昭和36年

年次経済報告

成長経済の課題

経済企画庁


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昭和35年度の日本経済

交通通信

国内輸送

概況

貨物輸送

 昭和35年度の貨物輸送は、鉱工業生産が前年度に引き続いて、高水準で推移し、これに農産物の盛んな出荷も加つて、各輸送機関とも繁忙に終始した。

 すなわち、国内各輸送機関の輸送量の総計は1,368億トンキロに達し、前年度を15%上回った。特に、トラックの対前年度24%、内航海運の対前年度20%の増加が目立っている( 第8-1表 )。

第8-1表 国内貨物輸送実績

 年度内の推移をたどると 第8-1図 にみる通り各輸送機関とも年度当初から出荷は強調で、需要の集中する10~12月期の輸送、特に国鉄輸送が懸念される状態であった。このため国鉄では輸送力不足線区の即効的重点工事の施工に努力し、輸送方式の合理化を図ると共に、車輌面でも前年度の3倍にあたる5,700両の貨車の増備を行う等輸送力の強化を図った。これらの対策により10~12月期の国鉄貨物輸送は、1日平均輸送量が前年度を8%上回る56万トンにまで高められた。一方政府においても緊急輸送対策連絡協議会を設置し、鉄道、海運、トラックの輸送を総合的に調整することによって、輸送難防止に努める態勢をとり、たまたま、米、肥料、水産物など一部季節物資に出荷のずれを生じたこともあって、この期の輸送は特に問題を生ずることなく推移した。しかし、1月から2月にかけて裏日本一帯にたびたび雪雪があり、このため約140万トンの滅送をみるに至り、これらの地方では輸送が混乱したので、1~3月期の駅頭在貨は前年を上回るに至った。

第8-1図

 トラック輸送及び内航海運も、年度間を通じて活況をみせ、特に自家用トラック、路線トラック、定期航路の伸びが目立った。しかし運転手、船員等労務者不足の現象がみられるようになり、また、内航海運では従来の船腹過剰から転じて地域、季節によっては船腹不足が生ずるに至り、さらには都市の交通ふくそうによるトラックの輸送能率低下が都市所在貨物駅、港湾の荷役能率を阻害し、鉄道輸送、海運にも影響を及ぼすという問題も生じている。

旅客輸送

 35年度は活発な産業活動による雇用者の増加、所得水準の向上による個人消費の続伸によって、前年度に引き続き各輸送機関とも輸送量は順調に増加した。

 国内各輸送機関の輸送量の総計は2,402億人キロとなり、前年度を5%上回っている( 第8-2表 )。

第8-2表 国内旅客輸送実績

 内容的にみると、いわゆるレジャーブームの滲透により、各輸送機関とも行楽旅行などの消費性旅客の増加が目立っている。

 このような傾向に対応して輸送機関の側にも新しい動きがみられる。すなわち、従来各輸送機関が個別的に提供してきた輸送サービスを他の機関とも協力して、定型化しようとする傾向である。国鉄において、他の輸送機関、観光施設の一貫した利用を内容とする観光モデルコースを周遊する観光列車を運転したのをはじめ、鉄道と船舶、鉄道とバス等異なる輸送機関が互いにていけし、して、いわゆる結合輸送(座席の相互確保、乗車券等の通し発売をする一貫輸送方式)の形をとる輸送サービスが、次第に普及してきており、これがまた新しい需要を誘発する傾向がみられる。

 一方、都市への人口集中、雇用者の増加がもたらす都市の通勤輸送難は、35年度も大きい問題となった。35年度は東京、大阪、名古屋の各都市において計約18キロの地下鉄新線が開通し、その他の機関も輸送能力の増強を図ったが、需要の増加に追いつくことができなかった。

 都市における通勤輸送の緩和のためには、地下鉄の建設、国鉄、私鉄等の大量輸送機関の拡充が急務であるが、これらの実施にあっては、都市の再開発、住宅問題、定期運賃制度等、総合的な見地にたって、問題の解決を図ることが必要である。

