昭和36年
年次経済報告
成長経済の課題
経済企画庁
昭和35年度の日本経済
建設
建設投資の長期的すう勢
既にみたように過去数年間にわたり、建設投資は一貫した増加傾向をたどり、32年の不況の時ですらその例外ではなかった。総資本形成について常に40%程度の構成比を占めている建設投資が、そのような安定的傾向を持って推移してきたことは、経済の安定した発展について相当積極的な役割を果たしてきているということができよう。
31~35年度の経過を前出の 第6-1表 にみれば、非住宅建築投資総額は設備投資動向とほとんど平行的にかなり大きな変動を示しており、そのため、建築投資全体としても土木投資に比して変動の大きい経過をたどっている。
しかし、土木投資は公共事業の安定的な発展を中心に変動の少ない上昇傾向を保って、建築の側の変動を緩和し、建設投資全体を安定化させる方向に作用してきた。公共事業投資がそのような安定的増大の方向をたどっているのは、景気に非弾力的な予算制度や経済基礎構造部門として現実の産出量を直接左右するものでない基本的性格によるものであるが、このすう勢が上昇傾向をたどっていることは我が国の経済基盤が急速な経済発展に対してはなはだしく遅れをとっている事情の反映にほかならない。
昭和28~9年ごろ及び31~32年ごろの輸送部門におけるはなはだしいひっ迫は、経済基盤立ち遅れの不均衡の1つの現象として、問題を明確かに認識させるものとなった。これに対処する長期的方策の樹立が叫ばれ、昭和32年12月に立案された『新長期経済計画』(昭和33~37年度)はこれに答える最初の試みとして、長期経済発展に対応する社会資本投資を交通部門を中心として量的に把握する努力を行った。これは公共投資の安定的増大に対する1つの基礎を与え、総額1兆円の道路整備5ヶ年計画をはじめとして、計画に見合った投資の進ちょくがみられるようになった。しかし、その後の日本経済の発展は新長期計画の想定よりもはるかに目覚ましく、多くの目標指標が2~3年の実施により達成されて、新しく現実に適合した計画を策定する必要が生ずることとなった。昨年12月に策定された『国民所得倍増計画』は、この要請に答えて『新長期計画』より一層広汎かつ詳細に社会資本の想定を行っている。この計画の中では、社会資本のうち政府固有の機能として整備さるべき行政投資は、36~45の10年間に総額16兆1,300億円の投資を行うことが適当であると結論された。「社会資本」と総称される経済の基礎構造のうちで、特に三つの重要な柱として産業基盤整備部門、生活基盤整備部門、国土保全部門がとり上げられ、産業基盤を中心に重点的整備を行うことが計画された。
各部門の実施計画も担当各省によって作成されつつある。総額2兆1,000億円の新道路整備5ヶ年計画、2,500億円の事業規模を持つ港湾整備5ヶ年計画、総計17万戸の建設を目標とする公営住宅建設3ヶ年計画、さらに政府施策住宅160万戸の建設を行う住宅建設5ヶ年計画も考慮されている。上下水道についても、それそれ10ヶ年計画により整備を図ることとし、上水道は現在49%の普及率を約80%まで、下水道は15%を43%まで引き上げることを目標としている。また、国土保全の分野では、総額1兆500億円の治山治水10ヶ年計画が既に決定されている。
いま所得倍増計画で想定されている目標年次の投資水準に向って現時点から毎年一定率で投資が増加していくものと仮定してみると、総資本形成では年率9%、行政投資は11%、民間設備投資は7.5%、個人住宅投資は15%という相当に急速なテンポの投資拡大が予想されることになる。このように拡大していくと想定される建設投資は前節にみたように長期化する建設ブームにつながり、さらにはその問題点が一層拡大した姿で迫ってくることになろう。
問題点の第1として、事業内容の合理化が1つの重要な鍵となっている。
例えば、新しい都市や工業地帯の開発が進められる場合前節に述べたような、地域計画の確立による産業人口の適正な分布ということの配慮が重要な、前提となることはいうまでもないが、それと同時にそこで計画される施設の物理的内容が旧態依然のものであってはならないのであって、建築物の高層化、不燃化といった近代化の方向が、利用面における都市の近代化、住居や事業所の快適、利便及び工事面における材料、施工機械の改善による大量生産という事実に即応するものとして、とられなければならないであろう。
土木工事においても、高速自動車道、街路などの区分された計画設計で利用面の合理化を誘導しながら建設工事の生産性の向上を可能にするように発展することが望まれる。多くの施設がそれぞれそのような方向を開拓し、同時に種類を異にする施設相互間の総合性を確保し、全体として建設工事の産出物が、いわば空間秩序の合理化と生産性の向上に資することが特に期待されるであろう。
第2に、施工上の近代化、機械化は益々強力に推進されなければならない。
現在既に一部にみられる建設業労働力の不足、特に技能者の不足は将来一段と深刻化するものと考えられ、賃金コストの上昇は建設単価の増大に連つてくる。最近における建築工事の単価をみれば労務費の上昇、資材費特に木材の騰貴によって上昇を示しており、巻末附属統計表第53表にみるように、例えば木造庶民住宅の指数は25年基準で本年3月には283まで上昇している。土木工事の側では大規模工事の増大にともない、機械化による生産性向上も著しいが、そのような余地の比較的に少ない建築工事の分野では、大量生産方式による規格化された完成財を使用するようなプレフアブリケイション工法の採用を推進すべきであろう。資材面の隘路もこの過程において構造的に解決されることが望ましい。
第3に、以上のような状況は建設業の生産性向上に拍車をかけ、その近代化を不可避とするであろう。貿易自由化、海外経済協力の発展に伴って建設面においても、国際的進出における幾多の朗報を得るようになったが、建設業の近代化は熾烈化する国際競争に伍する実力を整える意味でも極めて重要である。今後の数年間は建設業にとってもブームを謳歌する時であるよりは、むしろはるかに困難な近代化を達成しなければならない時期となるであろうと考えられる。