昭和32年

年次経済報告

速すぎた拡大とその反省

経済企画庁


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各論

建設

建設業界における経済成長の反映

 前述したごとく昭和31年中の業界の受注高と施工高は前年よりさらに上昇したが、その増分は大半が民間発注によるものであった。その及ぼした影響の概要は以下のごとくである。

 まず施工額の内容を調べてみよう。

 第58図 によって、総額7,400億円にのぼる31歴年の建設業法登録業者のうち建設専業者施工額について民間発注と公共発注とに分けて、これを業者の規模別に観察すると資本金1億円以上の大業者では民間工事の比重が圧倒的に大きく、中規模業者では公共工事が多くなり、個人業者及び資本金200万円未満の小規模会社では再び民間工事の比重が増加してくるのは例年みられる基本的傾向に一致している。

 また民間発注工事の内容は建築が大半であって、公共発注工事では土木その他の工事が相当に大なる割合を占めている。これを規模別にみれば大業者では土木工事の比重が少なく、中小規模の業者では公共発注の土木工事に対する依存度が高くなっている。

 しかるに、31年の好況の影響が主として民間の建設活動の活発化を通じて建設業に影響したため、にみるごとく工場、ビル等の大規模建築と下半期より増加した電源開発投資によって資本金1億円以上の大業者の施工額が特に大きい結果となった。従って大手筋業者の間においては受注量の増加に伴って資金構成の強化の必要が高まり、年度当初より現在に至るまで各社競って2倍ないし15倍の増資を行い経営の近代化と工事の機械化による施工能力の向上を目指して飛躍的な進展が行われたのである。

 特に建設工事の機械化と、新技術採用の動きは活発であり、最近数年間主として大企業の施工する工事において画期的な発展をみており、ダム工事、道路工事をはじめとする多くの分野で施工能率の著しい向上による工期の短縮、工事費の低減、他面においては工事の質的な高度化等多様な成果をあげつつある。

 かかる諸関係は当然大企業と中小企業との経営状況の格差をさらに開かせることとなったと考えられる。中小企業においては資材値上がりを中心とするコスト増加の影響が大きく、ことに公共発注の横ばいによる中小企業向け土木工事の停滞によって主としてこれに依存する業者の経営状況はあまり改善されなかったものと思われる。

 31年度末より次第に重大化した国際収支の悪化傾向は2年間引き続いた経済発展に一転機を画するものとなり民間設備投資の動きも変容していくものと考えられ、これが建設業界に与える影響は乱立する中小業者の立場をさらに困難なものとする可能性がある。

第76表 一事業所当たり施工額

第63図 施工総額に対する施工額の割合及び施工額の内訳


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