輸送需要の構造変化と輸送力拡充の方向

 最近の我が国経済の成長はめざましいものがあり、内容的にみても、経済構造が次第に近代化しつつある。

 この経済構造の変化は輸送需要にどのような影響を与えているか、また供給者たる輸送機関は果たしてこの構造変化にふさわしい輸送を提供しているかという問題は、今後の経済成長下における輸送機関のあり方を考えるうえでのひとつの焦点であろう。

 以下経済構造の変化に伴う輸送の問題を需要供給の両面から考察してみることとしよう。

輸送需要の構造変化

貨物輸送

 我が国の経済は産業構造の高度化を伴いながら急速な成長を遂げつつある。 第8-3表 にみる通り、各輸送機関ともこの傾向を反映して、どの品目もおおむね輸送量は増加しているが、総輸送量に占める農産、林産物資のウェイトは次第に低下し、反面工業製品のウェイトが増加している。

第8-3表 輸送機関品目別輸送量比率推移

 また、地域経済が次第に広域化する傾向を反映して、貨物の平均輸送距離も各機関とも伸びてきている。さらに、地域的にみても、工業地帯を中心に鉄道、道路、港湾がふくそうする傾向が目立ち、新工業地帯の開発も各地に行われており、貨物の流動方向にも変化が起こりつつある。

 このように産業構造の変化は貨物輸送需要の内容に大きい影響を与えるに至っている。

旅客輸送

 経済成長に伴って、個人所得水準の上昇が最近著しい。これによる個人消費支出の増加分は、当初電気製品を主とする耐久消費財等の購入にむけられていたが、34年度あたりからしジャーブームといわれるように、旅行需要にも向かってきた。このため余暇利用による消費性旅行の伸びが、用務旅行の伸びを上回るに至り、旅行内容も変化しつつある。

 たとえば自家用車、航空機及び国鉄の特急、急行列車利用者等の顕著な増加をみてもわかるように、旅行距離の延伸、旅行内容のデラックス化がみられる。また、経済活動の都市集中の傾向は、都市を中心としての輸送需要の増大をもたらしている。これは一方では通勤通学者の顕著な増加をもたらし、他方では消費性旅行の増加傾向と結び付いて、都市と主要観光地との間の旅客の増加をうながし、これらに対する鉄道、道路の輸送力不足が目立ってきている。

輸送分野の変化

 輸送需要の変化は、輸送分野にも影響を及ぼしつつある( 第8-2図第8-3図 )。従来鉄道は国内輸送において、旅客、貨物ともかなり高い比重を持っていた。しかし最近、旅客においてはバス、航空機、貨物においては、トラック、船舶等の急速な進出により、鉄道輸送の比重は次第に低下している。すなわち、昭和26年度に総輸送量のうちで鉄道輸送は貨物52.8%、旅客88.4%を占めていたものが、34年度には貨物42.5%、旅客74.4%に低下しており、一方自動車輸送の比重は26年度の貨物5.9%、旅客10.7%から34年度にはそれぞれ14.2%、25.0%と大幅に増加している。これは、自動車、船舶、航空機など鉄道以外の輸送機関が着々その能力を拡充し、利用者が輸送条’件の最も便利で経済的な機関を選択し得るようになってきたことによるものであるが、それに加えて鉄道特に国鉄の輸送力が需要の増大や構造変化に対応する余裕にとぼしかったこともひとつの原因とみられる。

