昭和37年
年次経済報告
景気循環の変ぼう
経済企画庁
昭和36年度の日本経済
財政
36年度財政の実行
36年度の我が国経済は、国民所得倍増計画最終年度の目標額を凌駕するような設備投資の急増を主因に、在庫投資の増加なども加わって、当初見込みを大幅に上回る拡大を遂げたが、その拡大テンポが急速であったため、国際収支の悪化、物価の上昇を招き、その是正が課題とされることとなった。この間財政は、予想以上の経済拡大がもたらす租税収入の増加を主因に外為資金の揚げ超も加わって、景気安定的に作用したのであるが、さらに支出の一部繰り延べによって有効需要の抑制を図り、他方、中小企業向け財政投融資の増額及び買いオペレーションなどの措置を行って調整過程の円滑な進行を図った。
租税収入の増加─国税自然増収1,994億円
36年度の租税及び印紙収入総計の決算見込み額(4月末計数)は、2兆613億円で当初予算に比べ3,540億円20.7%、補正後予算に比べても1,994億円10.7%の大幅な増収となった。
ここ数年の決算額と補正後予算額との差(自然増収額)をみると、30年度53億円、31年度705億円、32年度603億円、33年度17億円減、34年度343億円、35年度982億円となっており、36年度は従来の最高であった35年度を2倍以上も上回る記録的な自然増収となっている。
これは、再評価税以外は軒並予算額を上回ったためで、商取引の活発化、賃金所得の向上を反映して所得税収が当初予算の35.3%、補正後予算の23.4%増となったこと、企業収益の増加で法人税収も当初予算比23.3%補正後予算比8.7%と好調に推移したこと、消費ブームを反映して酒、砂糖その他物品税収入も増えたことなどが主な理由である。この他、通行税、関税などの増収率が大きいが、レジャーブーム、輸入増大などを反映したものである。
第7-1図 は、税制改正を調整して主要税目別の増収の程度をみたものであるが、いずれも大幅な増加を示しており、税収の好調をうかがわせている。
このように36年度の税収は好調であったが、年度間の推移でみると、幾分増勢鈍化の傾向がうかがわれる。
第7-2図 は、租税収入の四半期別推移をみたものだが、対前年同期比増加率は、総計で36年度第1・四半期26.2%、第2・四半期28.9%、第3・四半期20.9%、第4・四半期23.3%といった推移をみせている。第4・四半期の増加率が大きいのは所得税が31.7%の大きな増加を示したもので、法人税は第1・四半期32.5%、第2・四半期30.8%、第3・四半期14.6%、第4・四半期22.1%と推移しており、即納率の低下及び配当軽課措置等の税制改正の影響を考慮しても、税収の頭打傾向といったものがうかがわれる。
第7-4表 は、この点をみたものであるが、大体の傾向として、申告所得対前年増加率の横ばい化から低下傾向がかなり顕著にうかがわれる。
なお財政投融資の原資についても、簡易保険の満期による保険金の支払いが、37年度から39年度にかけてかなり集中しているといった事業もあり、比較的順調な最近の原資事情に変化が生ずることも考えられる。
財政支出の推移
次に、財政支出の推移についてみよう。36年度には、予算補正の程度が比較的少なく、また、財政支出の一部線延べもあって内需の増大を最小限に抑えるよう配慮されると共に、景気調整の円滑化のため中小企業へのしわよせ防止の措置として財政投融資の追加や頁オペレーションが行われた。
補正予算と財政支出の一部繰り延べ
36年度一般会計予算の追加補正額は、第1次997億円、第2次549億円であって、補正後予算は当初予算より、1,546億円、7.996増加して、2兆1,074億円となった。
第1次補正は、災害対策(150億円)、公務員給与改善(184億円)、文教施設費及び住宅対策費の追加(24億円)、食管会計繰り入れ(300億円)、地方交付税交付金(213億円)などであり、第2次補正は、災害対策(300億円)、義務教育国庫負担金を中心とする義務的経費の不足(65億円)、医療費引き上げ(45億円)、オリンピック経費(9億円)、地方交付税交付金(130億円)などが主な内容である。財源としては、いずれも租税及び印紙収入の増加をあてている。
第1次、第2次あわせて1,546億円の追加補正というのは、かなり大きな額であるが、35年度の追加補正額1,955億円(補正後予算は当初予算の12.5%増)に比べれば小さくなっている。
これは景気動向が微妙なおりから、緊急止むを得ない支出に限り、それによる経済への刺戟をできるだけ少なくしようとする配慮の現れである。
第2次補正予算編成時において、既に、補正額を上回るかなりの自然増収額が予想されていたにもかかわらず、支出を一定限度に抑え、それを黒字として保留することにした点も、景気動向への配慮の大きさを示すものであるが、この点は積極的に内需抑制に役立てるために、財政支出等の一部操延べ措置がとられたことで、一層明りょうである。
