昭和40年
年次経済報告
安定成長への課題
経済企画庁
≪ 附属資料 ≫
昭和39年度の日本経済
農林水産業
農業
昭和39年度の農業経済は、一般経済の景気調整による波紋を直接的にはあまりうけなかった。しかし、高い経済成長の過程を通じて行われた農家人口の流出を中心にして、農業はそれなりの変化も示したが、従来の農業生産構造を好ましい方向で急激に変えるほどのものとはなりえなかった。非農業部門における内容の充実を伴った高い成長に対し、農業は「とり残された低生産部門」としての停滞が示され、価格上昇や今後の輸入増大の問題等国民経済的にも重要な諸問題が表面化することは否定できないであろう。
以下39年度の農業経済動向を中心にみながら、そうした問題にも若干触れることにしよう。
農業生産
39年の農業生産は前年に比し43%上昇した。生産が上がったのは鶏卵、生乳の増加を中心とした畜産の上昇と、表の凶作からの回復、果実の増加による。
農業生産の内容をみると、39年も含めてここ4年ぐらい従来と異なった動きが示されている。 第7-1表 の下段は39年以前4年間と35年以前4年間のそれぞれ年平均成長率を示したものである。本表によると、後期は前期に比し生産増加率は鈍化している。豚、鶏卵の増を中心にした畜産の年平均15%もの上昇があり、また、果樹植栽面積の増加等がありながらも、一方で耕種生産(除く果樹、以下同じ)の停滞があったためである。
もとより耕種生産の停滞は、前期に比し後期の方が天候も比較的に悪かったこともあるが、一方において作付面積の減少、耕地利用率の低下、不作付け地の拡大あるいは最も働き盛りの農業就業人口の減少、小農的技術の一巡とその限界のみえ始めたこと、生産性の低い2兼農家の増加等を考慮すると、天候のみに理由づけすることはできない現象といえよう。
耕種生産は総合で前半の年平均増加率1.7%に対し、後半は(-)0.3%である。停滞の主内容は麦類、豆類、いも類の減少であるが、米も横ばいにたり、また野菜生産も依然不安定である。39年の農業生産の上昇についても、麦の生産増を除いて(凶作からの回復)考えると、この傾向は依然として続いているといえよう。
一方、生産増の激しい畜産の上昇は、需要増に支えられていた面が強かった。しかし、最近になると、従来より生産が著しく拡大し、鶏卵のように周期性を示しながら増加しているが、安値時の期間は従来より長くなり、また近郊酪農が、労賃、地代、飼料価格の上昇によって経営のウマミは少なくなり、経営を縮小する動きもみえ始めるし、酪農主産地では多頭飼育の方向が進みながらも依然飼料問題等経営上困難なことがらがある等、この面でも必ずしも楽観できない。
ともあれ、近時生産の停滞を示した耕種生産のうち、その主内容をなした麦、豆、いも類をみると、作付面積自体が減少している。作付け減は低生産力地帯からはじまって、いまでは、かつて相当の生産力をあげていた地域にまで及んでいる。作付け減の理由を表にみると、麦作労働報酬が兼業所得に比し不利なため、冬期間の出稼ぎあるいは兼業に従事するようになったからである。たとえは37年の麦作1日当たり労働報酬は建設業の土工1日当たり賃金に比し3割も低い。
米生産が横ばいになったのは、天候ということもあるが、その作付面積は陸稲で35年を水稲でも37年を頂点にして減少に向かい、また反当収量もほぼ横ばいである。米生産の上昇が鈍ったのは小農的技術の一巡とその限界がみえ始めた上に、それにかわる技術がまだ普及していないこともあるが、作付け減が北海道、東北を除いた地域でみられ、特に近畿、中国地方で激しいこと等を考えると、水田が宅地、工場用地になる上に、米作より年間安定した兼業へ男子主幹労働力が急速に移行していっていることによる面も強いだろう。特に近畿、中国は、零細経営が多く、2兼農家が多くなっているだけにそうである。また水田面積の増えている東北でも、冬期間の出稼ぎが多くなるばかりでなく、長期化し、夏場でさえ出稼ぎするものが生じている。
