昭和38年
年次経済報告
先進国への道
経済企画庁
新しい環境下の経済発展
開放体系移行への問題点
産業構造と国際競争力
産業規模の西欧水準への接近
生産規模の国際比較
1957年から62年までの最近5ヶ年脚の鉱工業生産の増加率をみると、アメリカ17%、イギリス14%、フランス28%、西ドイツ36%の増加に対し、日本はイタリアの63%をこえ、78%の最高の増加率を示してきた。その結果、現在における我が国主要産業の生産規模は、欧米諸国に比べ 付表1-(1) の通り、アメリカを別とし、総じていえば西ドイツに次ほぼイギリスと肩をならべるに至っているといえよう。アメリカに次資本主義諸国で第2~3位の生産高を占めるものは、発電量、重油、御鋼、特殊鋼(粗鋼換算)、銅、セメント等の基礎物資から、商業車、船舶、自動二輪車、テレビ、ラジオ、軽機械類、重電機器合計、電気機械合計、機械工業総計、プラスチック、合成繊維、繊維製品等の広範な主要物資にわたっている。第4~5位にあるものは、工作機械、アルミニウム、化学製品合計、電子計算機等で、これらも62年まで含めると第3位との差は極めてわずかであろう。これに対しガソリン、石油化学製品は6位と遅れ、更に際立って遅れの目立つのは乗用車であり、肉類、バター等の食料品も22位、27位という低位にある。
いずれにしても、フランス、イタリアではほとんどの業種が5~6位の規模であるのに対し、日本は2~3位の業種が極めて多いといら特徴を持っている。
各国の産業はそれぞれの歴史的背景をもち、産業構成は異なるのが当然であるが、我が国産業の先進諸国への急激な接近の姿を、産業のウェイトを示しながら試みに西ドイツと比較したのが 第I-3-1図 である。総じていえば、1957年には日本の主要産業の規模は西ドイツの約5~6割前後の業種が多かったが、1962年には、約8割前後の規模にまで追いついている。
日独比較からみた産業構成の特徴
最近5ヶ年間に主要産業の生産規模は、西ドイツの約5割増加に対し日本は約2倍に拡大したが、そのうち西ドイツでは、石油精製の3.3倍、自動車産業と一般機械の1.8倍の伸びが相対的に大きい。この結果、1962年の西ドイツ自動車産業の規模は約3兆6千億円に達し、これら主要産業のなかで第1位の産業となり、一般機械も2兆3千億円で、5年前の第1位産業であった鉄鋼業の2兆4千億円を抜いて第2位産業になった。これに対し、日本では、民生電機の5.3倍の増加率が飛び抜けて高く、次いで自動車産業と産業用電機(2.9倍)、石油精製(2.8倍)、一般機械(2.5倍)が急増している。産業規模としては、繊維と鉄鋼が約2兆1千億円で、5年前の第1位、2位の地位を変えず、自動車産業はまだ1兆1千億円で、電気機械(産業用と民生用の合計)の1兆9千億円や化学、一般機械に遅れ、第6位の地位にある。
つまり、ここでの特徴の第1は、日本と西ドイツで、共に伸びの大きい産業は自動車、石油精製、一般機械と変わらないが、この他日本では特に電機工業が、西ドイツでは化学工業の増大が目立っている。
第2は、我が国が西ドイツに追いつき、あるいは既に追い抜いている産業は、造船、繊維、トラック、鉄鋼、電機工業等で、西ドイツではいずれも既に伸びが相対的に低くなっているいわば歴史の古い産業である。
第3に、自動車、化学、一般機械は、我が国でも急増をみせている部門だが、これらは西ドイツでも現在高い成長性を示しているので、我が国の遅れを急速に取りもどすまでに至っていない。現在西ドイツでは、自動車産業が産業の中核的地位を占めるに至っているのに比べ、我が国の遅れは大きい。ただ我が国の化学工業を、西ドイツ化学企業が需要部門と結合している実情に即し、合成繊維、化繊、医薬品等を含めて比べると、我が国化学工業の規模も、西ドイツの約9割近くにも達しており注目される。化学製品は消費に関連が深く、1人当たり所得水準の最低より人口数により多く影響される性格が強いためであろう。