この措置は、9月に閣議了解された国際収支改善のための総合対策の重要な一環として行われたものであり、内容は 第7-5表 にみられる通りである。
今回の繰り延べ率は、32年度の場合を幾分下回っているが、今回は既に年度の半ばを過ぎているのでかなりの削減努力を示しているものと考えられる。
これらの結果、36年度の政府の財貨サービスの購入額は、当初見込みより、1、600億円、5.3%増加に留まり、3兆1,800億円の実績見込みとなる予想である。35年度の場合は、実績は当初見込みより、1,780億円、7.9%増となっている。予算の追加補正を最少限にとどめたこと、支出の一部線延べを行ったことの効果の一部がうかがわれる。
一方民間部門(国民総支出から政府の財貨サービスの購入額を除いたもの)は、資本形成の増加が大きく、当初見込みより約14%増の拡大を示すと予想される。そのため、国民総支出に占める政府の財貨サービス購入の比重は、当初見込みの19.3%が実績見込みでは約18%に下っており、一般会計歳出の比重も12.5%が約12%となり、財政投融資の比重も4.7%が、約4.5%程度に低下している。
財政投融資の推移─中小企業向けの財政投融資増額及び買いオペレーション
財政投融資は、金融引き締めに伴う中小企業へのしわよせを防ぎ、特に年末資金対策のため、災害復旧資金需要等をも考慮して、政府関係中小金融機関に、短期、長期の投融資の追加により弾力的な資金供給が図られた。また輸出振興措置としての日本輸出入銀行への出資や災害対策などの地方債への追加等もなされた。このため。改訂計画は当初計画に比べて654億円、90%増加して、7,946億円となった。35年度の実績が当初計画比207億円、3.5%増であったことからみても、36年度財政投融資の追加は、かなり大きく、景気調整の摩擦を柔げるのにかなり役立ったであろうことがうかがわれる。内容を使途別分類でみると中小企業向け260億円、29.9%増、輸出振興200億円、35.1%増となっている。この他では国土保全、災害復旧169億円、57.3%増が主なものである。
以上のほか、中小企業金融疎通のための金融機関保有債券の買い入れも行われた。内容は 第7-6表 に示す通りであり、これも中小企業へのしわよせ防止に大きな役割を果たしたと考えられる。
第7-6表 財政資金による中小企業金融のための買オペレーションの推移
以上述べた財政支出の推移(窓口収支、除外為会計)の動きを示せば 第7-3図 の通りである。
財政収支─外為会計の揚げ超転化
次に財政資金対民間収支の動きをみると、 第7-7表 のごとく、食管会計で25億円の支払い超過、外為会計で2,209億円の大幅な引揚超過となり、その他の純一般財政で2,789億円のこれも大幅な揚げ超となって、総計で4,973億円の記録的な引揚超過をみせている。前述したように当初見込みでは外為会計で720億円の払い超、その他で880億円の払い超、併せて1,600億円の支払い超過が予想されていた。ところで、実際は、記録的な揚げ超となった。これは予想以上の経済拡大により租税の増収が大きい一方、補正予算が少額にとどめられ、また、支出の一部繰り延べもあって、一般会計が大きな揚げ超を実現したことに加えて、外為会計が国際収支の大幅赤字により、35年度の2,387億円の払い超から、一転して2,209億円の揚げ超へと転化したからである。32年秋以降、支払い超過基調を続けてきた外為会計収支も、36年5月以降揚超基調に転化している。これは、輸入の急増による国際収支経常取引の赤字増と、35年度にみられたような期間延長によるユーザンス増加やユーロ・ダラーなどの短期外資の大幅流入がみられなかったことによるものである。
ところで、このような財政収支の揚げ超基調は、金融引き締めまりの素地を形作る要因となり、景気調整の実施に大きく役立ったと考えられるのであるが。これはまた日銀券の増発とあいまって、日銀貸し出しの著増を招くことになった。そのため再びオーバーローンの是正や財政収支の波動調整が問題となってきており、この調整のため第2部「金融」の項で触れたように、37年2、3月には1,400億円にのぼる市中金融機関保有政府保証債の買いオペが行われた。以上、36年度財政についてみてきたが、 第7-8表 はこれを要約したものである。36年度財政は当初においては、国民所得倍増計画の第1年度予算として、9.8%成長にみあったかなりの歳入増加を前提として、減税、社会保障、公共投資などの施策の充実を図り、民間部門と平行して高度成長推進の役割を果たす姿をとっていた。その後においては、民間資本形成の予想外の増加が主導する経済拡大のなかで、36年度財政は支出の一部繰り延べや、中小企業向け財政投融資の増額など必要な施策を行いながら相対的には、その比重を低めると共に、財政収入の大幅な伸びによって巨額な財政黒字を生み、外為資金の揚げ超とあいまって好況期の財政として、当然に景気補整的に働いたのであった。