労働生産性の上昇が経営収益の増加に直接結びつかないような(例えば、機械を導入しても、小さい経営のため充分稼動できず、かえって経営負担を増す)零細な経営では、農業より有利な兼業により一層重点を置くようになり、農業生産は低収益農産物の縮小ないしは粗放化に始まってそれが漸次拡大していくという懸念さえある。
他方、農産物需要は増し、農産物輸入は急速に増大した。39年の農産物輸入額は前年の15億ドルから18.4億ドル(18%増)になり、総輸入に占める割合も22%から23%となった。30~35年当時の農産物輸入額がほぼ8億ドル程度で横ばいしていたことを思うと、急激な増加である。これに伴い農産物の自給度も35年の84.1%から38年には81%になった。これは資源状態等を考えればやむをえない面もあるが、基本的には国民の所得水準の上昇に伴う食料消費の増大と構造変化に対して、国内生産が主として経営の零細性によって十分に対応していないことによる。特に低い生産力の2兼農家等の零細な経営があることによって、国内の潜在的な農業生産力を十分いかしていないとすれば問題である。
農産物価格
39年度の農産物価格は前年度に比し、4.9%の上昇を示した。この上昇率は35年度以降各年度のそれに比べ最低のものである。上昇率が鈍ったのは米を除いた価格指数で、前年度より1%低下することからも分かるように、繭、畜産物を始め工芸作物、果実等が著しく低下し、米価の上昇等を相殺したからである。
4.9%の上昇要因は 第7-3表 で分かるように、米、野菜価格の上昇による。米価の上昇は労賃の上昇等によって政府買い上げ価格が前年産米より13.6%高められ、また自由価格も上がったことによる。野菜価格の上昇は春野菜が比較的に落ち着いていたのに、秋冬野菜が作付面積の減少に加えて天候不順であったため生産が著しく減ったことによる。
農産物ごとの内容に立ち入ってみると、特徴的なことが2~3ある。第(1)は政府で価格自体を決定するような米、麦、葉たばこ等の価格が従来になく上がったことである。農産物を価格政策対象農産物とそうでないものとに分け、その価格をみると、米、麦、葉たばこは38年度の対前年比上昇率7.7%を上回る13.1%の上昇を示し、「その他農産物」の上昇率(7%)よりはるかに高い。「その他農産物」の中から野菜を除く(天候不順)と対前年度比わずかに0.7%の上昇に過ぎない。39年度の農産物価格の上昇は管理制度農産物特に米の値上がりによるところが大きかったのである。
第(2)は一方で生産の増加あるいは周期性によって価格低下の激しかったものが多数あることである。まゆ、いも、い草、こんにゃく、みかん、豚肉、鶏卵等がそれに当たる。生産増による価格低下は当然のことであるが、その値下がり幅がみかん(15.5%)、こんにゃく(55%)等のように大きいこと、周期性とはいえ鶏卵のよのに、安値期間が長期化してきている等従来と異なった動きのあることが特徴的である。
他方、秋野菜や豆類のように生産減による値上がりもまた激しかった。
39年度の価格動向は、農産物価格の不安定性を強く表面に現し、また一方で価格の上昇は管理制度農産物特に米の値上がりが主要因になったことが特徴である。振り返って、やや長期的にみると、農産物価格の上昇、不安定性は国民生活にとって大きな問題を投げかける。他方、農民は、価格の上昇によって見掛け上の収入は増しても、資本効率の低下や兼業の進展、農業と非農業との所得格差が依然続いている等のことからも分かるように、必ずしも価格上昇により経営が資本蓄積を増し規模拡大の方向に向かっているとはいえない。
農業人口の流出
39年中に農家人口は約77万人の純減少となった。前年の65万人に比し18%の増加、減少率も前年の2.1%から2.5%に高まった。純減の主要因は従来と同じく就職による転出である。総減少人口のうち就職転出によるものが25%を占め、次いで「農家の減少に伴った」人口減で、両者合わせると純減少人口の42%に当たる。
