昭和36年
年次経済報告
成長経済の課題
経済企画庁
高度成長下の問題点と構造変化
高度成長に伴う4つの問題点
労働力不足と流動性の変化
労働力不足の実態と要因
労働力不足の実態
第2部「労働」の項にみられるように35年度経済においては労働力の充足難が表面化した。中小零細企業における新規学卒労働者の求人難が深刻化し、技術者や臨時工については、大企業でさえも未充足の状態が発生した。
また、中小企業における技能労働者の不足もかなり一般化している。
35年2月の労働省調べ「技能労働者需給状況調査」によれば技能労働者の不足数は全産業では81万人、不足率は14.7%に達している。中でも不足の著しいのは最近急速に拡大しつつある製造業の中の金属機械産業で、その不足数は29万人、不足率は17%に達している。
また当庁調べ「新規雇用調査」によれば35年度中において、採用を予定しながら充足できなかった状態がかなり全般的にみられる( 第I-3-1表 参照)。
特に大学卒の技術者の不足は著しく、大企業においてさえも未充足率は約20%に達している。また工業高校卒の技能労働者については、30~99人の小企業では採用できた数は極めて少ない。新規学卒者が中心となっている本工では、大企業の不足はほとんどないが、小企業の不足はかなり目立ち、他方、臨時工については大企業でも採用が難しくなってきている。しかしながら、労働力不足は主として若年層を中心とする部分的な範囲に限られており、まだ、全般的な問題になっていない。
労働力不足のこのような状態は35年において突如として発生したものではない。それは技術革新による高度成長期に入った31年ごろから次第に醸成され、神武景気当時においても部分的には現れていたものが、最近になって顕著に表面化したものである。
労働力不足の要因
労働力不足現象が顕著になってきたのは、既に第2部「労働」の項にも述べたように、終戦時の出生率の低下の影響による新規学卒者の減少という一時的要因も加わってはいるが、基本的には高成長の継続による著しい雇用需要の増大によるものである。つまり高成長によって、労働の需要が労働の供給の増加を上回る増勢を続けてきたことが基本的な要因といえる。
まず労働需要の変化をみよう。我が国の労働需要は30年ごろを境として大きく転換した。それまでは労働需要の大部分は第3次産業を中心とする中小零細企業であったが、31年ごろから、製造業、特に大企業の比重が大きくなってきた。 第I-3-2表 によれは最近の32~35年は製造業の雇用増加が、第3次産業のそれを上回っており、しかも26~29年ごろに比べ大企業の増加率は際立って大きくなってきている。
製造業の大企業の雇用需要がこのように急速に増加してきたのは ① これまで比較的雇用需要の少なかった大企業でも企業内過剰雇用が解消され生産の拡大により多くの労働力が必要になってきたこと( 第I-3-3表 参照) ② 技術革新による高成長の中で企業の単位が大規模化してきたこと、 ③ 労働集約的な機械工業の拡大が著しく、雇用増大に大きな影響を与えたことなどである。この結果製造業平均の雇用弾性値は26~28年ごろに比べると31~35年には約1.4倍に高まってきている。つまり、26~28年当時は生産を10%増やすためには雇用を3.3%増やせばよかったが、31~35年には4.6%の雇用を増やすことが必要になってきたのである。
経済の高成長が技術革新を原動力としているため、労働需要の内容も、これに対応する形において変化している。すなわち、労働需要は1つは技術の高度化に対応するものとしての技術者あるいは将来の新しい型の技能労働者としての高校卒などに向かい、他方、労働単純化に応ずるものとしての単能工即ち若年工として中学卒業者や女子を中心とする若年層労働者に向かった。
このため労働力不足現象は、まず、大学卒の技術者に現れた。これは技術革新に伴う需要急増に対し学卒者が決定的に少ないことにあった。次いで生じたのはやや低位の技術水準にある中小企業の需要する技能労働者の不足であった。
