昭和37年
年次経済報告
景気循環の変ぼう
経済企画庁
昭和36年度の日本経済
国民生活
貯蓄の増加
36年度は農家を別とするとほぼ各階層を通じて貯蓄率が高まった。所得増加率の高い経営者、個人業主等の貯蓄率が高まるのは当然であるとしても、実質所得増加率が前年度より低下した勤労者世帯でも平均では前年度の貯蓄率を上回った。
全都市勤労者世帯についてみると、可処分所得の13.4%増に対し消費は12.1%増と所得増加率を下回ったため、消費性向は35年度の85.0%から83.9%へと低下し、家計の黒字率も前年度の13.9%から14.9%へ増加した。もっともこのような平均的にみた貯蓄率の増大は、後述するととく、高所得層の貯蓄率増大によるもので、低所得層では貯蓄率は前年度に比べて低下している。
貯蓄の内容をみると預貯金、保険、有価証券投資などの純貯蓄は前年度に比べて27.7%増と順調な増加をみせ、純貯蓄率も9.6%から10.8%へ増加した。これを年度平均でみれば、予貯金の37.7%増及び有価証券その他の36.8%増の両者がほぼ同程度の顕著な増加となったが、年度内の推移をみるときわだった変化がみられる。すなわち、年度前半は株式投資ブームを反映して、有価証券投資は前年同期比128%増を記録したが、年度後半の株式市況の不冴えと共に激減し、下半期には前年度の実績を15%下回っている。これに対して予貯金の増加は年度後半に著しく、上半期の前年同期比30%増から下半期には44%増の顕著な増加となった。もっとも年度後半におけるこのような予貯金の急増は社内預金の増大がその一因をなしている。すなわち、36年末には年末賞与を社内預金に振り向けることを奨励する企業がかなりみられたが、当庁調べ「景気調整下の労働実態調査」によると、社内預金者1人当たり社内預金残高は36年3月の11.7万円から37年3月の12.5万円へ増加している。また社内預金者もこの1年間で17%増加し従業員の中に占める社内預金者の割合も37年3月には67%に達している。この結果からみると、36年度の勤労者世帯の預金増加のうちかなりの部分は社内預金の増加によるものと推定されるが、特に36年度後半には社内預金の増加による預貯金の増加が大きかったといえよう。このような企業の金詰まりを反映した社内預金の奨励が、物価高騰の中でも勤労者の貯蓄率を高めた1つの要因になっているものと思われる。
一方、農家世帯の貯蓄率はほぼ前年並であった。すなわち、農家の可処分所得は17.0%増加したのに対し、消費17.0%の増加であったため消費性向に前年と変わりなかった。これは農家が現在耐久消費材の普及期にあるうえ急速な都市生活化が進行しているためであろう。