このような両国の各産業の現在における発展速度と産業規模の相違は、次のような要因によると思われる。1つは、発展段階の差異である。西ドイツは我が国より早く設備投資期を過ぎ、1955年ごろより消費革命の内容が乗用車にシフトした段階にある。そして、西ドイツ産業の多くは約3割~5割の輸出比率を持って、補い生産水準を支えている。これに対し、我が国は、設備投資強成長と、いわば家庭電化ブームによる消費革命期にあり、国内市場を基盤に産業の発展をみた時期にある。
2つは、我が国の国内市場が、その増加率のみでなく、その絶対的広さでも急速に西欧に接近し、特に、最近の年間平均1兆円をこえる総固定資本形成の増加額は欧米水準をはるかにこえ、また個人消費支出の増加額さえ、1957~58年当時とは大きく異なって、西欧水準に近づいている。この追加需要の絶対額が西欧諸国より大きかったことが、古い産業も新しい産業に肩をならべてかなりの伸びを示し、大きな産業規模を維持できた条件となった。
3つは、地理的条件の差が大きいうえに、自由化時期の差が考えられる。西ドイツはEEC内での特化が進められているが、我が国ではこのような現象は繊維造船を除き、まだそれほどみられない。
以上のように、西ドイツでは自助車や資本財輸出の増大、更に化学が主導する産業構成に移行しているのに対し、我が国では自動車、資本財産業の本格的発展をみせながらも、鉄鋼、繊維、機械の比重が大きい。
市場構造と国際競争力
残された問題業種
産業の生理規模の拡大に伴い、我が国企業の生産設備の近代化は目覚ましく、ここ2~3年の間に生産体制は質的変化を遂げ、物的な生産力の側面でみる限り国際競争力は急速に強化されてきている。
もちろん、なかには資源条件の韓国な万般、非鉄金属鉱業や、原料敬偽条件の劣化を生産性が克服し得ないソーダ、パルプ、過リン酸、一部の農産加工品等がある。自由化がこれらの企業にとって厳しいものとなることが予想される。
しかし、かつて「昭和35年度年次経済報告」で指摘した当時に比べ、今日では多くの産業の競争力は格段に強化されてきている。当時は、重化学工業の多くが、1つは市場の窮屈と技術の後進性のために、他は、新しい産業であるため、競争力が弱い産業とみられていた。前者には、特殊鋼、化学機械、工作機械、圧延機械、計測機器、乗用車、後者には石油化学、合成繊維、電子工業(オートメーション機器、計算機等)が代表例とされていた。
しかし今日では、合成繊維の生理はアメリカの約半分、西欧諸国の約3倍で世界第2位となり、機械類でも、化学機械、汎用工作機械の東南アジアや米、欧、ソ連への輸出、計測器のアメリカへの技術逆輸出等が36~37年ごろより始められたことが示すように、国内需要の多い機種の国際競争力は著しく強化されている。
しかし、一部の大型精密工作機械、大型建設機械、大型火力発電機、大型電子計算機、及び乗用車等は競争力が不十分なため、まだ自由化されていない。乗用車を除きこれら機械の需要量はそれぞれの産業規模に比べ極めて少ないとはいえ、これらはそれぞれ技術発展の方向の先端にあるものだけに、今後一層の努力が必要である。このうちでも産業構造上の影響力の大きさからみて、今日最も問題とされるものは乗用車であるが、この他既に自由化されているとはいえ国際競争力の面で問題の多いものとして石油化学工業を挙げることができよう。
自動車及び石油化学工業はそれ自体の産業規模が小さいうえに、関連産業の技術向上生産波及効果や雇用効果が大きい。例えば 第I-3-1表 にみるように、自動車工業が広範な国連産業の生産額に占める割合は極めて大きく、また36年の雇用者数はシャーシメーカー8万人、部品工業20万人、関連産業14万人、その他販売整備関係37万人、計約80万人と推計されている。石油化学製品についてみても、合成繊維、合成ゴムの他、例えばプラスチック製品は生活のあらゆる部面に漫遊しているが、これを小売価格で評価すると、約6~7,000億円となり、個人消費支出額の6~7%を占め、衣服費の支出割合8%に迫るものとなっている。このプラスチック製品のうち石油化学製品によるものは既に約半数近くに達している。
第I-3-1表 生産資材の精算額に占める自動車工業の消費割合
