状態になったために銀行の貸し出し態度が慎重になったことだ。信用不安がひろまるおそれが生じたことは今回の不況の特色であった。日本銀行は、5月29日と7月6日の二回に渡り、日本銀行法25条に基づいて、市中銀行を通じて証券会社への資金融通のために、特別な貸し出しを行うという異例な措置を決定し、これによって、信用不安が連鎖的に波及していく危険を食いやめた。このごろから株価も回復に向かい金利の下げ足ははやくなってきた。

第11図 株価、外部負債比率と貸出金利

金融緩和の影響は、企業にも浸透し、企業の手元流動性(現預金/売上高比率)は40年に入ってから急速な上昇を示し(第12図)、預金通貨回転率も40年に入ってから急落して、戦後最低の水準となった(第13図)。こうした企業の流動性の上昇は、金融機関からの借り入れの増大に加えて輸出の好調と財政の大幅散超によるところが大きかった。投資活動も沈静したので、流動性が高まるにつれて、企業の資金借り入れ需要は鈍り、銀行の限界預貸率(預金増加に対する貸し出し増加の比率)も、41年に入ってから一段と下落して、30年以来の最低水準となった。

第12図 企業流動性の推移

第13図 全国銀行限界預貸率と預金通貨回転率

しかし、こうした金融緩和は投資活動の増大に結び付かなかった。それは、企業の投資意欲が以前ほど強くなかったためである。昭和36年の投資ブームによって生産力は増加しており、一方、需要は沈静していてデフレギャップが大きかったので金融がゆるんでも、すぐ新しい投資が起きてくるような状態にはなかった。第97図にみられるように、利潤率は低下しており、利子率が下がってもなおそれを下回るような状態にあったのである。景気の回復のためには有効需要水準を高め、供給力と需要との間のアンバランスを改め、利潤率を上げていかなければならなかった。

財政政策

前述のように、日本経済の内部には、不況下でも、増加を続けるような需要要因もあったが、需要と供給力とのギャップを埋め景気を回復するためには、財政面からの補完が必要であった。

40年度の一般会計予算は、税収が景気調整の影響て伸び悩むことが予想され、また前年度剰余金も少なかったこと等歳入面の制約もあって、3兆6,581億円で前年度比増加率も12.4%と最近5年間て最低であった。特別会計は15.4%増、財政投融資計画は20.9%増と一般会系を計を上回ったが、政府の財貨サービス購入の見込みは、前年度比10.2%増で経済成長率の見通し11%をわずかながら下回っていた。さらにその後の経済の停滞から、租税収入は第14図に示すように、年度当初から、法人税、物品税、酒税等を中心にして伸び悩んだ。このように税収が予想を下回る一方、年度中、公務員給与の改善、米価の引下げによる食管繰入等の追加財政需要がおこることが予想されたので、その後の財政運営の弾力性を確保するために6月下旬、当初の予算のうち公共事業費、庁費等の1割を留保し、支出をくりのべることが決定された。この問に金融緩和措置は次々にすすめられ、また財政投融資計画の実行も積極的に行われ、財投実行額は第1四半期に3,535億円と前年度(2,724億円)を800億円以上上回った。しかし不況感は一層深刻化し財政面からの積極的な需要喚起政策を必要とするような状況になってきた。

第14図 一般会計租税収入の月別推移

そこで財政面からの景気対策の第一歩として6月中旬に公共事業費の年内1,000億円の繰り上げ支出と財政投融資計画の実行促進が決定され、次いで7月27日の第4回経済政策会議で①先に行った1割留保のうち、公共事業費等、約850億円の解除、②住宅、運輸、通信、輸出、上下水道等関連産業に与える効果の大きいものを中心に、財政投融資計画の対象機関事業量の2,100億円拡充、③財政及び財政投融資の繰り上げ支出の推進、④政府関係中小金融3機関の基準利率の年3厘引上げ、⑤積極的な輸出拡大施策、⑥長期減税構想と国債発行の準備、がなされることになった。

こうした財政政策の積極化を好感して、8月には株価が反騰し、商品市況も一時回復を示した。

財政支出促進決定後の状況をみると、機動的に運営できる財投計画の繰上げ実行により、第2四半期における財投実行額は、4,216億円と前年同期を1,300億円以上上回った。

また、一般会計予算の支出状況は 第12表の通りで、予算現額に対する支出額の割合で、第2四半期は前年同期を2.9ポイント下回っていたが、第3四半期は後半に入って大幅に上昇し、逆に前年同期を3.4ポイント上回るようになった。

第12表 一般会計支出状況

一般会計と特別会計を合わせた公共事業関係費の実際の支払い状況(前年度からのずれ込みを含む)をみると、月間支出額は11月から前年を上回り、第3四半期には2,475億円と前年同期を511億円上回った。

第15図 公共事業関係支出額の推移

財政面からの景気対策は、第3四半期に入って効果が現れ、セメント、鉄鋼、建設等の公共事業関連業種にかなりの刺激を与えた。しかし、既に租税収入の伸び悩みから政府短期証券を増発しなければならなかった国庫の資金繰りは、財政支出の進ちょくにつれて一層ひっ迫した。このため、40年度補正予算では、大蔵省証券の発行限度額を当初予算の2,000億円から4,000億円に引き上げると共に、租税及び印紙収入の減収見込み額2,590億円に見合う補てん国債を、財政処理特別措置法に基づいて発行することとした。さらに財政法4条に基づく本格的な国債の発行に支えられた積極的な有効需要の拡大策が41年度予算によって実行に移された。日本の財政は、昭和22年以後、均衡財政の方針に基づいて運営されてきたが、ここで国債政策の導入が決定されたことは大きな転換であり、これによって、財政の経済調節機能が強まることになった。

41年度の一般会計予算は4兆3,143億円で前年度当初予算に対し17.9%増と大型積極予算で、その伸び率は36、37年度に次ぐものであった。特別会計は14.7%、財政投融資は25.1%の増加であった。地方財政を含めた政府の財貨サービス購入は、前年度実績見込みに対して15%増が見込みまれており、40年度の伸びを上回ると共に、41年度の経済成長率の見通し11.3%(名目)をも上回るものとみられている。41年度の財政政策は、予算規模が大型化したばかりでなく、国税で平年度3,069億円、初年度ベースで2,058億円と戦後最大の大幅減税を実施することとしている。

大型予算の編成と大幅減税の実施によって、41年度の財政は、7,300億円の国債発行が必要となり、本格的な国債発行政策へ踏み切ることとなった。また41年2月には、公共事業等の早期実施を促進するため、2兆4,808億円の、一般会計、特別会計、政府関係機関、公団、事業団の建設事業費を対象として、上期中に約60%の契約を締結するという目標がたてられた。需給のアンバランスが徐々に緩和の方向に向かいつつあるところへ、このように、財政面から、積極的な需要拡大政策がとられたことは、その後の景気の好転をたすける大きな要素となった。一般会計のほか、特別会計、地方財政、政府関係機関等を含めた財政全体の役割を四半期別国民所得統計(速報)でみると政府の財貨サービス購入(在庫品増加を除く)の対前年同期比は、第1四半期は13.3%増、第2四半期は11.1%増であったが、第3四半期には19.2%増と、かなり高水準となり、第16図による通り、40年7〜12月の1〜6月に対する最終需要増加寄与度も約3割と大きかった。

第16図 最終需要の増加寄与度


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