就職による流出人口は85万人で、前年に比べ約5万人、5%の減となる。就職流出が前年より減ったのは、19歳以下のものが前年より約4万人も減ったからである。これは若年層が今までの間に相当流出したことと、新規学卒者が少なかったことに原因している。こうみると、就職流出人口が前年より減ったとはいえ、流出基調は依然続いているといってさしつかえなかろう。
就職形態を通勤と離村に分けると、前年とほぼ同様に、通勤53%、離村47%で、依然通勤による兼業就業が多い。
いま、38年12月の「農業調査」をみると、農家の家族員数の減少と共に、農業従事者中でも農業専従者の減少が激しく、他方農業従事者で兼業に従事するものは増加している。
「労働力調査」によると39年の農業就業者は前年の1240万人から1197万人に減り、総就業者に占める割合も26.9%から25.6%に低下している。また、さきの「農業調査」によると、農業従事者を基幹的、補助的従事者とに分けた場合、男子基幹的従事者の補助的従事者への移行と減少が目立ち、年齢別では30歳未満層の減少と40歳以上の増加が示されている。
農業就業者は以上のように減少するばかりでなく、残った就業者の女性化、老齢化が進み、また男子の基幹的農業従事者の兼業従事による補助的農業従事者への移行等質的悪化は急速に進んでいる。さきの耕種生産の停滞等と考え合わせると、大きな問題である。
農家経済の動向と構造変化
39年度の農家所得(現金以下同じ)は前年度より15.1%増加した。所得の増大は農外所得の増加におうところが大きかった。農業所得は米、野菜の価格上昇や畜産の生産増、あるいは表の凶作からの回復と価格上昇等により、前年度比13.7%の増加である。農外所得は労賃俸給収入の増加(前年度比17.4%増)等によって前年度より14.2%増えている。
家計支出は前年度比14.1%増し、消費水準の伸びも前年のそれを上回る7.7%の上昇が示された。全都市全世帯の伸び率より高い。しかし都市世帯と農家の消費水準の格差は依然として続き、農家の方がほぼ2割低い。
農家所得の増大、消費水準の上昇はここ数年続いた。これを支えた最も大きな要因は農外所得の増加であった。38、39年度の農家所得構成をみると、農外所得の比重はさらに高まり39年度には56.7%に達した(現物を含めた38年度の農家所得のうち農外所得の割合は51.9%である)。
農家の経済構造が、農業より兼業に重点を置くように急速に変わってきたのは、35年以降の高度経済成長と呼ばれる時からである。農家の常住家族員の就業構成をみると 第7-7表 のごとく、自家農業に就業するものの割合は、就業者全員のうち35年度に72.2%であったが38年度にはに65.2%低下し、一方臨時的、恒常的賃労働や職員勤務の比率は急速に高まっている。
また、農家の資金運用の方向を、35、37年度の比較でみると、 第7-8表 のごとく、農業への投資割合は相対的に低下し、一方、消費支出や資金蓄積(貯金が主)の比重は増している。38年度と37年度の比較では、固定資産購入の中に農業用と農外用とが含まれるため一概には断定できないが、農外用資産の増加もかなりあると考えると、概して農業への投資は停滞し、資金蓄積が増大しているとみられよう。
農家の経済構造が、兼業に重点を置くようになった原因は、資本効率の低下(農業固定資本千円当たりの純生産額は、34年度の690円から漸減し38年度には631円になる)等経営条件が必ずしも良くないことや、一方非農業部門での就業機会の増加したことなどもあるが、その外にも次のようなことがあったからである。
それは農業と兼業との所得格差である。 第7-9表 によれば38年度の専兼別農家の世帯員1人当農所得は専業農家100に対し1兼農家112、2兼農家124と特に2兼農家が高く、その所得水準の開きは37年度よりさらに大きくなっている。また世帯員1人当たりの生活費では所得ほどの開きはないが、それでもなお専業農家より2兼農家の方が13%高い。
また農家の生活費の上昇に対し、農業所得で補充する割合が年々低下していることもみのがせない。農業所得による家計費の充足率は35年度の58.1%から年々低下し、38年度には54.4%になった。
