昭和33年
年次経済報告
―景気循環の復活―
経済企画庁
総説
序言
かえりみれば戦後ここに13年、焦土から立上った我が国経済は西ドイツをも凌ぐ速やかな成長を達成して、戦前日本経済が占めていた国際的地位をほとんど回復した。しかし速やかな成長には大きな変動が伴いやすい。およそ世界諸国の中で我が国ほど絶えず経済気象の激変にさらされている国も少ない。昭和30年から31年の初めにかけて我が国経済は輸出の好調を背景に物価安定、金融緩慢、国際収支黒字のいわゆる数量景気を享受していた。しかるに投資ブームの進展に伴い経済の拡大が世界一のテンポを示すにつれて景気過熱の現象は、ようやく経済の各部面に顕著になった。かくして32年に入るや連月累積する国際収支の赤字は、ついに同年5月引締政策への転換を余儀なくしたのである。その後1年余り我が国の経済気象は再び激変した。物価、生産と並んで輸入は世界一の下落率を示し、国際収支が赤字から黒字に逆転したばかりでなく、あれほど逼迫したかにみえた需給も供給超過に変わり、経済界の関心はいまや国際収支から生産過剰に移っている。外貨危機を契機とするデフレ政策の登場が経済気象の激変をもたらした経験は、今回が最初ではない。28~9年にもそうであった。しかし当時は世界経済の好転を契機に、景気は29年の秋を底にして反転し、前述の30年の数量景気、32年の投資景気に接続したのであった。当時の経験に比べると、今日の世界景気の前途には楽観を許さぬものがある。すなわち、1949年及び53~4年と異なり、今回の景気下降は、設備過剰、投資意欲の停滞を主軸とし、先行した投資ブームの反動過程として、景気循環の中に深く根を下したものであるだけに、立直りまでには、前二回の経験におけるよりも長い期間を要するであろうといわれている。このような内外の情勢に照して当面の日本経済の課題は二重である。その一は、この間に処して、日本経済再拡大の契機をいかにつかむかということであり、その二は、経済基調の大変動を将来も繰り返すことを避けるために、今からいかなる準備をしなければならないかということである。
本報告においてはまず景気循環における現時点の把握に努め、ついで戦後経済の成長趨勢の検討を行い、終りに右のような循環と趨勢の統一的認識のうえに立って、近き将来日本経済の成長を高率かつ安定的に再開する方途に関して若干の考察を試みたい。