昭和37年
年次経済報告
景気循環の変ぼう
経済企画庁
昭和36年度の日本経済
金融
昭和36年度の金融情勢
36年度の金融の特徴は、景気過熱化に伴う各種の現象と、その後における景気過熱抑制のための金融引き締め政策の展開であった。具体的には、公定歩合の引き上げを中心とする各種金利の上昇、金融機関資金繰りの悪化、今まで拡大を続けた起債市場の縮小、などがあげられる。
まず、36年度の前段階としての35年度の動きをみると、33年以来の好況の継続によって資金需要が累積的に増大し、さらに35年の秋以降には、国民所得倍増計画策定に前後していわゆる成長ムードが高まり、自由化に備えての合理化、近代化投資も一段と活発になった。金融面においては、成長政策に対応して、高度成長を支えるにたる資金の供給という考え方が表面に打ち出されたといえる。36年1月、公社債投資信託が発足し、これに伴って起債量の著しい拡大がみられ、このことが、設備投資資金を急速に潤沢化させた。また、金利の面でも「国際金利水準へのさや寄せ」を主眼として、36年1月の銀行貸出金利の引き下げを皮切りに預金金利、長期金利におよぶ広汎な金利引き下げが行われた。このように、資金量、金利の両面から高度成長政策に適応した体制づくりがめざされることになった。
しかしこのような金融環境は36年度に入ると急速に転換をみせた。
すなわち、36年度に入って国際収支が総合収支でも赤字となり、外為資金は従来の払い超基調から揚げ超基調に転じ、さらに租税の自然増収を中心に一般財政の引揚超過も大きく、金融情勢はひっ迫への道を歩み始めた。一方、日本銀行の窓口規制も4~5月以降強化され、金融債勢いのひっ迫化が促進された。
4~6月の景気過熱化の進行に対して、日銀の窓口規制の強化が行われたが、その後7月5日、設備投資1割削減の申し合わせが、大蔵省、日銀、市中銀行の間で行われ、また、7月22日、9月29日の2回にわたって日銀公定歩合の日歩各1厘引き上げが実施され、これと同時に市中貸出金利も上昇をみた。この間、金融機関段階の資金繰りはかなり悪化していたが、一方、企業の流動性は1~3月期をピークに次第に低下はしたもののかなりの余裕を持っていたので、政策の企業金融への浸透は、それほど急激ではなかった。しかし、起債市場の縮小、銀行貸し出しの抑制下にあって、高水準の生産、在庫の累増、設備投資の強行により企業の資金繰りは徐々に悪化を続けた。
37年1~3月もいぜんとして強度の金融引き締め下に繁忙状態で推移したが、中小企業金融の政策的優遇などによって、ひっ迫基調ながらも不渡り手形などの摩擦的現象は比較的少なく、一方、輸出金融の充実も図られた。この間、株式市況への影響を考慮して大企業の増資くりのべが行われ、その増資つなぎ資金が銀行貸し出しによって供給されたが、これらの一連の動きは一面で景気調整策の浸透を緩やかにする一要因であったことは否定しえないが、引き締めの基調は維持され、37年度に入ったごろから生産の低下、卸売物価の軟化など、景気調整は本格化の様相をみせている。