市場面からみた産業構造の現状
輸出産業に乗り出す電機工業
30年以降の設備投資強成長と消費革命による我が国経済の瓶成長の性格を最もよく示し、目覚ましい発展を遂げたのは電気機械工業であろう。 第I-3-2図 にみるように、西ドイツでは消費革命の段階が最近乗用車に移行し、民生用電機の伸びは鈍化し、約3割の輸出に支えられた産業用電機の伸びが相対的に上回る段階にきている。
第I-3-2図 産業用電機と民生用電機出金額(日本とドイツとの比較)
これに対し日本では、両者がほぼバランスを保って急激な成長を示してきた。1961年の電気機械総生産額1兆5千億円に対し、輸入はわずか165億円(うち重電機類約70億円)で、過去における重電機類の輸入の最同額をみても、1959年の227億円に過ぎない。これに対し輸出は1961年に、1,188億円(うち重電機類150億円)で、ラジオ、テープレコーダー、テレビ等の輸出は世界各国へいき渡り、海外への企業進出も数多い。
しかし、最近は民生用電機、産業用電機の両面で国内需要の増勢鈍化がみられるので、従来の内需中心のみでなく輸出が一層促進されるであろう。国際競争力は最も強い部門であるが、今後の問題は重電機等の延べ払い金融など企業の資本力や金融制度上の問題に焦点が移っている。
ただ、機種別にみれば40万kw級以上の大型火力発電機、あるいは大型電子計算機の国際競争力は、現状では極めて困難な状態にある。特に電子計算機はアメリカIBM社の独壇場で、1953年から61年までの民需用生産額累計は、アメリカ7,800億円(うちIBM社が約8割を占める)に対し、その他は、イギリス383億円、フランス90億円、日本65億円と、けた外れに格差が大きい。そのうえ、アメリカの電子計算機肝要の規模を1960年でみると、民需用約1,500億円の他軍需要約2,500億円があり、これらの膨大な需要を背景に、装置製作面の技術蓄積のみでなく、適用面の膨大な資料的蓄積が可能であって、他企業の追随を許さない条件を備えている。最も我が国の今後の両翼量の約9割を占めるものと推定されるfP小型機についてみれば、健m適用面での利用方法の遅れはさほど問題にならず、国産機の性能、価格もほとんど輸入機に劣らない状態にまで達しているものと思われる。従って今後は入出力装置の製作面における機械技術の弱さを克服できるならば、国際競争力を強めることは可能となるであろう。
鉄鋼業の先行性と乗用車の遅れ
我が国の自動車生産台数は、1962年には年間100万台をこえ、1961年のアメリカ665万台、西ドイツ215万台には及ばないが、イギリスの142万台、フランスの123万台に急速に迫っている。ただ乗用車のみでみれば、その差はまだ極めて大きい。しかし、上位企業の1963年巻の生産台数はトラックを含めた全車種合計で月間3万台に近づき、乗用車1車種のみでみても5~7,000百に達している。また生産工程上もトラックとの共用部門を加味すれば、その量産規模は月産1万台ラインを優に超えている。これをイギリスでのコスト算出諸元に基づき計算されたマクシイ・シルバーストンのコスト逓減曲線に当てはめてみると、欧米の月産3~5万台規模のコストに比べて7~8%の割高に過ぎない。この曲線による月産2~4,000台のコストは、元来月産3万台のコストに比べて25~30%割高のはずであるが、産業構造調査会「乗用車小委員会報告」によると、国産車のコストは15%の割高に過ぎないと報告されている。これは、労賃の割安が大きく影響しているためで、一部部品の割高、道路事情や営業車の過酷な使用に耐えるための設計目標の相違、特に重量が重いこと等の不利条件についても、労賃安と製造技術の優秀性がカバーしていることを意味する。従って、現実の上位企業の量産単位が月産1万台ベースに乗ったことは、欧米とのコスト差がほぼ接近しつつあることを物語っていよう。
