昭和32年
年次経済報告
速すぎた拡大とその反省
経済企画庁
各論
財政
昭和31年度の財政
はしがき
昭和31年度は、経済の予想外の拡大に財政が「超均衡」を顕現した年であった。すなわち、好況の本格的な展開の前に組まれた31年度の当初予算は、財政投融資に民間資金活用という新たな動きがみられたものの、一般会計はおおむね29年度来の緊縮予算を持続したものであった。しかしその後の好況の展開につれて租税収入は当初見込みを大幅に上回り、このため年度末に二次にわたる追加補正が組まれたにもかかわらず、約700億円もの自然増収をみるに至った。このことは、輸入の増加と相まって年度間を通ずる国庫収支の揚超基調として現れ、特に年度後半における金融逼迫の一要因となったが、同時に有効需要の面から31年度における景気の過熱を抑制する作用をもったことは否定できない。
一方毎年悪化の一途をたどってきた地方財政も、30年度を境にようやく立直りの兆しをみせ、31年度は国、地方を通ずる再建の諸措置と好況による税収の増加などのため一層の好転が予想されている。
このように31年度の財政は、国、地方を通じて健全性を堅持することにより景気の上昇に対する安定要因として作用していたといえる。しかし自然増収の増大は同時に大幅な減税の可能性を示すものであったし、また経済の拡大は産業基盤の隘路など多くの問題を表面化させるに至った。このような状況から32年度の財政は、所得税を中心とする大幅な減税を行うとともに各種の施策を講じて、この結果財政規模の増大をみるに至っている。
予算
一般会計歳出の規模
31年度当初予算は、(イ)通貨価値の安定、(ロ)国、地方を通ずる健全財政の堅持、(ハ)財政と金融の総合的一体化の諸原則のもとに一般会計において前年度を216億円上回る1兆349億円の財政規模で成立した。しかしその後大幅な税収の増加が予想され、これによって産業投資会計資金への繰入れ、地方交付税交付金の追加など400億円の第一次補正、義務教育費国庫負担金等の不足分補填など147億円の第二次補正が行われた結果、補正後の財政規模は1兆897億円と前年度を764億円上回るに至った。これは30年度の増加額134億円に比べるとかなり顕著な増大であったが、しかし国民所得の伸びがさらに著しいため、 第101表 にみるように国民所得に占める割合は前年度決算額の15.2%から14.2%へと一層低下している。
一般会計歳出の内容
このような歳出の内容を重要経費別にみると 第102表 の通りで、産投会計資金への繰入れと地方財政費の増加が全増加額の63%を占めている。
前者は産投会計に新たに資金を設け、そこに好況による財源を保留して32、33年度に150億円ずつ出投資を行おうとするものであり、後者は当初予算編成の重点であった地方交付税率の引上げと補正による税収増加のはねかえりによるものである。
この他社会保障費は臨時就労対策事業の新設などによる失業対策費と社会保険費の増加などのため140億円増加し、また防衛関係費は防衛分担金削減の一般方式の成立、自衛官17000名の増員、航空力増強の重点化などによって80億円の歳出増加と143億円の国庫債務負担行為をみている。恩給関係費は不均衡是正等のため引き続き74億円の増加を示した。特に注目すべきは原子力関係費の動向で、総額20億円と15億円の増加をみせ、他に16億円に及ぶ国庫債務負担行為を行っている。
これに対し公共事業費はほぼ前年度並みにとどまったが、住宅対策費は住宅公団等に対する出資の削減に伴って大幅な減少をみせ、その他の出投資、国債費、食糧管理費も減少をみている。
このように31年度の歳出増加の内容は、増加額の大きかった割合には比較的当然増的な経費が多かったこと、産投会計資金への繰入れや地方交付税の補正など32年度へ歳出が繰り越されたものが多かったこと、振替的な支出が多く直接投資的な支出が少なかったことなどが特徴であり、また一般会計の出投資を全額削減し、これに伴い産投会計によるその肩代わりがみられたことも大きな特色であった。
一般会計歳入の構成
