昭和37年
年次経済報告
景気循環の変ぼう
経済企画庁
昭和36年度の日本経済
労働
概況
ひき続く経済の高成長によって、34、35年度と労働経済は著しい改善を示したが、36年度に入ってからも、半ばごろまでは従来の基調を持続した。しかし、金融引き締めによる景気調整が産業の各部門に浸透するにつれて、労働面にも次第にその影響が現れはじめてきている。
まず、年度前半の状況からみよう。設備投資を中心とする経済の高成長により、雇用需要は引き続き強い増勢を維持したのに対し、生産年齢人口の増加数の低下という労働供給側の制約も加わったので、雇用増加率はやや鈍化したが、労働の需給関係はひっ迫の度を加え、中小企業の労働力不足は一層深刻さをました。
「毎月勤労統計」による年度上期の雇用増加率はかなり高く、特に、3、4月の入職期の入職率は、34、35年をこえるものであった。このような事情は、新規学卒労働市場の一層のひっ迫化をもたらし、中小企業における求人難を深刻にさせた。また、新規学卒者以外についても、中高年齢層を含めて、新規求人数が新規求職者数にほぼ近づき、労働需給全体としては有効求人数と有効求職者数とが均衡するなど、労働市場は大幅な変化を示した。失業者もかなり減少し、失業保険統計による失業率も戦後の最低を示すに至った。
賃金については、労働需給の変化を背景に中小企業、大企業を問わず、初任給は前年を上回る大幅な上昇となり、全産業平均賃金も消費者物価の高騰、企業収益の増大、春季闘争の3,000円に及ぶ大幅賃上げなどによって近年にない上昇をみせた。特に求人難のはげしい中小企業の賃上率は大きく、規模別賃金格差は前年度以上の縮小を示した。しかも、この貸し金上昇が労働時間の減少のうちで、基準内給与の増加によってもたらされたことが注目される。
しかし、7月から9月にかけて金融引き締めによる景気調整策が実施されると、景気後退の影響が労働面にも次第に現れるようになってきた。
雇用面では、過剰生産傾向の強かった繊維などから影響が現れはじめた。鉱工業生産も11月ごろから増勢が鈍り、37年度はじめごろからは低下に転じているが、雇用は36年末ごろから増勢の鈍下がみえはじめ、年度末になると製造業では季節修正すると減少に転じている。もちろん、企業の労働者の採用が新規学卒者に集中し、中途採用者は比較的少ないという雇用態度も反映しているが、減耗補充の停止、臨時工の契約更新の停止あるいは人員整理など企業の雇用調整策がはじめられた影響とみられる。37年2月、3月の入職率も、前年をかなり下回っている。
もっとも、労働市場面では新規学卒者に対する求人の取り消しや、採用延期もそれほど広範囲にわたってはいないし、また、中小企業の未充足求人数もなお相当に残されているのに対し、潜在失業者などの労働供給余力は少なくなっているので労働需給関係の悪化はそれほど大きなものとなっていない。
一方、賃金は年度後半に入っても12月ごろまでは年度初来の上昇基調を維持してきた。また、年末ボーナスの支給額は前年を約1割上回る高水準であったが、金融難を反映して分割支給や社内預金の奨励なども一部にはみられた。さらに、37年に入ってからは、労働時間の減少の影響などもあって定期給与の上昇テンポは若干鈍化するに至った。これに対し、消費者物価は卸売物価の低下傾向にもかかわらず、いぜんとして上昇を続けたので、実質賃金の上昇テンポは次第に鈍り、37年1~3月には前年同期比4.0%増と、36年度上期の8.5%に比べ著しい鈍化となった。
景気調整の貸し金への影響は、37年の春季闘争による賃金引き上げにも現れている。消費者物価、の高騰は、36年春をはるかに上回っているが、賃上げ額は約2,500円で36年の3,000円をかなり下回るものであった。また、この2、3年来上昇傾向を強めてきた学卒者の初任給も上昇率に鈍化をみせるなど、景気後退の賃金面への影響は次第に現れてきている。
以下、36年度の労働経済の特徴点を上期、下期に分けてみることにしよう。