昭和39年
年次経済報告
開放体制下の日本経済
経済企画庁
昭和38年度の日本経済
中小企業
浸透しはじめた引き締めの影響
38年末以降の引締政策の実施後39年度にかけて、中小企業の生産活動は自由化を控えて増産体制を続ける自動車部品、輸出船ブームに支えられている造船関連機器、さらには合繊織物、合板、陶磁器、食品などの消費関連産業などを中心に依然活発であり、その生産活動は39年1~3月、4~6月共に前年同期をほぼ20%方上回っている。しかしながら、製品価格、資金繰り状況の変化をみると、 第4-7図 及び 第4-8図 に示すように39年に入って販売価格の下落、資金繰り窮屈化を訴えるものが次第に増えはじめている。販売価格は需要堅調を続ける食品、繊維2次製品、雑貨などの消費関連業種でも低下傾向を示し、また金属、機械などの下請け中小企業でも親企業からの値下げ要請はより一層強まりはじめている。一方、資金繰りは資金需要面では販売回収条件の悪化、在庫資金増、設備資金増などによってますます増加傾向をたどっているものの、調達面では金融機関の選別の強化にともない長期、短期資金の借り入れ難が目立ちはじめ、資金繰りは窮屈化の方向にむかいだした。また38年の景気上昇期には沈静化した企業の整理倒産は39年に入って増加し、39年1~3月の整理倒産件数は711件と前年同期の332件をかなり大幅に上回った。引き締め数ヶ月後の中小企業への影響は前々回(32~33年)及び前回(36~37年)に比べるとその浸透の度合いは弱いことは生産活動が衰えをみせず、依然高水準を続けていることに裏書きされているが、企業の手元流動性の取り崩しが行われながらも大企業同様かなり高い状態にあること、また政府の中小企業金融対策が早めに実施されていることなどがあげられる。
しかしながら、この引き締めによる影響の浸透のなかで無視することができないことは、引き締めという循環的な要因と構造的な要因が絡み合って中小企業におよんでいることである。この構造的要因には既にの述べたように人件費の増加、設備投資の増加による金利負担の増大のほか、さらにその背景には大企業の中小企業分野への進出、大企業による系列の再編成、企業間格差の増大などがあげられる。特に大企業が在来中小企業がしめていたシェアに進出してきたものには例えば自動販売機、自動ガス湯沸かし器、石油コンロ、モザイクタイルなどがありその事例は少なくない。また機械、日用品、雑貨などの中小企業の生産シェアの変化をみると、 第4-9図(1) 第4-9図(2) に示すように中小企業の比重低下を示しているものは多く、それだけ中小企業と大企業との競合関係は増大しているといえよう。
これと同時に大企業による傘下系列の再編成や中小企業自体の企業の優劣格差は増大している。38年末から39年にかけて続出した整理倒産のなかに売掛金の回収難、在庫の増加などの理由によるもののほか、親企業の系列企業に対する支援の打ち切りによるものや、過去における赤字の累積、業績不振、放漫経営などによるものが意外に多いことはその間の事情を物語っている。
38年の景気回復過程で中小企業の生産、売り上げは大企業を上回る回復を遂げたものの再び金融引き締め局面を迎えた。中小企業は内に労働力の不足、人件費の上昇、外に開放経済体制への移行、親企業からの単価切り下げ要請、販売競争の激化など、そのとりまく諸環境はますます厳しくなってきた。このような日本経済の構造変化のなかで、いかに中小企業がそれに適応し、健全なる発展を遂げるか、その課題と期待は大きい。中小企業の近代化、体質改善をより積極的に推進し、そのための強力な施策が円滑に実施されることがますます重要になってきた。