第8-2図 機関別貨物輸送分野推移

第8-3図 機関別旅客輸送分野推移

 このため、鉄道は貨物においては長距離、低級貨物の、旅客においては長距離旅客、通勤通学旅客の比重が増加し、輸送分野は次第に変化しつつある。

輸送力拡充の方向

 上述のような輸送需要の構造変化に対して、供給面ともいうべき輸送力拡充の方向はどうであろうか。

 従来の輸送力増強は、各輸送機関とも急速な需要の増大にうながされて、一般的な輸送力の増大を目標として行われてきた。しかし、経済成長に伴う需要構造の変化に対応した輪、力拡充を図るため各輸送機関、輸送施設とも新たな見地にたって輸送増強計画を再検討する必要が生じ、そのうち国鉄、道路、港湾については、36年度を初年度とする新五ヶ年計画が策定されることになった。これらの計画は、輸送需要の変化に対応した輸送力拡充の方向をあきらかにしている。

国鉄

 国鉄では32年度を初年度とする五ヶ年計画を実施中であったが、この計画はその後の経済成長により実情にそぐわなくなったので、新たに36年度を初年度として、総額9,750億円に及ぶ投資を内容とする新五ヶ年計画を発足させるとこになった。

 この計画の項目別の投資額は 第8-4表 の通りで、陸上における長距離大量輸送機関としての需要構造の変化に対応して、幹線の輸送力増強、車両の増備、及び通勤輸送の緩和が重点項目としてとりあげられている。

 この計画の財源の一部にあてるため、36年度から運賃改訂が実施された。

第8-4表 国鉄新五カ年計画項目別投資額

道路

 33年度を初年度とする総額1兆円の道路整備計画では需要を満たしえなくなったので、新たに36年度を初年度として、総額2兆1千億円の投資を内容とする新道路整備五ヶ年計画を発足させることになった。

 この項目別投資額は 第8-5表 の通りである。

第8-5表 道路整備五カ年計画投資額

 内容的にみると、輸送需要の集中する全国的な幹線道路、なかんずく高速自動車国道、1、2級国道の整備に重点を起き、1級国道をおおむね全線整備すると共に、2級国道、及び地方道についても大都市及びその周辺の重要産業地帯、国際観光地帯を中心に整備を進めることとしている。また、高速自動車国道については名神高速道路を完成させ、引き続き、東京、名古屋間の高速自動車国道についても、建設に着手することになっている。

港湾

 港湾についても輸出貿易の伸長、工業生産の拡大や構造変化に対応して、33年当初の五ヶ年計画の事業規模1,200億円を改め、36年度を初年度とする事業規模2,500億円の新五ヶ年計画が発足することになった。この計画により外国貿易港湾、工業用原材料輸送のための港湾、地方産業開発のため1港湾などを総合的かつ緊急に整備することになっている。

 国鉄、道路、港湾については以上のような計画投資が行われているが、その他の輸送分野においても、輸送需要の増大や構造変化に対応した変容が進んでいる。たとえはトラック輸送についてみれば鉄道の端末輸送や近距離の地場運送を中心としていたこれまでの姿から、路線貨物輸送に対する需要の増大と、路線事業の分野において大資本の進出、企業の集中傾向がみられ路線の長距離化が一段と進行し鉄道貨物駅の集約とあいまって鉄道輸送分野への進出も目立っている。また、内航海運をみても、定期航路網の整備、各種専用船の投入、優秀鋼船の配備等の体質改善を進め、かつての限界供給者的立場から脱却し独自の分野を固めている。さらに国内航空についても、ターボプロップ機その他の優秀機材の導入、航空機の安全性、経済性の向上、空港などの保安施設整備に伴う不定期便の定期化などの動きが活発になっている。

 このように国内輸送を担当する各輸送機関や輸送施設は、次第に変ぼうし、それぞれの分野を拡充強化しつつあるが、これらの合理的発展を確保し、おのおのの担当分野をより明確かにするため、輸送の構造政策ともいうべき点の配慮が必要となってきている。合理的な運賃体系、適切な投資計画によって各機関各施設を有機的に再編成し、近代的な輸送体系をつくりあげることが、経済の構造変化に対応する輸送問題解決の基本的な課題であろう。


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