昭和37年
年次経済報告
景気循環の変ぼう
経済企画庁
総説
日本の景気循環の特質と変貌
日本の景気循環の特色
日本経済が戦後の回復段階を終わり、景気変動の波を経験しはじめてからすでに10年近くを経た。
その景気変動の型をデイフユージョン・インデックス(景気動向指標)を用いてみると、 第19図 のごとく、28年以降今回が3回目の景気調整であることがわかる。
第19図 デイフユージョン・インデツクス(CDI)の日米比較
この3回の波を通じる我が国の景気変動の特質を指摘すれは、第1に変動幅が大きいことである。
第20図 にみるごとく日本の生産は世界一の高成長を誇っているが、反面変動幅も大きい。成長趨勢を除いたうえでの10年間の生産指数の標準偏差は5.9%で、西ドイツの3.2%やアメリカの4.9%にくらべて大きい。
第2の特色は、景気変動の3回が3回とも国際収支の悪化から金融引き締めが行われ、それが好況から不況への反転の起動因になっていることである。先進国では、経済のメカニズムのなかに景気変動要因を内在しており、好況から不況への反転が自律的に起きる国が多いが、日本では外貨危機に直面して強い抑制措置をとることによって、はじめて景気反転が起こる形をとってきた。
第3には、景気波動を現象的に説明するものとしては、在庫投資変動が非常に大きいことである。諸外国でも短期の景気変動の主役が在庫投資である点には変わりないが、日本においては、ことさらに在庫投資の占める比重が大きい。景気上昇期の需要増加要因の構成比を 第21図 に示すが、3回の変動とも在庫投資の占める比重が大きい。
ただこれをみてもわかるように、29年のブームはより消費景気的であり、今回はより設備投資の比重が高いという特色があった。
これらの特色は、今回を含めて3回の景気循環においてほぼ同じであり、景気上昇局面も似たような過程をたどっているとみてよい。国際収支の悪化の仕方とか、引き締め政策の時期とか物価と生産のズレとか、需要要因の比重の差とか細部にわたっての現象にはそれぞれの時期に特殊な要因が加わっているため、ある程度の差が生じているが、景気変動のあり方にはほとんど変化がないとみてよいだろう。
このような景気変動の特質を付与したものが、我が国に特有の経済をいきすぎさせる要因──すなわち強い需要要因の存在である。一方その要因が、景気反転に際しても、景気後退を大きく進行させない安定力として働いていたのである。
しかしながら、今回の景気上昇局面が前2回にくらべかなりに長いことが目立つ。 第19図 に示したアメリカの景気の波とくらべても、その差異がわかるであろう。そこには、日本経済の構造変化に伴って景気循環の型を決定してきた要因の変質を認めざるを得ない。そしてそのことが同時に、今までの景気変動の波の形をも変える可能性を持っているとみられるのである。
第20図 1951~60年の工業生産の成長率と趨勢からの偏差