こうした諸要因がそれぞれ絡み合っている状態の下では兼業化は一層進まざるを得ないであろう。事実38年12月の「農業調査」にみても、兼業農家数は総農家数の実に76%に達し、2兼農家は42%に及んでいる。
農家の経済構造が兼業比重を高めていくのは、個々の農家の立場からすると農家所得を上げ、また生活水準を高める上でやむをえない対応である。しかし、一方で農業生産の拡大という立場からは、喜ばしい現象とはいえない。例えば 第7-10表 によって、専兼別農家の農業生産性をみると、同じ経営規模でも土地、労働生産性は専業農家に比し2兼農家の方が3割程度低い。また、38年度と37年度の比較では、土地、資本生産性とも2兼農家は前年度より低下し、専業農家との格差を一層拡大している。これは2兼農家がある程度農業経営を粗放化し、より兼業面に力をいれ、また資本効率も専業農家等に比べ低下がはなはだしいことを物語る。
しかし、兼業農家が近い将来急速に離農する可能性は少ない。もちろん、兼業場面での賃金の上昇等によって、離農が認められないでもないが、全体としては非常に微々たるものである。それは周知のごとく、兼業先が中小企業などで比較的賃金が低い等労働条件に不安のあることや、老後の社会保障が充分でないこと、あるいは耕地を手放した後の生活条件が、現状より必ずしも良くなるとはいえないからである。
農家の経済構造のこうした変化は、農民が兼業所得を含めた農家所得全体によって非農業就業者の所得との均衡化を図ろうとする現れで、農家の生活水準向上には大きな意味がある。しかし、一方では土地資源の有効利用、農業総生産の増大ということ等からみるとマイナスでさえある。先にみた耕種生産の停滞等の問題も、その基調に農家経済構造のこうした変化があることは注意しなけれはならない。
39年度の農業経済動向は以上のごとくみると、今までに激しい人口流出がありながら農業生産構造がそれに伴って対応できえなかったための諸矛盾が従来より強く表面に現れた年であるといえよう。農産物価格の上昇、農産物自給度低下の問題等国民経済の安定成長のためにも解決の方途を見いださなければならない問題が提出されたのである。
農業は高まる農産物需要に対し、それを補うために総生産を高めながら、同時に価格の著しい上昇がなくとも、経営としての利潤がえられるような新しい経営タイプを創造しなければならない。果樹、畜産部門等ではそうした芽が若干認められるが、日本農業の大宗である米作部門等では今までのところあまり進んでいない。
農業の遅れている原因には、いろいろあるが、その1つは経営としての収益性があまりに低いことにあろう。「農家経済調査」による農業純生産額を地代、資本利子、労賃部分(労賃+税部分+企業利潤)とに分けると 第7-11表 のごとくなる。
時価で評価した地代部分と資本利子を支払うと、残る労賃部分はわずかに農業日雇い賃金水準程度に過ぎない。投資の増大による労働生産性の上昇も経営としての収益増には直結していない。こうした低い収益性の下では投資増も含めた規模の拡大を個々の農家が自力で行うのは困難である。
経営としての収益性を増すと共に農業全体としての生産力を高めるのには土地の流動化国有林野の適正な活用等による経営規模の拡大、生産基盤の整備、長期低利の財政投融資の集中的な投下、機械化営農技術体系の完成、価格の安定等が必要である。
他方、兼業農家に対し、離農の円滑化を図ると共に、離農し難いものについては協業等による生産力の発展対策等も必要である。
さらに国民経済全体との関連において、農業に関する長期的展望と施策を早急に確立することが重要であり、特に将来、日本農業の担い手となるべき自立経営を指向する農家層の発展する条件を整備することである。
林業
木材需要の動向
