昭和38年

年次経済報告

先進国への道

経済企画庁


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新しい環境下の経済発展

経済構造の先進国化

労働市場の構造変化とその影響

近代雇用の急速な拡大

 最近数年における我が国近代雇用の拡大は著しい。30年以前の経済復興期においても増加就業者の大部分は雇用労働者であったが、その就職先は100人未満の卸小売り、サービス、軽工業等の低賃金分野が9割を占めていた。これに対し30年以降の高度成長期においては雇用者の増加は就業者の増加をはるかに上回るようになり、製造業の重化学工業を中心とする規模100人以上での増加が*はを占めるようになってきている。しかもこの大規模化の傾向は最近特に強まっている。

 近代雇用の急速な拡大の反面、前近代的な低生産性部門の就業者はかなりの勢いで減少している。農業就業者の減少は既に25年以降続いているが、最近急速にその減勢を強めており、37年には戦前ほぼコンスタントに維持された1,400万人の水準を約200万人下回っている。また製造業における在来産業においても寒天、足袋、蚊帳等を始め多くの産業において就業者の減少がみられ、家内工業等においては「厚生行政基礎調査」によると29年の33万8千世帯から36年の18万7千世帯に半減している。更に零細経営の減少は小売り、サービス等の流通サービス部門においても進み初めている。

第III-1-1図 増加就業者の地位別規模別配分(全産業)

 最近数年間、我が国の就業構造は急速に近代化が進んできているが、現在の構造を欧米先進諸国に比較してみると、第一次産業就業者の比重、就業者の中の雇用者の比率、雇用者の規模別構成比等ではいずれも若干の差があり、ほぼイタリア並といえる。ただ我が国も先進工業国並の新しい段階に入り始めたとみられるのは、第一次産業就業者が第三次産業就業者を下回ってきたことである。先進工業国の経験からみると、第一次産業就業者が第三次就業者を下回るようになると労働市場が大きく変化し、賃金格差の縮小や分配率の上昇等が生ずるといわれている。これは、労働力需要面においては近代雇用が圧倒的な比重を占めるようになり、労働力供給面では所得水準の上昇により出生率が低下し新規労働力の増勢が鈍化すると共に、農業過剰人口が減少すること等で需給関係が大きく変化してくるからである。

第III-1-2図 産業別就業人口構成比の推移の国際比較

 先進工業国のイギリスではこのような時期を19世紀半ばに、アメリカでは20世紀初頭において経験している。我が国もようやくこの時期に入り始め、労働力需給の変化、流動性の増大、賃金格差の縮小、賃金決定事情の変化等が生じている。今後の見通しにおいても労働力の供給面では41~2年ごろを境にして新しい段階に入ることが予想される。すなわち、新規学卒労働力は41年ごろに急増し、3~4年間高水準を続けた後45年から減少に転ずることが予想される。

 一方、労働力需要面においては所得倍増計画程度の経済成長が続くとすれば、45年以前においてもリタイアの補充を含めた追加労働力席要は新規学卒労働力の供給を上回ることが予想される。従って労働市場の構造変化のすう勢は今後とも続きその影響は次第に顕著になっていくものと思われる。以下このような我が国労働市場の構造変化とその諸影響についてみることにしよう。

 労働力の流動化

流動形態の変化

 近代産業の発展により雇用労働者が近代産業に集中するようになると共に、労働市場には2つの面において大きな変化が現れている。その1つは若年層労働力需給の求人超過への転化であり、他の1つは労働力流動性の増大である。まず近代産業への雇用集中の過程をみよう。

 近代産業への雇用集中は、第一に学卒就職者の大中企業への集中であり、第二は中途採用の増大による農業、卸小売りサービス、小零細工業から大中企業への移動である。

第III-1-1表 中学卒の就職先の規模別構成(全産業)

 新規中学卒の就職先をみると、32年¥j時は500人以上への就職の割合は16%であったが、37年には31%に拡大している。反対に100人以下では32年の63.7%から37年の36.3%に縮小している。特に自営業主の後継ぎとみられる農業への就職は30年に対し37年には4分の1に減少している。大企業は新規学卒採用を増やすと共に若年暦・中途採用を大幅に増加させている。中途採用は学卒にくら√くると景気変動の影響を受けやすいが、最近数年におけるすう勢は学卒採用を上回っている。当庁調べの「景気調整期の雇用・賃金調査」によると製造業1,000人以上企業の木工採用者に占める中途採用者の割合は33年の36%から37年は43%に拡大している。

