昭和34年
年次経済報告
速やかな景気回復と今後の課題
経済企画庁
各論
国民生活
むすび
33年度の国民生活は前述したように平均的にみれば29年度以降としては最も消費生活の向上をみた年であり、産業活動の停滞したのに比べると恵まれた年であったといわなければならない。しかし、このような消費生活の一般的向上にとり残されている所得の低い就業の不安定な層においてはかえって生活の悪化をきたし生活保護への転落層が増えたことなども一つの問題点といえるであろう。
また、これまで解決が要望されてきた住宅難の解決、貧困からの解放という二つの問題は本年も依然残された重要な問題である。
住宅難については特に低所得の階層に集中的にあらわれている。この問題の解決は低家賃でしかも質的に劣らない住宅を早期にかつ大量に建設していくことが重要な方向である。これを実現するためには長期低金利資金の供給と土地利用についての画期的な措置が望まれよう。
貧困からの解放を目指す施策の一部として国民年金制が実施の運びとなり、国民皆保険についてもその実現のための態勢が進められつつある。これらの諸制度はその水準が低いので十分のものとは言い難いが、社会保障制度としては一歩前進の態勢にあるといえよう。
しかしながら、この問題を根本的に解決するには貧困世帯を救済するにとどまらず、貧困層に転落するのを防止することが必要である。そのためには一方では社会保障を強化しながら不安定就業層の安定化や中小企業の近代化と最低賃金性の積極的普及強化などを通じて低所得層の所得水準引上げを推進していくことが重要な方向といえるであろう。