39年中の木材需要量は6,637万立方メートル(各需要部門への入荷実績)で前年に比し4.4%増加した。このうち、製材用は4,546万立方メートル(前年比5.3%増)で総需要量の68.5%を占め、製材の約70%が建築用材として出荷されている。従って、木材の消費量は建築の動向と密接な関係を持つわけである。ところで、建築着工量の動きをみると38年10月以降39年6月までは毎月前年同期水準を2割以上も上回る活況を呈したが、7月以降需要の基調が変化し、前年同期水準に対して7~9月8.1%増、10~12月6.8%増と増勢が鈍化したため、39年中の着工量は前年比18.2%の伸びとなった。その内容をみると、用途別では、前年最も増勢の著しかった商業用サービス業用が停滞し、38年末以来増勢を強めていた鉱工業用も39年10月以降は景気調整の浸透により前年水準を下回るに至った。構造別によると、木造も前年に比し7.0%増加したが、非木造の伸び29.3%を大きく下回り、このため、木造比率は前年の49.7%から39年は45.0%に低下した。
次に、木材需要の第2位を占めるパルプ用材についてみると、39年中の消費量は1,643万立方メートルで前年に比し7.5%増加した。これを種類別にみると、針葉樹素材が410万立方メートルで、前年比1.1%減、広葉樹素材が473万立方メートルで、ほぼ横ばい(0.4%減)であったのに対して、チップは755万立方メートルと19.1%増加した。その結果、パルプ原木の使用比率は針葉樹素材24.9%、広葉樹素材28.8%、チップ45.9%となり、引き続き針葉樹に対する広葉樹、素材に対するチップの使用比率が高まっている。また、チップのうちでは、針葉樹チップが374万立方メートル(前年比8.2%増)、広葉樹チップが381万立方メートル(前年比32.2%増)と広葉樹チップの増加が著しく、広葉樹チップの使用量が針葉樹チップを上回るに至ったことが注目される。その他の主な需要部門では、合板用が493万立方メートルと前年より13.4%増加したが坑木用は143万立方メートルと前年比8.2%減となった。
木材価格の動き
木材価格の動きを日銀卸売価格指数についてみると、以上の国内の需要動向の下で前年度に引き続く大量の外材輸入が行われたため供給過剰の様相が続いて、年初来弱含みに推移し、5月には前年の水準を下回るに至った。6月以降も金融引き締めの浸透により需要は当用買いに終始し、秋の需要期に当たっても例年のような積極的な手当はみられなかった。また、夏場以来資金繰りが急速に悪化したため、木材業界においても倒産が目立ち、信用不安が高まるなど、悪い環境が続いた。このため、木材市況は全般的に軟調裏に推移し、39年の価格指数(日銀調35年=100、素材、製材、加工材平均)は125.6と前年度を0.2%下回った。
国内生産の動向
木材の需要は国内生産と外材輸入によって賄われているが、39年の素材生産は5,068万立方メートルで前年比1.0%の伸びに留まり、外材のウェイトは年々高まってきている。このため、木材需要に占める国内生産の割合は、35年には88.7%であったが、38年には78.2%と、さらに39年には76.8%と低下した。
国内生産を国有林、民有林別にみると、国有林からの供給が比較的安定した伸びをみせているのに対して、民有林からの供給は、38年3,488万立方メートル、39年3,504万立方メートルと36年の3,767万立方メートルをピークとして停滞の傾向を示している。民有林からの供給が停滞しているのは、製材工場を始めその他の需要部門において外材の入手が比較的容易になったこと、また一方において、木材価格の横ばい傾向が森林所有者の生産意欲を減退させていることなどが影響したためと考えられる。
なお以上の要因に労働力不足等も加わって、民有林の人工造林面積も36年度以降漸減を続け、38年度307千ha、39年度は297千ha(概数)と前年度より1万ha減少した。
このような素材生産及び人工造林の停滞ないし後退は林業総生産の増大を阻むと共に、一般に就労機会が乏しく人口流出の最も激しい山村を中心とするものであるだけに、山村振興の面からも重要な問題をはらんでいるといえよう。
外材輸入の動向