この段階までは極めて限られた範囲の不足であったが、さらに、大企業の急速な拡大による単純労働者の大量需要により、中学卒、高校卒などの新規学卒労働力を大企業が大量に吸収する( 第I-3-4表 参照)ようになると、中小企業の充足難は急速に表面化してきた。大企業では新規学卒者を本工として採用する外、若年労働力を臨時工として大量に採用する状況にあったが、その絶対的不足と臨時工という身分に対する不満もあって、大企業でも若年労働者を臨時工で採用することが次第に困難になってきた。
上述したような労働需要の急増に対し、ここ数年の労働力の供給の増加があまり大きくなかった上に35年の供給はかえって低下したことも部分的な労働力不足を発生させた1つの要因とみることができる。
生産年齢人口の増加もここ数年はそれほど変わらないし、35年はかえって若干減少さえしている。また新規学卒者も36年3月には中学卒でかなり減少がみられた。これは出生率の低かった終戦時の出生児が中学卒業の時期に当たっているという特殊事情もある。しかし、新規学卒者以外の一般求職者についてみても、職業安定機関に現れた求職者は34年度以降2年続いて減少している。このような減少傾向は非就業者の中の就業希望者や不完全就業者とみられる転職希望者、追加就業希望者などにも現れてきている( 第I-3-5表 参照)。
労働力の流動性の変化
大企業の本工採用の変化
若年労働力を中心とする近代的雇用の労働市場における労働力不足は、当然、前近代的あるいは極めて労働条件の低い分野から労働条件の高い分野への労働力の流動化を促進する。しかし、従来、我が国の労働条件にはこのような労働力の流動化を妨げる要因があった。それは労働市場の封鎖性といわれるものである。大企業は新規学卒者以外は本工として採用することは極めて少なかった。大企業と中小企業の間の労働移動は、大企業から中小企業へという労働条件の低下する転落的移動が主であった。中小零細企業から大企業への移動は、わずかに、景気調節的機能を果たすものとしての臨時工という特殊な雇用形態を通じてのみ行われるに過ぎなかった。「労働異動調査」によって32~33年当時の500人以上事業所の入職状況をみると、常用労働者については新規学卒者が約70%を占め、中小企業の既就業者を本工として採用する割合は極めて少なかった。
しかし、大企業の技術革新による労働の単純化は新規学卒者を本工として採用し、これに長期の訓練を実施して熟練工とする必要性を軽減した。若年層であれば必ずしも新規学卒者でなくとも短期の訓練によって生産態勢に適応させることが可能になってきた。このことが大企業の臨時工や中途採用者を急激に増加させた1つの技術的な条件であった。また、このことが大企業の本工採用におけるこれまでの態度を変化させる1つの要因にもなった。
一方、臨時工の数が増加すると共に勤続が長期化するに及んで臨時工組合が結成されるなど労務管理上の問題も生じてきた。また臨時工の本工昇格の要求も強くなると共に、労働需給のひっ迫から本工昇格の路がないと若年の臨時工の採用も困難になってきた。これは臨時工の本工昇格への大きな圧力となった。
これらの事情の変化によって、大企業の臨時工の本工昇格は32~33年ごろから次第に現実の問題となってきた。当庁調べ「新規雇用調査」によってみても、1,000人以上の大企業で臨時工の本工昇格を制度化しているところは33年当時34%に過ぎなかったものが、36年には約59%にまで増加している。その結果本工採用者の中に占める臨時工からの昇格者の比率は35年度には5,000人以上で40%、1,000~4,999人規模でも30%に達している。
一方、大企業は最近、新工場を設置しようとする傾向は強いが、この際の必要労働者の採用は直接本工採用とする例が多くなってきている。35年度中の中途採用者で直ちに本工として採用されたものの年度間本工採用者に占める比率は5,000人以上では29%、1,000~4,999人規模でも19%を占めている。先にあげた臨時工からの本工昇格者と合わせると、年度間本工採用老中に占める比率は5,000人以上では70%、1,000~4,999人規模でも50%に近く、新規学卒の定期採用者をかなり上回るまでになってきている。
このように大企業の本工採用は新規学卒者の定期採用という従来の求人方針が臨時工という迂回路を経ながらも大きく修正されるに至ったのである。