一般会計の歳入においては、租税収入が補正による530億円の増加もあって875億円もふえ、この結果、租税及び印紙収入の歳入に占める割合は 第103表 のように30年度の78.0%から80.7%へと一層増大している。これに対して専売益金はたばこ売上数量の増勢の鈍化などの理由でほぼ前年並みにとどまり、歳入中に占める割合も若干の低下をみている。
租税
租税改正
31年度の税制改正は、(イ)給与所得控除の引上げによる151億円の減税、(ロ)これを補う法人税、砂糖関税の増税151億円、(ハ)差引増減税ほとんどなしという内容のものであった。
これは税収の著しい増加が期待できなかったためもあるが、主として本格的な税制改正を臨時税制調査会の答申をまって32年度に行うこととしたためである。
徴税状況
ところが経済の予想外の拡大に租税収入は著しい伸長を続けた。「租税及び印紙収入の収入状況」によると、 第104表 のように総収入の決算額は9,720億円に達し、補正後予算額に対して705億円、当初予算額に対しては実に1,235億円の自然増収をみている。これは増加額、増加率とも最近において26年度につぐ大幅な自然増収であったが、これが物価の相対的な安定下にみられたことが当時と異なる主要な点であった。
その内容をみると、第一に直接税がより景気弾力的であったことが特徴的である。所得税は200億円の補正後も226億円の増収をみ、法人税も同じく200億円の補正後に207億円の増収をみて、この結果当初予算に対する自然増収の67%がこれら2税の自然増収に基づいている。また税制改正を調整して対前年増加率をみても 第80図 のように所得税、法人税の伸びは大きく、間接税の13%増に対して直接税は29%の上昇を示している。所得税では主に給与所得の好調を反映して源泉所得税の伸びが著しかった。しかし30年度に予算額を下回った申告所得税も78億円の自然増収をみせ、景気の波及を現している。その32年3月末の確定申告状況をみると、 第105表 のように営業所得はいわゆる法人成による高所得層の法人への移行にもかかわらず総所得額で8%の増加をみせ、自由業等のその他事業所得や給与配当等のその他所得もそれぞれ19、26%の増加を示している。ただ農業所得は米作が大豊作であった前年度ほどには多くなかったこと、基礎控除引上げの平年度化の影響が強く現れたことなどのため、人員、総所得額、税額とも30年度をかなり下回るに至っている。法人税は極めて好調であり、30年度に対して35%もの大幅な増加を示した。その申告状況によると、申告件数及びそのうちの課税申告割合はともに上昇し、普通法人の申告所得額は46%(試算)の増加をみせている。これを規模別にみると、資本金または所得1,000万円以上の大法人の申告所得額が52%の増加を示しているのに対し、それ以下の中小法人は24%にとどまっているが、年度間の推移では大法人が年度当初から好調であったのに対し、中小法人は年度後半に収益を高めてきたことが対照的である。さらに資本金1億円以上の大法人の3月期決算によって業種別に前年同期に対する申告所得額の伸びをみると、第一次金属工業の255%増を筆頭に機械250、輸送用機械232、建設198、電気機器179、ゴム167%増と投資景気を反映した部門の所得増加は著しく、これに対し申告所得額が前年同期を下回ったのは水産業及びその他産業の2業種に過ぎない。一方間接税関係では二つのことが特徴的であった。第一は、大衆消費的なものの伸びが低いのに対して高級消費的なものの伸びが著しいことである。酒税は40億円の補正後も39億円の増収をみたが、対前年増加率は8%にとどまった。また砂糖消費税、入場税の伸びも鈍く、専売益金も21億円のわずかな増収にとどまっている。これに対して、物品税は30億円の補正後も12億円の増収をみ、前年度に対して22%の増加率を示したが、これは自動車、テレビ等の耐久消費財の売れ行きが良好だったことに基づいている。このような消費の高度化の現象は全体として伸びが鈍かった酒、たばこの販売状況にも現れ、焼酎、バット等下級品の売れ行き低下に対し、ビール、ピース等上中級品の売れ行き増大が目立っている。第二は、輸入の激増に伴い関税が最高の増加率を示したことである。すなわち関税は60億円の補正後も84億円の増収をみせ、42%という著増を示した。これは企業活動の活発化による原材料、機械等の輸入増加に基づくものであったが、このような企業活動に関する税目の好調だったことは法人税、関税の他流通税関係にも現れ、印紙収入、有価証券取引税、取引所税はそれぞれ著しい増加をみせている。