完成車メーカーの設備近代化の一例を、乗用車量産効果のかなめともいえるプレスラインについてみると、我が国の上位企業で37年春に設置されたトランスファー・プレス・ライン(全自動プレス)は、欧米にも数少ない最新鋭機で、月産約8万個の能力を持っている。単一山種で月産8万台という世界一の生産水準にあるフォルクスワーゲンの工場は別として、他の欧州各社ではいずれも月産5~6万価の能力を持つ半自動プレスが中心で全自動プレスの使用はほとんどみられない。
このような最新鋭設備も現在の我が国における量産規模ではもちろんフル稼働できないが、この需要に先行した能力が、今後のコスト低下に及ぼす影響は大きい。
一方このような段階にまで達した自動車産業に対し、更に先進的な地位にある原料供給者としての鉄鋼業は、特に薄板生産のためのストリップミルの設置基数でアメリカに次ぐ第2位の新鋭設備をもち( 第I-3-2表 )、更に高炉の大型化や、製鋼段階の近代化の指標とみられる純酸素上吹転炉の設置台数などみても、その世界水準への接近の著しさが分かる。
第I-3-2表 ストリップミルおよび純酸素上吹転炉の国別の設置状況
いま、各国の自動車生産台数と粗鋼生産量との関係をみると、 第I-3-3図 のようになる。アメリカは自動車生産の増減と鉄鋼生産の増減がほぼ同じ傾向にあって自動車依存型の産業構造を示している。欧州諸国にはこのような関係はないが、イギリス、フランスに最近幾分この関係が現れている。イタリア、フランス及びイギリスは自動車生産に比べ鉄鋼生産量の割合が、日本、西ドイツに比べて極めて少ない。つまり、日本、西ドイツは設備投資の盛況や自動車以外の鉄鋼需要が極めてさかんで、英、仏、伊に比べ鉄鋼生産は自助再生産に依存する割合が少ないまま急増していることが分かる。西ドイツにおいては、乗用車が個人消費用として本格的発展を示し始めた1955年以降、 第I-3-3図 にみるように鉄鋼生産は全体として発願テンポが鈍る一方、自助車生産への依存率を従来より高めるようになった。日本では先にみたように自動車生産台数に比べ、薄板設備能力が相対的に大きく、自動車の素材供給能力は先行しているといえよう。これが反面において、設備投資テンポの沈静化と共に、現在の鉄鋼業の立場を苦しくする一因となっていることは否めないが、今後自動車工業がより大きい規模の産業として発展していく際の有利な条件となっていることは明らかである。
石油精製業の先行性と石油化学工業の遅れ
我が国の自動車保心台数に対する石油精製能力の比率は極めて大きく、さきの鉄鋼先行型と同じ関係が石油精製業にも存在する。 第I-3-3表 のように、我が国の原油処理能力(蒸留装置能力)は世界第2位であるが、ガソリン部門の分解、改質装置能力は小さく筋10位ぐらいに落ちる。我が国では重油需要がアメリカ、イギリスに次大きいため、原油処理能力がガソリン需要に先行して重油需要に見合って増強されたためである。
これに対し、西ドイツでも重油需要は西欧諸国のうちで大きく、幾分我が国に似た需要構造を持っている。しかし西ドイツ石油精製業の存立基盤は我が国と大きく異なっている。第1に自動車保有台数が我が国の2.4倍でガソリン消費世が大きいこと。第2に石灰の資源条件が有利なこと、第3に、EEC域内でのエネルギー資源の有効利用を図り、重油の不足分はイタリアなどから輸入できるため、原油処理能力を相対的に小さくして、分解、改質能力とのバランスが図られていることである。これはイタリア、フランスなどにおける天然ガスの開発、多角的なパイプ網の設置を伴った域内自由化が過渡したことによるのである。
このような、我が国石油精製業の構造的特質は、製油所廃ガスの発生量を少なくし、石油化学工業の原料基盤を諸外国と異なったものとしている。 第I-3-4図 にみるように、諸外国の安価な天然ガスの開発は別としても、我が国では安い製油所廃ガスの利用はほとんどなく、ナフサの熱分解方式が中心となっている。従って、我が国の石油化学工業は不利な原料条件下にあるといえる。
天然ガスや廃ガス利用による場合よりも、ナフサ分解方式は、エチレン以外に多くの分解物がえられるので、これら分解物の総合利用が図られれば、有利なはずである。しかし、総合化の不十分な現状で、安価な廃ガス利用石油化学と対抗するためには原料ナフサの低廉な安定供給が必要である。
