昭和33年

年次経済報告

―景気循環の復活―

経済企画庁


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各論

建設

新規建設活動の概況

 昭和32年度の新規建設活動の概況は、 第54表 にみるごとく、総工事費において約1兆2,000億円であって前年度に比して約13%の増加をみせている。土木関係についてみればその増加は18%と建築工事を上回っているが、その原因は道路、港湾、鉄道等輸送関係の基礎施設に対する投資が急速に強化されてきた事情を反映するものであって、経済発展を制約する隘路部門としてその増強が叫ばれてきたこれらの部門が、その遅れを取り戻す第一歩を踏み出したことを示している。他方建築投資は例年のごとく総建設投資の約6割を占めているが、30年度以来急激な増加をみせてきた傾向に対して本年度は10%とその増加率が少なく、景気後退の動きに明瞭に反映した。この中では、政府の施策による住宅建設が30%増と着実な増加傾向を示しているが、他の部門はいずれも金融引締めの影響とデフレの進行による投資意欲の減退からその伸びは少なかった。

第54表 建設工事費の推移

 これを四半期毎の動きでみると、 第86図 の ① にみるように、土木工事費については32年1~3月から7~9月までの増加は例年にみられるものよりはるかに急激であり、10~12月には財政投融資の削減と景気後退の深刻化につれて公共事業以外の土木工事は大きく減少したが、全体としては前年度の最高水準を維持している。また建築については土木より変動の比率は少ないが、7~9月以来一貫した漸減傾向にある。

第86図 建設活動の推移

 この内訳は 第86図 の ② のごとくであって、土木についてみれば、公共事業は1~3月から7~9月までの増加の後その水準を保っているが、公共事業以外の土木工事は7~9月をピークにして以後10~12月において大きく低落した。これは主として電源開発工事の減少が影響しているが鉄道、電信電話線路等もこの期においては減少をみている。次に建築においては、公共建築物(この中には住宅金融公庫、住宅公団関係の住宅を含まない)は10~12月に公営住宅建設、公務文教用建築の増加があってほぼ1~3月の水準を回復したがそれ以後は再び若干下降に転じている。しかし量的にははるかに多い民間の建築物(この中には前記の公庫、公団関係の住宅を含む)の動きが4~6月をピークにそれ以後一貫して減少しており、特に民間非住宅建築の下落が大であったため、建築全体としての動きにもそれが強く反映された。

 また、これらの建設活動の推移を対前年同期比によってみれば、 第86図 の ③ のごとく、公共以外の建設活動は7~9月以後伸び悩みから低下に向っていることが知られる。公共事業の10~12月期の伸びの低下は例年にみられる程度のものであり、公共建築においては前述のごとくこの期にはむしろ大きな伸びを示した。

 このように景気後退の影響は、建築において土木より速やかに現れ7~9月以後減退に向っており、10~12月に入って後は民間の建設活動は明瞭に低落したこと、この間において公共建設投資は着実な増加傾向をたどったこと、及び年間を通じてみた場合、建築においては商業・サービス業建築以外は大体昨年度以上の水準を維持し、土木投資の増加は建築を上回って活発であったこと等が本年度の特色であったと考えられる。しかしながら不況の長期化と建設活動の景気循環に対する時間的な遅れは、民間の建設活動縮小の傾向が33年に入ってから引き続いて長期的に現れる動向を示しているものと思われる。


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