 37年について大企業が採用している中途採用者の労働力給源をみると約2割が家事労働等に従事している未就業者の労働力への転化であるが、約4割が小売り、サービス、農業からの移動であり、残りの4割は中小零細工業からの上向移動によるものである。30年ごろまでの大企業への労働移動は景気調節弁としての臨時工的移動が大部分であった。従って好況期に中小零細企業から大企業に上向移動しても不況期には再び中小零細企業へ転落移動が行われるので移動による大企業への雇用集中は進まなかった。しかし、最近はこのような移動形態が大きく変化している。その1つは不況期においても大企業から中小零細企業への転落移動が行われず上向移動が進んでいることである。当庁調べの景気「調整期の雇用、賃金調査」によると37年においても上位規模への移動は6割前後を占めているのに、下位規模への移動は6~7%に過ぎない。第二は本工としての移動と臨時工からの本工昇。格が大きくなっていることである。前掲調査によると37年度においては景気調整の影響で若干その比率は低下しているが中途採用者のうちの本工採用者は34%、臨時工からの本工昇格者は31%に達している。これらの事実からみれば最近の労働移動は労働市場の構造変化を反映するものとみてよいであろう。

第III-1-2表 企業規模間移動の状況(本工)(製造業)

若年層流動化とその影響

 最近の大企業への労働移動は、依然として若年層が大部分を占めている点において労働力の流動化は限られた範囲内のものということができる。前掲当庁調査によると、1,000以上の大企業が採用した中途採用者のうち30歳以上の者は37年度においても本工では8%、臨時工では13%に過ぎない。最も35年の場合と比較してみると、5,000人以上の巨大企業では景気調整の影響を受けて30歳以上の割合が若干低下しているが、5,000人以下の企業ではいずれも30歳以上の割合が高まってきているので年齢別の流動化は少しずつ高齢層に広がりつつあるとみてよいであろう。

 こうした労働力流動性の変化は、労働力需給の変化を反映するものであり、中学高校卒の求人比率は景気調整─下の37年度においても約3倍の求人超過、30歳以下の若年男子については0、8倍とほぼ均衡の状況にあるのに、40歳以上では逆に5倍と著しく求職超過にある。

第III-1-3図 男子中途採用者の年齢構成

 労働力の流動化が若年層に限られ、若年層が大企業に集中する結果、若年層が離職していくかあるいは新卒採用が困難な農業、卸小売り・サービス。小零細工業等では年齢構造があらし令化し、企業の近代化や生産性の向上等にも影響を及ぼしている。

 国勢調査及び農林漁家就業動向調査等によると最近の農家においては後継ぎになる学卒者の他産業への就職と30歳以下の次三男、自営業主、後とり等の通勤、離村による他産業への就職によって農業就業者の若年層の比率は著しく減少している。農家経済調査によると主としてし自営農業に従事するものでは30年当時においては45%が35歳以下であったが、36年には32%に低下している。

 卸小売り、サービス、小零細工業等においても農業程その変化は激しくはないが年齢横道の高齢化傾向が続いている。

賃金決定事情の変化

賃金格差縮小のプロセス

 近代雇用市場の拡大、労働力の流動化及び需給の変化によって、長期にわたって形成されてきた大企業と中小企業間の賃金格差も30年以降縮小の兆候を示しはじめていたが、最近2~3年急速にその速度を速めている。またこれと併行して過剰労働力を基盤にして形成されてきた賃金決定事情も大きく変化しつつある。

 賃金統計によって最近の年齢別規模別格差をみると、若年届の規模間格差縮小は既に31~2年ごろに始まり、35年ごろにはほとんど解消する一方、36年ごろになると中高年層についても格差縮小が始まっている。格差縮小のテンポは次第に速くなり、37年には若年層について中小企業が大企業を上回る傾向さえ生じている。このような事情に労働力構成の変化─大企業におけるお若年層増大も加わった結果、平均賃金格差の縮小も著しく、500人以上を100とした30~99人、5~29人など小零細企業の格差は33年と37年間に10ポイント以上縮小している。