39年中の外材輸入は、針葉樹を主体とする米材、ソ連材の輸入が着実に伸びたのに対し、ラワン材の輸入が停滞したのが注目される。しかし、外材全体としては1,530万立方メートルと前年を9.4%上回り、その輸入金額(通関)は4億3千8百万ドル(前年比8.1%増)となった。
製材用原木についてみると、外材への依存度は年々強まっており、39年中の製材用素材の入荷量は、国産材3,447万立方メートル、外材1,099万立方メートル、計4,546万立方メートルで、製材工場の外材への依存度は前年の21.3%から39年は24.2%へと高まった。
以下、ラワン材、米材及びソ連材のそれぞれについてみると、ラワン材の輸入は、前年まで順調な増勢をたどってきたが、39年は前年からの繰り越し在荷が多かったことや、フィリピン産地の出材減などから、787万立方メートルと前年のほぼ横ばいに留まった。しかしながら需要量は850万立方メートル(前年比13.0%増)と依然として増加しており、40年以降もラワン材に対する需要は、合板用、製材用ともかなりの伸びが見込まれている。
ところで、ラワン材の主たる供給地であるフィリピンにおいては、生産地が漸次奥地に移行すると共に、優良資源が減少してきているので、先行き円滑な輸入を続けることができるかどうか懸念されている。
このような情勢の下で既に開発の緒についた東カリマンタンの森林開発は、ラワン類の有望な新供給源として大きな期待がかけられており、現在の計画では数年後には毎年110万立方メートル程度の輸入が見込まれている。しかし、ラワン材に対する今後の需要動向を考えると、さらに、国際協力により供給源を積極的に開発し、必要な輸入を確保することが望まれている。
米材についてみると39年中の輸入量は411万立方メートルで、前年比15.5%増と着実に増加し、これまでの最高を記録した。
その内容をみると機種別では、前年に引き続き米ツガが最も多く、68%を占め(丸太55%、製品12%)、スプルース12%(丸太6%、製品6%)、米マツ9%(丸太7%、製品2%)がこれに次いでいる。揚地別では、前年に比べ京浜、阪神揚げが若干減少したのに対して、地方港への入荷割合が増加した。
米材の過半を占める米ツガ丸太は、前年を24.6%上回る216万立方メートルに達したが、全国各地に入荷して国産材製材用針葉樹の供給不足を補っており、特に港湾都市に発達した製材工場にとっては、今や欠くことのできないものとなっている。しかしながら北米産地の事情については、資源的にはフィリピンにおけるラワン材ほどのひっ迫感はないが、我が国の買い付けがワシントン、オレゴン両州に集中していること(ワシントン州60%、オレゴン州28%)、我が国の買い付け増加による産地価格の値上がりなどから、産地の製材工場を中心として丸太輸出制限運動が起こされており、また、最近は米国側の製材品の輸出を拡大しようとする動きもあるので、今後のなり行きが注目されている。
ソ連材の輸入は昭和29年に再開されて以来、年々その規模が拡大され、39年の輸入量は前年を29.0%上回る240万立方メートルと順調な伸びを示した。
ソ連材は、エゾマツ、トドマツ、カラマツ等の針葉樹が主体で、その用途は製材用(73%)とパルプ用(24%)が大部分を占めているが、資源的な懸念がなく、距離的にも最も有利な地位にあるので我が国の木材需給に占めるソ連材の重要性は今後高まってくるものと考えられる。
林政の動向
木材需要は主として建築部門や紙パルプの需要を中心に増大しているが、供給については、外材の輸入が増加する反面、国内生産が停滞すると共に、造林の後退がみられるなど、幾多の問題がでてきている。このような事態に対処して林業の安定した発展のためには、林業総生産の増大と生産性の向上を図ることが第一であり、それと同時に林業従事者の所得を増大し、その経済的社会的地位の向上を期することが、当面の林政の重要な課題となっている。
昨年6月に制定された林業基本法は、このような時代の要請にこたえるために、林業の振興に関する基本的な政策の目標を明らかにしたもので従来の林政に一転機を画したものといってよいであろう。