さらに年度間の推移において、これら自然増収の主因となった所得税、法人税、関税の伸びが年度後半になるに従って上昇したことも一つの特色であって、税制改正を調整して四半期別にこれら諸税の対前年増加率の推移をみると、源泉所得税は22、28、26、35、法人税は25、38、49、54、関税は8、44、35、73%増と尻上がりに好調を示している。以上のように31年度の自然増収は何よりも好況による課税対象そのものの増大がもたらしたものであったが、同時に資金繰りの好転がこの傾向をさらに助長したことも見逃せない。金利の低下などもあって法人税の徴収猶予は減少し、このため例えば資本金1億円以上の大法人の期限内収納率は2~1月平均で前年同期に比し約7%の上昇をみせている。また新規滞納発生の著減を理由に滞納額は減少を続け、31年11月には23年度以来はじめて500億円の大台を割る状況であった。
租税負担と租税体系
この結果租税負担は若干増加し、租税体系中の直接税の比重が上昇している。国民所得に対する租税負担の割合は、31年度の税制改正が前述のようにほとんど増減ないものであったため、 第106表 のように当初は国税だけで30年度よりわずかに減少し、地方税を含めて30年度と同じという見込みであった。ところが以上のように税収が大幅に増大したため、結果的には国税だけで14.2%、地方税を含めて19.8%と、30年度に対し0.2ないし0.3%の増加をみるに至っている。このような租税負担の増大は、所得税の累進構造及び消費の高度化が所得、消費の増加以上の税収の伸びをもたらしたこと、及び法人税が著増したことなどによるものであって、増税の場合と全く異なる意味をもつものであった。一方租税体系においても、税制改正の結果第107表のように当初は直接税の比重が若干低下することが予想されていたが、前述のように直接税がより景気弾力的であったため、その比重は53.0%と逆に30年度に対して1.6%の上昇をみるに至っている。
財政投融資
31年度計画の概要
31年度は一般会計予算が以上のようにいわば緊縮財政の持続的色彩が強かったのに対し、財政投融資において民間資金の活用、新機関の設立等による新たな展開がみられたのが特徴であった。すなわち31年度の財政投融資計画は、 第108表 のように30年度実績に対し423.5億円の増大を示したが、その79%に当たる333億円は公募債借入金の増加によるものであった。これは31年度の当初予算編成時において、経済の見通し難から租税、郵便貯金等の大幅な増加が期待できず、一方産投会計、余剰農産物会計の資金もそれぞれの事情から減少することが見込まれたので、このような政府資金の減少(30年度当初計画に対し、177億円の減少が見込まれていた。)を補うとともに、当時進行中の金融緩慢化による民間遊資を積極的に活用する方針がとられたためであった。
このため従来国鉄、電々の両公社に限られていた政府保証債の発行を新たに住宅、道路の両公団、電源開発会社、新設の北海道開発公庫、及び日本航空、東北興業会社に認めてこれを200億円から559億円に増額するとともに、一方開発銀行、輸出入銀行の市中協調融資比率を高めて重要産業向け資金の民間への肩代わりを促進するなど、これによる民間資金活用額は総計約1,400億円にのぼると称せられる状況であった。これと同時に一般会計からの出資が全額削減され、これに伴い産投会計によるその肩代わりが行われたことは前述の通りである。