第III-1-4図 製造業規模別賃金格差

 規模別格差と並んで企業内年齢別格差も縮小してきている。1,000人以上大企業においては35年まではなお年齢別格差は加入を続けていたが、36年から縮小に転じている。また、30~99人の小企業においてはもともと年齢別格差は少ないうえに、33年ごろから縮小しはじめ、男子労務者の40~49歳に対する20~24歳の格差は33年の56%から37年の60%に縮小している。

第III-1-3表 賃金引き上げの方法と配分

 このような賃金格差の縮小は次のようなプロセスによって実現されている。第一は中学、高校卒など学卒者初任給の大幅上昇である。中学の男子の初任給は33年から37年までに87%も上昇し平均氏金の上昇率38%を大きく上回っている。特に15~99人の規模では91%も上昇している。第二は初任給引き上げに伴う在籍者賃金の調整である。当庁調べ「景気調整期の雇用賃金調査」によると製造業の約6割の企業は初任給引け子による在籍者の賃金調整を実施しているが、その中の約8割の事業所は、ベースアップと同時に初任給引き上げによる在籍者の賃金調整を実施している。調整の範囲をみると中小企業程全員調整の割合が高く、調整額についても定額調整の企業が多い。

 第三は中小企業の大企業を上回るベース・アップと一律引き上げ部分の拡大である。数年前においては一律引き上げ等は少なかったが、当庁調べの前掲調査によると37年においては100~999人の中小企業で46%、5,000人以上の巨大企業でも23%が一律引き上げで占められている。これ等の賃金引き上げとその配分方法の変化はいずれも大企業と中小企業の賃金格差と企業内の年齢別格差を縮小する効果を持っている。

賃金決定事情の変化

 労働力の流動化や需給の変化は、これまでの賃金決定事情にかなりの変化をもたらしている。労働力が過剰の時期には賃金決定の基準は企業の経営内容が中心であり企業ごとの決定が大部分であった。しかし、労働力需給の変化や流動化に伴って同一業種内の賃上げ額についてはかなりの関連性を持つようになってきている。当庁の前掲調査によると1,000人以上大企業においては、賃上げ率決定要素の中で最も大きな比重を占めているものは同種産業の賃上げ率であり、経営内容の向上を理由とするものは第二順位になっている。これに対し100~999人の中小企業になると同種産業の賃上げ率と労働力確保が第一順位となり、100人未満では労働力確保と経営内容の向上が第一順位となっている。また同一地域の賃上げ率は中小企業ほど影響力が強く、労使紛争回避については大企業ほど努力を払っていることがうかがわれる。更にベース・アップの決定時期をみると大企業ほど3~4月への集中度が高く、100人以下の小企業では年間を通じて引き上げが行われている。これ等の事実からみると春闘の賃上げが影響し合うのは主として同一業種間の労働組合の組織力の強い火企業においてであり、中企業になるとその関連性はかなり弱まり、小企業になると労働力の需給関係が賃金引き上げの主要因となっているといえる。このことは賃金引き上げについて労働組合の要求によらず会社側が提案している企業の割合が100人以下では8割、100~999人の中小企業でも5割近くを占めていることによってもうかがうことができる。

第III-1-4表 賃金決定の根拠理由

第III-1-5表 賃金引上げ決定時期別分布(ベースアップ)

構造変化途上の問題

生産性、賃金、消費者物価

 近代雇用市場の拡大に伴い労働力の流動化や需給関係の変化、賃金格差の是正と賃金決定事情の変化等、労働市場には構造的変化が進んでいるが、その変化が急速であるために摩擦的な問題も発生している。その第一は生産性、賃金消費者物価の問題である。製造業の賃金上昇上t30年から36年までについてはなお生産性上昇を上回っていない。これは国民経済生産性と全産業名目賃金との関係においても同様である。37年については賃金上昇は生産性上昇を上回ってはいるが、過去の景気調整期においても同様の事態がみられるのでこれまでの傾向に変化が生じたか否かは今後の推移を見守る必要がある。しかし、このような全体的な問題よりも重要なことは産業別規模別の生産性と賃金上昇のアンバランスが引き起こす問題である。我が国の生産性上昇率は大企業に比べると中小企業の上昇率が特に低く、資本財及び生産財産業に比べると消費財産業の上昇率が際立って低い。例えば生産性本部の生産性指数を消費財産業と投資財産業に区分してみると、 第III-1-5図 に示すように30年から36年までに投資財産業は77%の大幅上昇を遂げているのに消費財産業では16%の上昇に留まっている。更に製造業全体の業種を大・中・4・企業性別に分けてみると同期間に大企業が69%の上昇であるのに小企業では38%の上昇とかなり低い。中小企業の中においても資本財産業においては大企業の下請け系列が多いので、コスト上昇を抑えるために親企業の技術、賃金等の援助による設備近代化によって絶えず生産性の向上が図られている。これに対し中小消費財産業においてはこのような市場面の圧力が少ないうえに、技術や資金面の外的な援助もないので設備の近代化が遅れ生産性の上昇率はより一層低いのである。