しかしながら、法律成立後間もない事情もあってこれに基づいた新政策の大幅な進展はみられなかったなかで注目されるのは92市町村を対象として林業構造改善事業の計画が作成され40年度から事業実施の運びとなったことである。
一方、国有林野事業の経営については、40年3月31日に中央森林審議会から答申が出されとりわけ、企業性と経営の責任体制を強化することが要請されている。
水産業
漁業生産の概況
昭和37年をピークとしてその後下向してきた漁業生産量は、39年も引き続き前年より減少した。これはさんま捧受網漁業と、いかつり漁業が空前の不漁であったことによる。39年の漁業生産を主要漁業種類別にみれば次の通りである。
遠洋性漁業は、37、38両年にわたった減少傾向を脱して前年比4%の増加を示したが、これは北洋母船式底びき網漁業が回復して大きく前年を上回り、遠洋トロール漁業が順調に伸びる等遠洋底びき網漁業の伸びが著しかったためである。一方かつお・まぐろ漁業は前年をやや下回り、以西底びき網漁業は生産水準の低下がみられ、さけ・ます漁業は気象と海況の異変によって日ソ漁業交渉による規制枠の一部を取り残してしまったが、母船式かに漁業は各船団とも規制箱数の缶詰の生産をあげた。
沖合性漁業は、中型底びき網漁業が北海道沖合漁場のすけそうたらの豊漁により、また、あぐりきんちゃく網漁業が東シナ海や九州沖合漁場の豊漁により、それぞれ記録的漁獲量をあげたが、さんま棒受納漁業といかつり漁業が太平洋岸の冷水現象及び39年9月下旬の台風20号による三陸海況の激変の影響を受けて空前の減産となり、合計では前年より13%の減少となった。
沿岸性漁業による漁獲島は183万トンで、前年に比べ2%の減少となった。このうち家族労働を主としていとなまれる沿岸性小生産漁家層の中核的な漁業である小型底びき網、つり、はえなわ、刺し網等の小型漁船漁業の生産は、引き続き伸びて前年比15%増と好成績であった。しかし定置網、地びき網、船びき網等沿岸大型網漁業は、海況の不順にわざわいされ季節回遊魚の不漁を招いた地域があって前年より12%下回った。なお採貝、採草漁業では、前年が貝類の異常発生によって特によかったことや北海道において夏期の長雨冷害によりわかめ、こんぶの収穫が悪かったため前年比15%の減産となっている。
浅海養殖漁業では、養殖真珠が引き続き増産され、魚類等の養殖は前年の倍近い収穫量をあげたが、かき養殖は前年をやや下回った。
水産物価格及び需要の動向
生鮮水産物の生産地市場価格は、月別に前年と比べてみると、前年より上昇したのは、2、7、8、11、12月であったが、特に39年の11、12月はさんま、いか等の大凶漁の影響を受けて異常に高騰した。年間総平均価格では年々上昇している。(農林省統計調査部「水産物流通統計」)
卸売価格の推移を六大都市中央卸売市場の年間総平均価格によってみると、1キログラム当たり37年116円、38年181円、39年142円と上昇しているが、39年は前年比8%の上昇であり、38年(前年比13%上昇)より上昇率は鈍った。
水産物の消費者価格は、毎年上昇を続けてきているが、39年は前年比10.6%の上昇で38年(16.8%)より上昇率は鈍化した。(総理府統計局「小売物価統計調査報告」全都市)
このように昭和39年の水産物の価格は、一部魚種を除き一般的に前年より上昇率は低下したものの、なお高水準で推移した。
水産食品の需要は、生活水準の向上に支えられて、畜産品の伸び率には及ばないが、なお着実に増大している。家計消費(総理府統計局「家計調査報告書」)からみると生鮮水産物の年間1世帯当たりの消費量は年々減少してきたが、39年は前年をやや上回った。特に大衆魚より高級魚介類の消費が伸びている。加工水産物についてみると、年間1世帯当たりの消費量は、塩干魚介類等の低次加工品は引き続き前年より減少しているが、魚肉ハム・ソーセージ等の高次加工品は増加している。