一方このような資金源の状況に対応して、資金運用の面でも 第81図 のように開銀向け政府資金の大幅な削減、金融債引受の中止などがみられ、他方農林漁業金融、中小企業金融、住宅金融、地域開発金融など比較的市中金融によりがたい部門へ政府資金を重点的に配分する方針がとられるに至った。これとともに新たな機関の設立がみられ、しかもこれが多く公募債などによって行われたのも31年度の特色であった。すなわち、新たに道路公団、森林公団、北海道開発公庫が設立され、30年度に登場した住宅公団、愛知用水公団、農地開発機械公団、石油資源会社とともに、ここ1、2年来、公庫公団等の増加は著しいものがある。しかもこれらの拡大が第81図のように主に公募債と余剰農産物資金によって行われたことは、国鉄、電々両公社における公募債の増大傾向とも照し合わせて、財政投融資の新たな展開を示唆している。31年度のこれらの動向が長期的にどのような意味をもつかについては、改めて第二節でみることとしよう。
31年度の実行状況
このような31年度の財政投融資計画は、その実行においても好況を反映して特色ある動きを示した。
まず資金運用の面では、開銀、輸銀に対する資金供給の減少と、国民、中小企業両金融公庫に対する資金共有の増大とが対照的である。開銀に対する政府資金の供給は、32年6月末で計画に対し20億円の減少をみせているが、これは何よりも企業収益の向上等の結果同行の回収金が大幅に増加したためであって、その貸付額は当初計画より75億円もの増大を示している。また輸銀も輸出決済の現金化増大によって同じく回収金が著しく増加し、このため6月末に102億円の計画未済をみせている。農林漁業金融公庫も資金決定と実行のずれから50億円の減少をみている。これに対し国民、中小企業両金融公庫は、同様に回収金がかなり増大したにもかかわらず、資金需要がさらに旺盛だったため、第4・四半期にそれぞれ15、20億円の政府資金の追加をみるに至った。このような対照をみせながらも産業資金供給における財政資金は、民間資金への肩代わり促進の方針と実行における以上のごとき動きから、「金融」の項でみるようにその純増額はほぼ前年度並みにとどまり、産業資金供給総額(増加額)に占める割合は30年度の7.5%から4.0%へと戦後その比重の最も低下した年となるに至っている。
一方資金源の面では、政府資金が極めて好調な伸びを示した。郵便貯金は計画額990億円を130億円上回り、その他厚生年金、その他特別会計預託金、回収金、開銀納付金もそれぞれ好況を反映して大きく増加し、このため資金運用部、産投会計、簡保資金の資金源はかなりの計画超過額をみるに至っている。これに対し政府保証債の発行は、道路、住宅両公団及び北海道開発公庫の事業計画の未進捗と、電々公社の収益向上のため99億円の繰り延べ、45億円の不用をみるに至り、結局31年度の発行額は計画に対し144億円減の415億円となっている。なお余剰農産物資金は農産物買付遅延のため57億円を32年度の財源に予定している。
財政資金対民間収支
31年度の概況
このような好況を反映した財政の動きは全て財政収支に集中的に表現された。加えて好況に伴う輸入の増加が外為会計を引揚超過に転じさせた。この結果31年度の財政資金対民間収支実績は1,634億円という戦後最高の引揚超過を示すに至っている。しかも後述のように資金運用部による緩和措置がとられてこの結果をみたのだから、もしこの措置がとられなかったならば2,334億円という異例の引揚超過をみたことになる。30年度は2,766億円の支払超過であったのだから、差引4,400億円もの開きであり、輸出景気から投資景気への日本経済の移行はこの財政収支の動きに端的に表現されているといえる。すなわち、30年度は国内景気の停滞を反映して一般会計収入は前年度を下回り、外為、食管両会計を除くいわゆる純財政収支は1億円の揚超にとどまった。一方外為会計は輸出超過のため1,699億円の大幅な払超を示し、豊作による食管会計の払超と相まって金融緩慢の要因となったことは周知の通りである。