エチレンの原価にナフサ価額が占める割合は約5割といわれ、低廉なナフサの入手は規模、操業度以上にエチレンコストに影響を与える。規模もほぼ西欧水準に到達しつつある現在、原料問題は残された大きな問題の1つである。
第I-3-5図 によると、我が国の石油化学工業は西欧諸国よりかなり遅れて出発したにもかかわらず、1961年の生産量で比較するとガソリン生産品しが低い割にイギリス、フランスより発達が早いが、西ドイツよりは遅れている。西ドイツがガソリン生産水準が相対的に低位にあるにもかかわらず、石油化学が急速に発展しているのは、西ドイツ化学企業の巨大な資本力と技術水準の高さによるところが大きい。一方、不利な原料条件下にあり、資本規模も小さい我が国石油化学工業が英仏に比べはるかに発展テンポが高く、西ドイツ並の成長を遂げたのは、その背後にある我が国化学製品市場の広大さにあるといえよう。化学製品市場が広いことは、石油化学製品の代替進出を容易にし、新規需要を急速に開発することを可能にした。
各国の化学製品売上高と石油化学製品生産高の関係をみると 第I-3-6図 のようになる。我が国の化学製品売上高の規模は最近急上昇を示し始め、1962年にはおそらくイギリスをぬいて、西ドイツに迫っていよう。石油化学製品の伸びも著しいが、企業化開始時期が遅かったため、生産量は西欧に比べてまだ低い。
このように、我が国の石油化学工業は、広大な市場を背景に今後も更に大きく発服する可能性を持っている。しかし、更に国際競争力を強化するためには企業規模、工場規模の拡大と共に、産業構造上からはエネルギー需要構造の特質からくる原料構造の国際的差異が問題となろう。
以上市場面から現在の我が国産業の国際競争力を巨視的にみると、電機工業は設備投資と消費革命の結果、積極的に輸出に向かいうるまでの急速な発願をみたが、乗用車工業は1人当たり所得水準の低さのため大きな遅れを示している。この乗用車普及の遅れは、我が国エネルギー構造の特質と共に石油化学工業の遅れをもたらす一因となっている。しかし、我が国のこれら問題業種をとりまく産業間の諸条件は、自動車普及の拡大をみるならば、西欧諸国に比べ鉄鋼、石油精製業などの原材料燃料部門の発達ならびに化学製品市場の広さのため、長期的には極めて有利な条件にあるといえる。
関連部品工業の発展と課題
以上みた産業間の不均衡な発展がもたらした問題点ととりこ、国際競争力上の大きな課題は、我が国産業の二重構造にかかわる問題である。
ここ数年間に我が国企業の設備、技術水準は急速に高められている。例えば、 第I-3-4表 にみるように、日、米、英の産業が保有する工作機械の経過年数をみると米、英が年々古くなっているのに対し、我が国では最近急速に新しいものに改善されている。
しかし、大企業が、技術導入や膨大な設備投資によって、その生産設備はほぼ間際的な水準に達しつつあるのに対し、関連中小企業の発達の遅れは大きい。
特に現在の課題は、1つは、系列上層企業が国際水準の設備を持った専門メーカーへ脱皮せねばならなくなっている点と、他は、例えば金型、特殊鋼、強靱鋳鉄等の基礎的分野の技術向上が求められていることである。
系列上層企業の発達と専門化については「昭和36年度年次経済報告」で触れたので、基礎的分野についてみよう。大企業の出産規模の拡大により、例えば金属金型、プラスチック金型の需要は急増し、しかも精度、耐久度の飛躍的向上が要求されている。従来のような少量年産のための金型なら焼き入れの必要はなかったが、需要産業の国産規模の拡大と共に焼き入れを必要とするに至り、焼き入れ技術の遅れの克服、手彫りから自動型彫り機等による設備近代化、職人的作業体制の変革などが求められている。この他、シェルモールド鋳造法、ダイカスト等の基礎的量産技術の遅れが表面化している。工作機械の発達は、鋳物部門での強靱鋳鉄の開発や、工具鋼における肺速度鋼などの品質向上、均一性の確保が必要とされている。このような事情が特殊鋼企業の一層の設備近代化を追っているのである。
