昭和37年
年次経済報告
景気循環の変ぼう
経済企画庁
昭和36年度の日本経済
貿易
資本取引
資本取引の推移
わが国の資本取引は、35年度に主として短期資本の流入によって急激な拡大をみたが、36年度も資本収支尻は629百万ドルの黒字であり、前年度の677百万ドル黒字には及ばなかったが、資本流入額はかなり大きかったものといえよう。しかし36年度の資本取引は ① 長期資本収支の黒字が多額に達したこと、 ② 短期資本収支の黒字幅が縮小したこと、 ③ 国際収支危機に対する緊急策として特別借り入れが行われたことなど、かなり前年度と異なった動きがみられる。
長期資本取引
長期資本収支は、前年度にわずか1百万ドルの黒字に過ぎなかったのに対して、36年度は173百万ドルの大幅黒字を記録した。これは、世銀を中心とするインパクトローンが急増したこと、自由化の影響で証券投資や外債発行が増えたことによる。年度後半からは、国内の金融引き締めの影響で、資金を海外に求める企業も増え、これが外資の流入を促進したインパクトローンの急増は、貸付金債務の増大に起因する。 第1-11表 は貸付金債務認可実績であるがこれによると、35年度の総認可額が127百万ドルであるのに、36年度は387百万ドルと3倍以上の増大を示している。このうち従来減少傾向にあった世銀の比重が再び急増しているのは、国鉄の東海道新線用借り入れなどの影響が大きかった。今後世銀からの借り入れは打ち切りの可能性が強い。
証券投資も、証券投資規制の緩和と、日本経済の成長に対する海外の評価が高まったことによって急増しており、外資導入認可実績でみても、35年度の68百万ドルから36年度は116百万ドルに増えている。
その他長期資本受取の増加は社債発行の増加を内容とするもので、開銀債、電々公社債、民間社債などが相次いで発行されたためである。
支払いでは、経済協力の進展によって海外投資が増えており、外債償還は、英貨債の償還39百万ドルがあったため前年度をかなり上回った。
長期資本は、資本取引の自由化の進展につれ、今後も流入を続けるものとみられるが、長期資本の中心は、従来の世銀インパクトローンから漸次民間借款、外債、証券投資などに移っていくものと思われる。
短期資本取引
36年度の短期資本収支は、特別借り入れを除くと223百万ドルの黒字に留まり、前年度の676百万ドルの大幅流入に比べて、かなり大幅の減少を示した。これは主として次のような事情に基づくものであった。
第1に、35年度末にかけて急増した輸入ユーザンス残高が、36年度は8月をピークとして11月ころまで減少を続けそれ以降月々の若干の変動はあるがほぼ横ばいで推移したことによる。これは、35年末のユーザンス期限延長効果が一巡し、ユーザンス残高の増減は輸入の増減にほぼ見合うものとなり、その輸入額も、金融引き締めによって漸次平静化してきたためである。
第2に、36年5月ごろまで急速な流入を続けたユーロダラーが、それ以降従来の流入基調から流出に転じたことである。37年に入ってからは再び流入傾向が見られるがその増勢は緩やかである。我が国の受け入れるユーロダラーの額には限度があることであり、今後はこれまでの様な流入増は期待できない。
35年度に大幅な流入を示した短期外資も36年度にはその増勢を維持することができなかったが本来国際収支面で浮動性の大きい期短外資にたよるのは好ましくなく、今後、経常収支面での均衡回復、長期資本の導入を図る必要があろう。37年6月からユーロダラー、自由円など短期外資の受け入れについては、準備金制度が設けられ、短期外資の流入に対して、規制策が探られることになった。
この他、国際収支危機に対する緊急対策として、米市銀からの借り入れ2億ドル、農産物借款(ワシントン輸出入銀行保証による市中銀行からの借り入れ)125百万ドルのうち年度内に33 百万ドルの借り入れが行われた。これら借り入れが、国際収支悪化を食いとめるために果たした役割は大きかったが、今後返済時に国際収支に対する圧迫要因であることは見逃せない。