最も、大企業が中途採用するものは中小零細企業からの転職者ばかりではない。全然職業経験のないものや、農業からの転職者などもかなり多い。「新規雇用調査」によれば1,000人以上の大企業では、中途採用者の中、非農林既就業者は60%に過ぎない。さらに、これらの中でも同一職種からの転職者が多いわけではない。しかも、採用の際に職種経験が評価されて賃金算定の基礎となったものは20%に過ぎない。大企業では中小企業の既就業者の持つ職種経験の熟練をそれほど重視してはいないからである。つまり大企業が若年工の中途採用を増やすのは、技術革新により労働単純化が進んだ分野が拡大しているため、従来の職種経験がそれほど必要ではなくなっているからである。
大企業の本工採用の態度の変化には労働供給側の事情も影響している。労働需給の改善による初任給の引き上げによって若年層については中小企業の本工と大企業の臨時工とでは賃金水準にはそれほどの差がなくなってきたため、大企業でも本工登用の路がないと臨時工採用に応募するものが少なくなってきたことである。また、本工登用についての条件が厳しいと移動するものが多くなり、本工昇格試験に合格しないものは退職して他の大企業の臨時工となり本工昇格の機会を待つという事例も多くなってきている。
上位規模企業への移動
前述した大企業の本工採用の変化と密接な関係にあるが、従来強調されてきた大企業と中小企業との間の労働移動には新しい変化が生じてきている。それは、上位規模企業への労働移動が、最近はかなり促進されてきていることである。
当庁調べ「新規雇用調査」によると、35年度中の中途採用者の前歴の事業所規模は 第I-3-7表 のとおりであって、1,000人以上の大企業の中途採用老中、中小企業から移動した労働者の比率は70%以上を占めている。
臨時工として採用される場合はもちろんであるが、直ちに本工として採用される場合でも中小企業からの移動が過半を占めるようになってきている。このように上向移動が多くなっている状況は大企業に限らず中小企業においてもみられる。
しかしながら上位規模への移動は無条件に行われるわけではない。つまり大企業に移動できるのは若年層に限られていることである。
また同じ年齢ならば技術や技能を持つ労働者の方が上位企業への移動が容易であることはいうまでもない。
まず、年齢的条件についてみよう。35年度中の中途採用者中、25才未満の若年層の占める比率は70%以上となっているが、これをさらに1,000人以上の大企業に限ってみると80%以上を占めるに至っている。つまり、大企業への移動の機会は、現状では、主として若年層に占められていることが明らかである。
次に技能的条件についてみよう。「新規雇用調査」で中途採用者全員について上位規模への移動率を推計すれは本工の64.3%に対し、職種経験者は84%とかなり上回っている。職種経験者はその技能を評価されるために、一般の労働者よりも労働条件の向上する上位規模への移動の機会が多いこととを示している。さらに、企業がかわっても比較的熟練を活かし得る程度の大きい機械関係産業についてみるとこの傾向は一層強くなっている。機械産業の職種経験者についてみると1,000人以上の大企業の場合上向移動したものの比率は89.6で、製造業の83.1をかなり上回っている。
企業規模間の労働移動をさらに詳しくみると、規模の大きさにより若干の相違がみられる。すなわち、中途採用者の前歴をみると、大企業は本工でも臨時工でも30人未満の零細企業から比較的多く採用しているのに対し、中規模企業では比較的同位グループ間の移動が多い。これは大企業が技術革新の進展に応ずるために主として単純労働者を求めるのに対し、中企業ではその技術水準がまだ熟練労働を陳腐化させる労働単純化の段階にまで達していないため、直ちに労働能率をあげうる熟練、半熟練労働者を比較的多く求めるため、技術水準があまり違わない同位規模からの移動が多いことを反映しているものと思われる。
中高年層の移動