これらの事例は、需要産業の規模が、西欧水準に接近するに伴い、中小、零細企業の質的変ぼうをもたらしていることを示しているが、我が国産業の国際競争力を強化するためには、なお一層の近代化が必要である。
我が国の技術水準
技術水準
生産技術水準の高さ
戦後の技術水準の向上は、ほとんど欧米技術の導入によってなされたといって過言でない。昭和37年度末までの外国技術導入件数は1,998件に達し、あらゆる業種に渡り、急速なキャッチ・アップが行われた。我が国の技術は導入技術の消化吸収のために大部分のエネルギーを致していた。かくして、塩化ビニール樹脂、ナイロン、トランジスター等にみられるように、導入先よりも優れたものかえられるようにさえなったものもある。生産技術については、大部分の業種が欧米とほとんど差がないという段階に達しているとみられよう。
これを、産業構造調査会技術部会で企業に対し行った業種別技術水準に関するアンケート調査でみると、総合では欧米と同等になったとするものが74%を占めている。その中でも欧米より優れているとするものが23%もあることは注し1すべきである。重化学工業と軽工業(その他を含む)に分けると、同等であるとしているのは前者が70%、後者が90%で、軽工業が重化学工業より国際的に優位にある結果がでている。近いうちに同等になるとするものが重化学工業に26%あり、軽工業では4%に過ぎない。技術導入の内容からみても、重化学工業国連技術が80%を占めており、キャッチアップの努力が重化学工業においてはいまなお盛んに進行中であるということがうかがわれる。業種別にまとめたのが 第I-3-7図 で、我が国の技術は生産技術でみる限り、企業の主観的評価としては欧米の水準に大部分追いつき、あるいは追いつく自信を持ってきたことを示している。
技術開発力の低さ
生産技術はこのように相当なレベルにきたが、これからは既存製品の合理化や、導入技術の消化、吸収による生産技術の向上ばかりでなく、むしろ、新製品の開発力が国際競争力強化のうえで問題となる。これは技術の蓄積によるところが大きく、生産技術のように技術導入によって急速に高めることができないため、わが門は未だ低水準にある。技術開発力を示すものの1つとして技術輸出状況をみると、昭和30年以降急激に増えてきたが、36年には70件、対価受取額は10億円に過ぎず、アメリカの500億円、西ドイツやフランスの100億円とは比較にならないほど低い。これらを技術導入支払額に対する比率でみると、西ドイツ30%、フランス40%、アメリカ6倍に比べて我が国は3%に満たない。
技術投資
このような低い開発力を高めるため、新製品開発のための研究投資を増やそうとする動きが企業内部で高まっている。既にビニロン、合繊原料ラクタムの光合成法、トランジスタ‐テレビ、CAS自動連続紡織機械等みるべき国産技術もうまれてきた。科学技術庁の調査によると、従来、企業の研究投資のうち、新製品開発投資は約18%に過ぎなかったが、これを50%にまで高めつつあることが示されている。このように、研究投資の中心が新製品開発におかれるようになれば、導入技術の企業化でえられたような、技術投資の効果は期待できなくなる。 第I-3-8図 のように技術導入製品充上席と国産技術新製品売上高に対する技術投資額を比較すると、いずれの業種も後者が高くなっている。アメリカの新製品売上高に対する技術投資額は更に高い価を示している。
各国の研究投資瓶を比較すると、 第I-3-5表 のように、総額ではアメリカ、イギリス、西ドイツ、フランスよりはるかに低いが、民間研究投資額ではフランスをこえ、イギリス、西ドイツと並んでいる。これを国民所得と対比すると、アメリカとほぼ同率になり、イギリス、西ドイツをこえ、企業の研究投資額は国際水準にきたことが分かる。これに対し、政府役節丈、国民所73対比0、5%で、アメリカやイギリスの4分の1、西ドイツやフランスの半分であり、我が国は政府研究投資が国際的に極めて低いことが分かる。
