昭和33年

年次経済報告

―景気循環の復活―

経済企画庁


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結語 --布石の年--

 第一次大戦後11年にして世界経済は恐慌に突入した。いまや、第二次大戦後13年にして、世界のいわゆる新しい資本主義は試煉の年を迎えようとしている。不況に対する抵抗力の強化によって、景気の大幅な落ちこみは避けえられるとしても、ブームとその後の反動調整という景気循環の法則は世界資本主義の全域にわたってきびしくその論理を貫ぬき、景気沈滞局面がかなり長びく可能性をはらんでいる。日本経済もまたその例外でない。我が国にとって景気沈滞が長引くことは何よりもまず新規労働力吸収の困難を意味する。

 戦後我が国経済の成長力は一貫して強く、これをいかにして国際収支の限度内に保つかが経済政策の主題であったというも過言でない。しかるに最近においては成長力はようやく弱まり、景気の循環運動はさらにあらわになろうとしている。いまや日本経済は戦後はじめて典型的な循環対策に取組む必要に迫られている。他面国際収支は黒字を示しているものの、その前途は必ずしも楽観を許さない。従って現局面は日本経済に極めて複雑かつ困難な問題を課している。

 世界景気後退時における景気支持対策の実施が国際収支との間に醸しだす矛盾はその代表的なものだ。この矛盾の解決のためには、我が国の側における輸出振興の努力が不可欠なことはいうまでもないが、世界貿易の拡大均衡を目指す国際的協調が前提とならなければならない。国際流動性の強化その他の対策によって、世界経済がその生産と貿易拡大の連鎖反応を開始することができるように、折にふれて海外に呼びかける用意は、この際すこぶる重要であろう。

 課題はひとり国際収支と景気対策の矛盾の克服のみにとどまらない。もし過大膨張の原因の究明とその是正を等閑にして、景気刺激に焦るならば、浮揚力は再び統御を困難にするまでに昂まるおそれなしとしない。われわれは調整期を利して、産業及び金融組織の姿勢を正し、もって過大膨張への禍根を絶ち、景気調整の武器庫を充実して、経済の激変をさける態勢を整えておかなければならない。

 国際均衡と国内均衡、地固めと前進、これらの相互に矛盾撞着をはらんだ課題の解決は国内における官民一致の努力と相まって国際的協調による世界経済の均衡発展の実現によってはじめて可能となるであろう。もしこの時において施策よろしきをうるならばこの小休止の年の災を転じて布石の年の福と化し、再び世界経済の好転とともに民族発展の巨歩を踏み出すことができるであろう。


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