このような需要構造の変化の影響でぶり、さわら、えび等の高級魚介及び高次加工品の原料魚の輸入が激増して、39年の生鮮冷凍魚介類の輸入は96千トンと前年の倍以上となった。また塩干魚介類も11千トンと前年の倍近く輸入され、特にさけ・ますの卵、くらげ等輸入自由品目でし好品的食品の輸入が激増した。水産飼肥料についてみると、畜産業の振興特に養鶏業の発展による魚粉の需要が著しく増大しているが、その国内生産は、昭和37年をピークとして下向している。このため39年の魚粉の輸入は102千トンと38年の1.2倍に増加した。昭和39年の水産物輸入総額は9千万ドル近く38年の1.5倍に激増した。
水産物の輸出は、近年国内需要の増大による輸出意欲の低下、魚価の上昇による原料魚の入手難によって停滞気味であるが、昭和39年は日ソ漁業交渉や、国際捕鯨委員会の交渉の結果生産が減少しているさけ・ます缶詰や鯨油以外はおおむね前年を上回った。特に前年中毒事件により減少した冷凍まぐろ類の輸出は回復し、養殖真珠は順調に伸長した。このため水産物輸出総額は3億1千万ドルとなり、前年より増加し、戦後最高を示した37年とほぼ同額に達した。
漁業経営体の動向
漁業経営体数は第3次漁業センサスによると、昭和38年11月1日現在226,933で28年(第2次漁業センサス)に比べ、10年間に10%減少している。これは無動力漁船階層が毎年減少を続けついに28年の44%に激減したことが最大の原因で、この階層は生産性が極めて低いため他産業に転出したり、小資本でしかも経営上有利な小型動力漁船漁業や浅海養殖業へ移動している。このため5トン未満の小型動力漁船階層やのり、真珠等の養殖階層が毎年増加を続けている。定置、地びき網漁業では、漁獲の漸減や労賃の高騰のため、経営困難になってきたものの廃業により経営体数は減少している。沖合、遠洋漁業では、10~30トン、30~100トン、100~200トン階層はそれぞれ32年、34年、32年まで増加したが、その後減少している。これは中規模漁船階層において、遠洋漁場への進出や漁撈装備の近代化により経営の安定を図るため、漁船の大型化傾向が進んだためで、この結果、200トン以上の大規模動力漁船階層が増加している。
漁業就業者の第二次、第三次産業への流出は続き昭和28年に比べ38年の漁業就業者数は625,935人で28年(790,028人)に比べ21%の大幅な減少となった。このうち自営漁業のみに従事した就業者は4%の減少、自営漁業と漁業やとわれの両方に従事した就業者は51%の減少、漁業やとわれのみに従事した就業者は34%の減少となっている。特に沖合、遠洋漁業においては、国民経済の高度成長による労働需要の増大によって、労働条件の厳しい、海上労働を主とする漁業より労働条件のよい陸上産業部門へ移動する傾向が強まり、雇用者の確保が困難になってきており、中規模漁船階層の経営体数減少の1つの原因ともなっている。
水産業の当面する課題
我が国の漁業生産は昭和37年をピークとして減少しており、漁業技術の向上や新漁場の開発等により今後増加するとしても、そのためには格段の努力を要するものと考えられる。沿岸漁業においては、就業人口や経営体数の減少傾向は漁場条件を緩和し生産の選択的拡大を可能にする面もあるが、新技術の導入や機械化により生産性を高めると共に栽培漁業の推進による水産資源の維持増大を図るなど積極的な措置を講じることが必要である。沖合、遠洋漁業においては、就業者の減少をみているので、労働条件の改善や省力技術の導入が急務となっている。また漁業の国際的規制が強化される気運がますます強まっているので漁場の拡大が漸次困難になりつつある上、遠洋漁業に積極的進出を図る国が最近増えているので、我が国水産業の合理化を図ってその国際競争力を強化する必要が増大している。
一方国民生活の向上に伴い水産物需要は増大の傾向をたどっているので、今後とも水産物の輸入は増加するものと考えられるが、水産物輸入増加の国内水産業に及ぼす影響に対してどう対処するかが問題となろう。また消費増大に対処して漁獲物の有効利用を進めるため加工の高度化、冷凍、冷蔵設備の拡充及び冷凍魚の普及促進等がますます重要な課題となろう。