上述したように産業間企業間労働移動は若年層については労働力不足によって、流動化がかなり促進されてきている。しかし中高年齢層になると流動化はあまり進んでいない。「労働異動調査」によってみると500人以上の大規模事業所の36年入職者中、30才以上のものの比率は9%、40才以上は3%に過ぎない。また当庁調べ「新規雇用調査」においても、1,000人以上の規模の35年度中途採用者の中30才以上のものは7%に過ぎない。この割合は小企業になるほど大きく、30~99人の小企業では大企業の2倍以上になっている。しかし、これとても雇用されている労働者の年齢構成との対比では圧倒的に少ない。
このように高年齢層の再就職特に大企業への就職が難しいのは ① 求職者がこれまでに身につけてきた技能と採用する企業の求める技能とが一致しないこと、 ② 大企業では終身雇用制を立前とする年功的賃金が一般的であるため高齢未熟練労働者には労働能率に対して相対的に高賃金を払わなければならないことと、 ③ 中小企業については年齢別賃金格差は比較的少ないため、不利の程度は少ないことによるのである。従って、高齢者がやむをえず一度離職した場合の再就職の条件は転落的なものがかなりの部分を占めている。「失業者帰すう調査」によれば40才以上の者で35年に再就職したもののうち賃金が前職よりも5%以上増加したものは2割程度にすぎず、大半のものは賃金が低下している。
中高年齢層が離職して再就職する先はどんなところが多いだろうか。「失業者帰すう調査」でみると、30才以上の者の再就職先は常用労働者になるものが約5割、年齢が高くなるとこの比率はさらに低下する。その企業規模は小企業が大部分を占めているものと思われる。残りの5割のうち自営業主と家族従業者が約2割、臨時工と日雇いが約3割を占めている。つまり、高齢層になると;臨時工や日雇いになる者と自ら就業の場をつくる自営業主となる者が相当多くなることを示している。一方、比較的中高齢層の多い自営業主から雇用者に転換する者はどうであろうか。「就業構造基本調査」によると、過去1年間に自営業主から非農林雇用者になった者は34年には非農林業主で39千人、農林業で12千人と極めて少ないが31年に比べるとかなり増えている。
以上のように中高齢層の再就職は難しいため、自己の都合によって離職する者は非常に少ない。「労働異動調査」などによって推計してみると製造業40才以上の中高齢層の離職率は8.6%に過ぎず、20才未満の29.5%に比べると大きな開きがある。その結果入職率の低さと相まって移動率を極めて低くしている。つまり、労働の需給関係の悪さが異動率を低めているといえる。
このことは一般的にも言えることであって、 第I-3-2図 に示すように需給関係が好転すれば異動率は高まり、逆に需給関係が悪化すると異動率は低下している。
また一方大企業の終身雇用制の下で勤続して停年に達した労働者の再就職、にも問題がある。最近の技術は従来の熟練を必要としなくなったため、停年後に再雇用される例は微々たるものである。まだ、たまたま再雇用されたとしても大部分のものは雇用条件が切り下げられている。大企業で停年となり、他企業へ再就職する場合はさらに条件は低下する。大原社会問題研究所の「中年層労働移動実態報告」によれは、5,000人以上の某企業の最近の停年退職者の中で再就職したものの中、半分以上が100人未満の小企業であったことが報告されている。
中高年齢層の労働移動は極めて不利であるが、その基本的要因は中高年層に対する労働需要が少ないことにあるので中高齢層でも技能労働者である場合は条件は多少改善される。「新規雇用調査」によれば、高年齢層の年度間入職者に占める比率も、職種経験者については一般のものよりも高くなっており、職種経験年数の長いものになると、その割合はさらに強まっている。上位規模企業への移動についても職種経験者の方が相対的に割合は高い。
しかし、今後、労働力の流動化が期待されるのは、農業、小零細企業などの前近代的分野から近代的産業分野への移動であり、それも若年層から中高齢層に及んでくるものと思われるが、これらの層は、大部分が未熟線労働者であるので現在の賃金制度の下では極めて不利になるものと思われる。これをいかに実現するかは大きな問題である。
地域間移動の問題
産業間企業間移動が推進されるためには地域間の移動が円滑に行われることが必要である。特に産業構造の変化が激しく、一方において労働力の不足現象が現れているのに他方においては過剰労働力を抱えている場合にはその必要度は一層強まってくる。
