昭和36年
年次経済報告
成長経済の課題
経済企画庁
昭和35年度の日本経済
財政
36年度予算
35年度の日本経済は、いわゆる国際収支の壁にぶつかることなく、34年度にひき続く高率成長を達成したのであるが、アメリカ経済の停滞を主因に秋ごろから輸出の伸びに鈍化がみられ、年末にドル防衛対策が大きな論議をよぶようになって以来、再び国際収支の壁の存在が意識されることになった。
20億ドルにも及ぶ外貨準備の存在は、従来になかった新しい条件であり、著しく拡大強化された日本経済の実力とあいまって、国際収支問題の従来と異なった取り扱いを可能にするものであるが、1月以来の経常面での大幅な赤字は国際収支問題の軽視を許さないことも明らかであろう。
一方、所得倍増、9%成長の考え方は、全国民的な要請にまで高められており、そのため財政に期待されるところは極めて大きい。
このようにして、36年度予算は、一方では国内経済の成長を一層促進しなけれはならないという要請を担いつつ、他方では、その成長を条件づける国際収支の動向にも十分配慮しなければならないという困難な二つの課題を負わされることとなったのである。
従って、36年度予算は、公債発行のような刺戟的な施策をとることなく、健全財政の方針を貫き、通貨価値の安定と国際収支の均衡の確保に努めていると共に、一般の経済発展に立ち遅れた部門に対する公共的投資の積極的充実を図って産業発展の基盤の強化と生活環境の整備改善に資することをめざし、また、既にかなり重くたっている国民の租税負担を軽減し、社会保障の充実によって国民生活の均衡ある発展向上を期するなど、我が国経済を適正な成長に導き、国民所得の倍増を実現するために大きな努力を払っている。
その規模は一般会計予算で1兆9,527億円、前年度当初予算に比して3,831億円、24.4%増、第2次補正後予算に比べても1,876億円、10.6%増という従来にその例をみない大きな増加を示している。
財政投融資計画は、7,292億円で、前年度当初計画に対して1,351億円、22.7%増であり、改訂計画に対しても990億円、15.7%の増加である。
地方財政計画は1兆9,127億円、前年度計画に対し3,745億円、 24.3%の増加である。
以上のような財政規模の拡大に伴って、政府の財貨サービスの購入も11.9%増の3兆200億円と見込まれている。しかし、国民経済が9.8%の高率成長を見込まれている点よりすれば、この程度の増加は特に大きすぎるともいえない。
第9-6図 は経済成長率と財政成長率とを各国に比較してみたのだが、経済成長率の高い国は財政成長率も高く、かつ、二つの成長率はそれほどちがつていないという結果が現れている。我が国の場合も、財政成長率は高いが、高い経済成長率を考えれば過大でなく、一般的傾向線上にあるものと思われる。
36年度予算は所得倍増計画の第1年度にふさわしい規模と内容のものとみることができるが、我が国経済も本年に入って新たな景気局面をむかえつつあるようにもうかがわれる。従って、特に本年度に限ったことではないが、今後とも予算実行の過程において経済動向をにらみ合わせた配慮を怠らないよう努めるべきことは言をまたないところである。