ところがこれらの事情は投資の増大を通じて国内景気の上昇をもたらし、それが次第に租税、郵便貯金、公社などの国庫収入を増大させ、一方輸入の増加による外為会計の揚超化をもたらした。この経過を27~31年度平均の四半期別の財政収支の動きと比較してみると、純財政収支は30年第4・四半期から揚超超過に転じ、以後117億円、337億円、405億円、696億円(ただし、資金運用部による緩和措置なきものとした場合)と揚超増加(または払超減少)の幅を拡大している。一方外為会計も5月以降揚超に転じ、四半期別では払超の幅を漸減して、第4・四半期には761億円の大幅な揚超となるに至っている。食糧買入の減少などによる食管会計の動きも年度後半にはこの傾向を助長した。このため国庫余裕金は 第83図 のように年度中に1,057億円の増加をみせ、政府預金から政府短期債務を控除した純余裕金でみても年度間に1,632億円の債務減少をみせている。しかしこのような財政の揚超は特に年度末に金融市場の逼迫を招く要因となったので、12月80億円、2月120億円、3月500億円、合計700億円の資金運用部による市中保有の公社債、金融債の売戻し条件付買い入れが行われるに至った。これらの結果前述のように年度間に1,634億円の揚超となったが、その内容をみると前掲 第82図 のように(イ)一般会計は支出が30年度より300億円の増加にとどまったのに、収入が1,688億円もこれを上回ったため、30年度を1,388億円も上回る2,003億円の揚超を示した。(ロ)食管会計は食糧買い入れの減少のために1億円の払超にとどまり、30年度より1,067億円払超が少なかった。(ハ)食管会計を除くその他特別会計では資金運用部の前期措置で835億円の払超となったが、これを除くと30年度より572億円の払超減少となる見込みで、これは郵便貯金、保険金等の収入増大に基づくものであった。(なお国鉄、電々両公社は財政収支ベースでそれぞれ285億円、230億円の事業収入の増加をみたが、後者の工事増大のため合計で144億円の払超増加となっている。)(ニ)外為会計は633億円の揚超となり30年度との間に実に2,332億円の開きをみせている。
戦後の財政収支
ここで戦後の財政収支をみると三つのことが特徴的である。第一は、年度間に典型的な季節変動を描いていることである。すなわち純財政収支は税収その他歳出の関係から、食管会計は供米代金支払の関係からそれぞれ一定の季節的な波を描き、このため総収支も第1・四半期以降若干の払超、若干の揚超、大幅な払超、大幅な揚超という四半期別の典型的な季節変動を示している。第二は、長期的にも純財政収支、外為会計が大きな波を描き、しかも特に最近にかけては景気循環を反映した動きを示していることである。インベントリ・ファイナンスなど国庫内振替収支を含めた実質収支で24年度以降の動きをみると、 第84図 のように純財政収支は28年度から払超に転じ(一般会計は揚超である。)、不況の29年度は大幅な払超で、景気上昇につれ揚超に転じている。また外為会計を、外為貸付、別口貸付等を除いた収支でみると、払超の幅を狭めて28年度は揚超に転じ、再び輸出圧力から払超に転じたものの31年度にはまた揚超となっている。政府資金の蓄積と放出、歳出繰り越しの累積と整理、さらに予算補正の有無と時期等財政の態度の問題もあるので全て景気循環とのみいえないが、少なくとも我が国において国内景気が過度に進行すると、純財政収支は税収等の収入増、失業保険給付等の支出減の自働的なメカニズムを通じ、外為会計は輸入増を自働的に反映することによって、財政収支が自然揚超に転じ、これをチェックする方向に働く機能があることは否定できない。第三は、24年度以降の累計で外為、食管両会計の払超、純財政収支の揚超という結果がみられることである。 第109表 によるとこの8年度間に実質収支で外為会計は2,496億円、食管会計は2,151億円の払超を示し、純財政収支は逆に3,071億円の揚超をみせている。外為会計の払超は戦後国際収支の受取超過が多かったためであり、食管会計の払超はその大半が買入食糧の在庫に見合うものと考えられる。一方純財政収支の揚超は一般会計における剰余金、歳出繰り越し等や特別会計における積立金、余裕金等の増加及び日銀手持ちの復金債償還等に基づいている。この結果24年度以降の日銀券増発3,537億円のうち1,322億円を財政が供給したことになっているが、ひと口にいって財政は外貨と米に見合って通貨を供給し、その大半を租税等で引き上げたということができる。