科学技術関係の大学卒業生数をみると、 第I-3-6表 のようにわが同はアメリカに次いで多い。しかし、全人口当たりではアメリカ、イギリス、西ドイツよりはるかに低く、イタリアと同程度となる。
国際競争力強化に伴う条件変化
昭和35年に「貿易・為替自由化針計画大綱」が決定さされた当時は、我が国の重化学工業の多くは、市場の窮屈と技術の後進性のため、あるいは新しい産業であるために、国際競争力が一般に乏しいとされていた。しかしその後、封鎖体制下での設備投資腕成長と消費革命の進展により、国内市場が飛躍的に拡大したことを契機に、これらの産業もその生産規模を高め、設備の近代化を進めて、国際競争力を一段と強めることができた。将来大幅な需要の増大が予想されるもので、今日なお国際競争力上の問題業種とされるものとしては、乗用車、石油化学、大型電子計算機等が挙げられているが、これらは、欧米諸国の例をみても、将来にわたってその国の経済発展の主要な担い手となるべき産業であり、早急な国際競争力の強化が望まれている。
封鎖体系から開放体系に向かう現時点に立って、我が国産業の到達点とその国際競争力を支えた諸条件を原料、設備、技術、労働力、市場の順にみてみると、そこにはいくつかの変化が認められる。
まず第1に、鉄鋼、石油精製、重電機など原材料、燃料、動力機械等の基盤産業が先行した産業構造は、遅れの大きい高度加工産業の今後の発願にとって、一面では極めて有利な条件をなしている。原料資源に乏しい我が国の原料自由化のメリットがこれに加わろう。しかし、これら基盤産業にとっては、今後の消費、輸出公共投資など需要構造の変化への適応が課題となっている。
第2に、短時日の間に設備投資強成長、最新技術の導入が行われた結果、現在の我が国主要産業の設備、機械はかなり最新鋭のものになっており、本格的稼動をみるならば、一層のコスト引き下げの可能性を持っている。しかし、これを企業経営的にみれば、今後の成長いかんにより、償却、金利負担の過大となってはね返る性格を持っている。
第3に、積極的な技術導入と経験技能の近代化により、生産技術は極めて高度なものに変わってきた。光雄諸国に追いつく過程では、この新技術導入が極めて有効に働き、西欧諸国の保寸的ともみられる伝統技術に急速に追ってきた。この過程では、自己開発技術の欠除は必ずしも不利条件とはならなかった。しかし、先進諸国との距離が縮まると共に、今後は自己開発力いかんが発展の必要条件に転化してきている。
第4に、相対的に低賃金で、しかも優秀な労働力が豊富であったことは、特に機械工業などの労働集約産業に有利な条件であった。今後も先進諸国に比べ相対的に有利ではあるが、特に若年労働力不足、賃金上昇傾向は必至であるので、一層の設備合理化を図らねばならない。
第5に、市場条件をみると、我が国の地肌的条件は、輸入防圧のためには有利であったが、今後の資本財輸出にとってはむしろ不利に働くこともある。また、技術導入によって輸入の防圧を図っていた多くの企業にとっては、技術の向上と共に今後はこれまでの技術導入に際して結ばれた輸出地域の制限条項が不利に働くことが多くなる。
以上みてきたように、我が国産業の多くは設備投資強成長で物的にみた国際競争力は極めて強化され、発展の可能性を持っているが、企業経営的には資本費負担の過大に陥っており、また我が国産業をとりまく諸条件も極めて有利に働く可能性をもちながら、これらの諸条件の多くは、国際競争力の強化と共に反対条件に転化する面を持っている。
このような情勢に対し、我が国産業に課せられた課題は、第1に産業間のむ機的結合を強め、先行した部門と遅れた部門との均衡回復を図ることである。1つは、需要構造の変化に対応する産業部門間の均衡回復であり、2つは、例えば、原料、中間製品、最終製品間を通じる加工段階間の緊密化であり、三つは、中小企業の近代化である。第2は、強化された国際競争力を積極的に生かし、輸出体制を確立することである。第3に、開放経済への移行に対処して、延べ払い金融問題など産業金融対策を強化すると共に、企業の資本力強化のための体制を整備する必要がある。