第III-1-6表 時間当生産性と賃金・賃金コストの国際比較

第III-1-5図 部門別生産性と賃金コスト

 我が国の消費財産業と投資財産業の生産性上昇率のアンバランスは国際的にみても特に目立っている。例えば上述の分類とは若干異なるが1953年から1960年までのアメリカ、西ドイツ、日本の生産性上昇率を消費財産業と投資財産業に区分してみると、我が国は投資財産業においてはこれ等の国々よりも際立って上昇率が高いのに対し、消費財産業においてははるかに上昇率が低い。この結果欧米諸国においては消費財産業の生産性上昇率は投資財産業の6~7割であるのに対し我が国は3割に満たない。

 労働市場が供給過剰の時期にはこのような生産性上昇率のアンバランスは賃金格差の形成要因として働く、しかし、前述したように労働市場が変化し賃金格差が是正の段階に入ると消費財産業の賃金コストの上昇を引き起こす大きな要因となる。欧米諸国においては賃金格群はあまりみられないし、投資財と消費財の生産性上昇率の差も小さいので賃金コストの傾向にはそれほど大きな開きは生じない。

 しかし、我が国においては一方では賃金格差の是正段階に入っているので賃金上昇率は消費財や中小企業において上昇率が高まっているのに、生産性上昇の開きは依然として是正されていない。従って消費財や中小企業の賃金コストの上昇傾向はかなり強まってきている。例えば前述した生産性本部の生産性指数からの推計によると、投資財産業の賃金コストは30年から36年までに17%も低下している。これに対し消費財産業では、30年から36年までに25%も上昇。している。もしこの間消費財産業の生産性上昇率が欧米並に投資財産業の6~7割の上昇か続いていたとすれば消費財産業の賃金コストはほとんど上昇しなかったであろう。

 生産性と賃金との関係においてより大きなアンバランスが生ずるのは流通、サービス、農業水産業等の部門である。小売り及び個人サービス業の生産性を測定することはかなり難しいが、小売り部門について生活物資の供給量と従業者数から従業者1人当たりの取扱量の推移をみると30年から36年までに9%の増加に留まっている。この間の賃金上昇は38%であるから小売り部門全体としては約25%の賃金コストの上昇となる。しかし生産性上昇率には、業種別にかなりの相違があり、衣服身の回り品等ではこの間45%、建築材料耐久消費財関係では62%も増加しているのでこれ等の業種においては単位取り扱い品当たりの賃金コストは上昇していないものとみられる。

第III-1-7表 非製造業部門別生産、雇用、生産性、賃金(増加率)

第III-1-8表 個人サービス業の生産性の推移

 これ等の業種では需要の増勢も強く店舗拡充、従業員規模の拡大等によって生産性上昇率が高かったことによるものと思われる。これに対し、小売り部門のなかではかなりの比重を占める食料品関係では30~36年間に1人当たりで7%の販売量増加に過ぎない。しかし最近流通単命とまでいわれているスーパーマーケットの急速な進出は食料品関係が中心となっているので1人当たりの販売量は急速に増加し、流通部門における賃金コスト上昇の抑制要因として働くことになろう。

 個人サービス業の生産性測定は更に難しいが、東京都世帯におけるサービス利用回数と従業員数から生産性を推計すると、理容理髪業は29年から35年までに約31%上昇し、浴場は5%低下している。またクリーニング業では32年から35年の3年間に22%の上昇がみられる。サービス業においても需要が強く供給量が増大している業種においては生産性上昇率が高い。これに対し事業所センサンスによる賃金上昇率は29~32年には生産性の上昇率を下回っていたが、32~35年になると洗濯業を除き賃金上昇が生理性上昇率を上回っている。