31年度は急速な経済の拡大をみたが、そのため財政収支は大幅な揚超をみるに至った。しかもそれが第4・四半期の季節的な揚超の拡大という形で現れたため、国庫制度に関する多くの論議を生んだ。しかしこの問題は我が国の金融市場の特殊性とも深く関連しているので、今後の検討にまつところ大きいという段階である。
地方財政
地方財政の動向
毎年悪化の一途をたどってきた地方財政も、30年度を境にようやく再建の方向に向かいつつある。すなわちここ数年来累増を続けてきた実質的赤字団体の赤字額は、 第110表 にみるように30年度決算において財政再建債等を調整したベースで61億円の増加をみたものの、29年度の187億円の増加に比べれば著しい鈍化を示した。また29年度に9.4%の膨張を示した地方財政の規模も、30年度は0.5%増とほぼ前年度並みにとどまっている。これは地方団体における財政健全化の努力と国が30年度に講じた諸改善措置の現れとみられるが、31年度においてもさらに地方行財政制度の改革や好況による税収増加の影響などもあって一層の好転が期待されている。
地方財政再建の諸措置
31年度の地方財政対策
31年の予算編成において地方財政の再建は最大の課題であった。これに対して国は、過去の赤字の解消を30年度末に成立した地方財政再建促進特別措置法によることとし、新たに赤字を発生せしめない方針で地方行財政制度全般にわたる改正を行い、地方財政計画を是正して、なお不足すると考えられた財源に対しては地方交付税率を22%から3%引き上げるなど多くの措置を講じた。31年度に行われた地方財政対策の概要は 第111表 の通りで、教育委員会の公選制廃止から国庫補助率の引上げ、新税の創設に及ぶかなり広範囲なものであった。この結果393億円の財源措置がなされたこととなり、新たな赤字を出さない基礎ができたものと考えられた。また地方財政の予測の基準となる地方財政計画が現実に即しない面が多かったのを改め、給与実態調査の結果などを考慮し、29年度決算に基づいて合理的に算定を行った。この結果、31年度の地方財政計画は 第112表 のように30年度に対して468億円の増加となっているが、30年度の単年度歳出決算見込額に対しては125億円の増加にとどまるものであった。また累増する公債費に対応して地方債対策もかなりの変化をみせ、30年度計画額に対して新規の普通事業債を185億円削減し、代わりに収益的な公営企業債を91億円増額するとともに、起債の許可方針を従来よりも一層償還能力等を重視したものに改め、同時に借替債80億円を新たに予定している。なお、31年度には税収増のはね返りとして110億円の地方交付税の追加補正が行われたが、このうち86億円は32年度に繰り越されて交付税算定上累増する公債費対策にあてられている。
これらの結果、国、地方を通ずる歳出純計中に占める地方財政純計の割合は64%と前年度に対し若干の増加にとどまる見込みとなっている。
地方財政再建促進特別措置法の施行状況