現在当面している地域間移動の問題は近代的雇用需要の中心地である大工業地区及びその周辺地域に、農村労働力及び炭鉱地区などのような失業多発地区から労働力が移動することにある。
労働需給バランスは 第I-3-8表 に明らかなように純農村地域や失業多発地区ではかなり悪く、求職は求人を大きく上回っている。これらの地域においては新規学卒者及び若年層についてはかなり流出が続いているが、中年層以上についてはあまり進んでいない。一方、大工業地区における労働需給は若年層を中心にかなりひっ迫しており、三大工業地帯の需給バランスは事務関係求職者を含めても需給は均衡状態に接近しており、特に中京地区のひっ迫が目立っている。また、最近‘ 大工業地域の充足難を避けて、機械工業などが進出しつつある大工築地区の周辺地域では求人求職がほぼバランスするまでにたっている。これら周辺地域では労働力の一部は大工業地区に流出を続けているのに対し、大工場の進出によって就職機会が増加しているからである。農林省調べ「農林漁家就業動向調査」などでも明らかなように、農業労働力の製造業への転換は、地域間移動の比較的容易な若年の二三男の比重が減り、地域間移動の困難な経営主、あととりが在宅通勤の形でかなり増加している。
地域間移動が比較的容易であるのは新規学卒者である。当庁調べ「新規雇用調査」によって35年度の新規学卒採用者の出身状況をみると、3分の1は地域間移動を伴う他地域の出身である。
しかしながら、新規学卒採用者の出身状況には企業の規模によってかなり相違がみられる。大工業地区の場合、5,000人以上の大企業では90%以上が同一地域内出身である。これに対し、30~99人の小企業、あるいは、100~999人の中企業では同一地域内出身は5割前後に過ぎない。このような状況は三大工業地区に共通してみられる傾向である。これは大工業地区の大企業が求人する場合には、労働条件などで他企業に対して優位にあるのと、住宅条件などの影響もあって、まず地域内の学卒者を採用し、不足する場合にはじめて他地域の者を求めるのに対し、中小企業は工業地域内での充足が困難であるため農村地域に求めざるを得ないことが影響しているものと思われる。
一方、工業地の周辺地域では大工業地区とは反対に、大企業では同一地域出身者は5割にも充たないで、30~99人の小企業などはほとんどが同一地域出身者を採用している。これは、周辺地域では地理的条件や交通機関の事情等によって、通勤可能の労働力の供給が絶対的に少ないため、大企業は勢い、寄宿設備などを確保し、広範な地域から求人することになるが、小企業は通勤労働者に依存せざるを得ない事情によるものである。
このような傾向は、新規学卒採用者の出身世帯の状況からも知ることができる。大工業地区の5,000人以上の大企業では農家出身者は中学卒で9.7%、高校卒でも17.9%しか就職していない。これに対し、100~999人の中企業ではそれぞれ41.5%、27.9%と就職比率が高まっている。一方周辺地区でも高校卒の場合は大工業地区の場合と同じく大企業ほど農家出身者の比率は低いが、中学卒の場合は企業の規模にかかわらず農家出身者は5割をこえている。
周辺地域への工場進出による雇用機会の増大はそれだけより多く農家出身労働力が製造業に流入することを促進しているのである。地域的条件などの差異はあるにせよ、採用側の条件に適合しさえすれは、新規学卒の労働力の流動性は極めて高いといえよう。
新規学卒者に次いで、比較的移動が容易であるのは若年労働者であるが、他産業から転換する中高齢層になると地域移動はかなり難しい。これは未熟練労働者として新しく就職するために一家を挙げて移住するに足るだけの賃金が得られないことが第1の阻害要因となる。第二には住宅問題が大きく影響している。大工業地域では大企業でも社宅確保難のために、労働力の質が低下してもやむをえず採用を通勤可能範囲に限定している例も多い。このことは大都市の住宅難ということが労働の地域移動を妨げている大きな要因になってきていることを示すものである。
また、最近機械工業などの大中企業が周辺地域に進出しつつあることなどは地域間の労働移動の困難性を緩和する大きな役割を果たすものと思われる。