 一方、農業と水産業等の第一次産業について生産指数と就業者数から推計してみると、農業では29年から32年には生産増加率が高く生産性は年率7%も上昇していたので、農業日雇い賃金の上昇を上回っていた。しかし、33~36年になると、生産の増勢が鈍り雇用の減少は更に大きくなっているのに生産性上昇率は年率4%に低下している。これに対し農業日雇い賃金はこの間年率10%も上昇している。また、このことが農家の自家労賃の評価を高める要素となっている。水産業の場合も生産性上昇率の低下と賃金の大幅上昇で賃金コストの上昇を招いている。

 一次産業の生産性上昇率の鈍化要因としては、生産量の増勢鈍化が大きく作用していると思われるが若年男子労働力が重化学工業等に流出し女子や老齢層の比重が拡大した労働力の質的低下も影響しているであろう。

 最近の重化学工業を中心とする近代産業の発展、労働市場の構造変化の途上において投資財産業部門における賃金コストの低下と消費財産業部門における賃金コスト上昇が目立ってきている。その基本的要因は近代化投資と新鋭若年労働力の投資財部門への集中である。もともと物価はコスト要因のみでは決まらない。市場における需給関係が大きく作用する。しかし、近代化投資が重化学工業や投資財産業に集中し過ぎるとコストと需給面から消費者物価の上昇を引き起こしやすい。それは需給面においては労働力や資源の投資財部門への集中の結果消費財やサービスの供給は相対的に低下するのに対し、投資財部門ではたとえ賃金コストが低下したとしても、そこにおいて生ずる支払い賃金の増加は消費需要の増加となって消費財部門に向かうからである。またコスト面では投資財部門の賃金コストの低下がそのまま製品価格の低下となって消費財部門の原材料価格の低下をもたらすとは限らないからである。更に資本財においては多少の価格低下が生じたとしても消費財の原価に占める減価償却費の割合はかなり低いのでコストに与える影響は大きくないからである。

 このような状況の下において消費者物価の上昇を抑制する道は消費財部門特に中小消費財産業、農業、サービス業等の近代化投資を急速に高めてコストと需給の両面からアンバランス足元することであろう。またこれと併行してこれ等の産業の労働者の質的向上を図ることが重要であろう。

中高齢労働市場と賃金体系

 第二の問題は労働力需要があまりに若年層にのみ集中して中高齢層の需給がそれほど改善されていないところに石炭、金属鉱山等から新たに中高齢層の離職者が発生して、中高齢層の労働市場に影響を及ぼしてくることである。

 企業が若年層をより多く求めようとするのは我が国の賃金体系が生活費の原則に立っている要素が多いために、若年層については労働能率に比べ相対的に安い賃金で雇用することが可能であることと、設備近代化に対する適応能力が中高齢′国よりも高いことにある。しかし、年齢別の賃金格差は小零細企業等では最近急速に縮まっているので年齢群による労働能率と賃金とのアンバランスは早急に是正されていくものと思われる。特に若年層は移動が激しいのに対し中高齢層は定着率が構いことを・考慮すると労働能率と賃金とのバランスが是正されていけば企業にとっては中高齢層を採用する方が有利となるであろう。問題は新設備、新技術に対する適応能力の問題である。この点に関しては中高齢届は相対的に不利であるので特別の施策が必要であろう。

 更に企業にとっても若年油を中心とする労働力流動化によって従来の生涯雇用制度的な労務管理体系に変容が迫られている。そしてその基礎をなす年功賃金についても初任給の大幅引き上げとその調整、ベース・アップにおける一律引き上げ額の増大等により次的に修正されつつあるが、賃金算定の基礎も従来の年齢、学歴、勤労年数等の属人的な要素から職務の内容や労働能率等への転換が進み始めている。労働省の調査によると職務給を採用している企業は37年9月において1,000人以上企業では21%である。また、新しい動きとしては合理的な能率給制度の検討等も進められている。職務給採用の場合重要なことは単に職務内容の評価によって賃金を決めるだけに留まらず、本人の能力に応じた適正な配置つまり労働能力の最も有効な活用ということであろう。これは労働力が過剰から完全雇用に向かう過程における労務管理においては特に重要な要素といえる。


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