これと同時に31年度は、地方財政再建促進特別措置法が実質的に第一歩を踏み出した年として重要な意味をもっている。この法律は、29年度の赤字団体でこの法律による再建を希望するものには利子補給のつく赤字補てん債等(財政再建債という。)その他特別の便宜を認めるが、それとともにこれら団体は自治庁長官の承認した再建計画に則って財政再建債の償還等による赤字解消の義務を負うという趣旨のものである。この法律に定められた期限までにこれによる財政再建を申し出た団体は30年度の実質的赤字団体の、都道府県では50%、市は54%、町村は34%、合計39%598団体に及んでいるが、これに対し31年度末までに423億円にのぼる赤字補填債が認められている。またその再建に要する期間はおおむね5年ないし8年であるが、都道府県では徳島、佐賀、鹿児島、秋田、福島の5県、市町村では27市82町村が10年以上の長い再建期間を要することとなっている。この再建期間中にこれら団体は、再建計画に基づいた財政運営をして財政再建債を償還してゆく義務があるのだが、このため歳出の節減や歳入の増加が種々はかられており、例えばこれにより新税の創設や税率の引上げを考えている団体は7県149市町村に及んでいる。もっとも再建計画は作成時の経済情勢や制度に基づいて作られているため、自然増収等のある場合は計画変更によって当初よりはかなりゆとりのあるものとなっているが、しかし一部の例外を除く多くの団体にとって、この再建計画の遂行には今後大きな努力を要するものと思われる。
地方団体の再建努力
30年度以降の地方財政の再建は、何よりも地方団体自らの努力に負うところが大きい。30、31年度には国の援助による110億円の退職手当債を得て39000名程度の行政整理が行われた。機構の縮小も積極的に行われ、30年度上半期には都道府県で59の課、225の地方事務所等(ただし若干の代替機関の設立がある。)が統廃合された。高等学校も30年度に本校は21校増加したものの、分校は72校の減少をみせている。これらの結果30年度の歳出増加は60億円の微増にとどまったが、なかでも投資的経費、物件費等は 第85図 のように29年度に比し大幅な減少を示している。人件費は前記のような努力にもかかわらず期末手当、退職手当の増加などで増大したが、しかしその増加率は29年度の17.4%に対し6.5%と著しく鈍化している。ただ公債費は依然顕著な増加をみている。一方、歳入では地方税が徴収歩合の向上にもかかわらずその増加は著しくなかったが、地方交付税が増額されたので歳入中に占める一般財源の割合は29年度より3%増の48%となるに至っている。
第85図 昭和29、30年度の地方財政決算額の主要項目別対前年増減率
31年度の状況
このような国、地方を通ずる再建措置に折柄の好況の影響が加わって、31年度の決算見込みは一層好転する予定である。道府県税の徴収状況を4月末でみると、税制改正による増収をも含めて前年同期を徴収歩合で4.2%、徴収額で396億円上回っている。このことと財政再建債の影響で地方団体の資金繰りも好転し、 第86図 のように3月末で地方団体の一時借入金は前年同期を121億円下回り、公金預金は逆に363億円増加している。31年度の決算見込みはいまだ明らかではないが、府県について抽出的に調べたところでは、財政規模は依然おだやかな伸びをみせ、実質的赤字はさらに減少し、投資的経費は黒字団体などでかなり増加する見込みである。
今後の問題
このように好転をみせた地方財政は、税制度の関係から31年度の好況が本格的に反映するという事情もあって、32年度はさらに好調に推移する見込みである。しかしこのことは全く楽観を許すことを意味するものではない。第一に、地方財政は好転しているとはいえ、それは大きな努力と経済の活況のもとにまだ赤字の累増が衰えたという段階に過ぎない。一時的な好転のまえに再建努力が緩められるようなことがあってはならないだろう。第二に、地方財政の再建とともに地方行政水準の維持ということも留意される必要がある。前述のように地方財政再建の途はかなり努力を要するものであるが、それは必要行政量をも損なうものであってはならないだろう。国は例えば公共事業費の補助率の特例的引上げ等によって多くの援助を行っているが、必要行政水準の維持とともにできるだけ速やかな再建を行うことこそ今後の地方財政再建の課題であるだろう。なお33年度頃にかけて急増する公債費の問題も今後の地方財政にとっては大きな問題ではあるが、少なくとも32年度は、前述の繰り越しによる86億円の財源措置によってその負担は緩和されるものと考えられている。