昭和31年
年次経済報告
経済企画庁
林業・水産業
林業
用材の需要並びに価格
用材の需要
昭和30年度は、一般経済の数量景気を反映して、木材の消費、生産ともに増加したが、価格はむしろ軟調に推移した。
まず、30年度の用材需要事情についてみると、需要量は、前年度に対して内需で7,2%、輸出で24.8%増加した。また生産量も前年度に対して5.8%の増加、木材輸入量は13.9%の増加となり、年度末在荷量も7.6%増えた。
すなわち、需要の状態は前年度より全般に膨張した。この需要の増加は一般産業界の活況に伴う木材関連産業の生産並びに消費の増大と、輸出貿易の拡大、及び木材価格の軟調等が原因している。他方供給面では、北海道の風倒木処理に伴う生産増加と、南洋材、北洋材などの輸入増加に負うところが多かった。需要関係。まず内需を用途別にみると、木材の消費割合は一般材とパルプ用材が圧倒的に多く、全体の87.6%を占めている。また、29年度に対する上昇率は、杭丸太23.8%、合板用材22.5%、パルプ用材19.5%で、それぞれ大きく伸びたが、これは、紙、化繊、耐火建築、漁港など港湾施設の伸びによるものである。なお、坑木を除き、他の材もそれぞれ4~8%増加した。坑木は4%ほど前年度を下回ったが、これは出炭量の微落と企業合理化による原単位の向上によるものである。
輸出は、合板及び吋材が全体の84.7%を占めて圧倒的であるが、29年度に対する上昇率は、チエスト類及び枕木を除きいずれも著しい上昇を示している。これは欧米各国の好況によるところが大きい。チエスト類の減少はセイロンにおける茶箱の発注が減じたためであり、枕木の減少は特需が少なくなったことによるものである。
供給関係。木材生産量について用途別生産割合をみると、比較的比重の大きいものは、一般用材、パルプ用材、杭木で、全体の96.4%を占めている。また、29年度に対する上昇率は、パルプ用材が23.7%で第1位であり一般用材、杭丸太、枕木用材、電柱なども前年度に比してそれぞれ6~8%上昇したが、合板用材の国内産樹種は、前年度とほぼ同じであり、坑木は、需要の減少により、91.8%と前年度を下回った。
木材の輸入は、南洋材が圧倒的に多く、全体の90.1%を占めている。なお、米材は29年度に全体の18.4%の入荷をみたが、30年度はわずか8.1%に落ちた。また、30年度の輸入量を前年度に比べると、米材丸太を除いていずれも上昇した。南洋材の輸入増は加工貿易並びに内需合板の伸長に基づくものであり、北洋材はソ連材の入荷増によるものである。米材の輸入減は、米国内における木材市況の強調及び輸送運賃の上昇に伴う価格の割高によるものであって、前年度の49.1%に落ちた。
在荷量。国内産樹種の30年度末在荷量は、前年度末に対して約8%の増加である。これを用途別にみると増加の著しいものはパルプ用材の前年度比28.9%、一般用材の6.7%に及ぶ増加であった。パルプ用材の増加はパルプ産業の生産増と、パルプ用材の値下がりによって、原木手当が相当進められたことによる。一般用材の増加もまたこれとほとんど同じ事情によった。そのほかのものは、いずれも在荷が前年度を下回った。これは需要が前年度より増加し、その上関連業界で先行き見通しがつかないために、在庫手当を積極的に行わなかったことなどによる。
用材価格の動向
木材価格は一般に低調で、 第59図 にみるように31年に入って一部のものはやや持ち直してきたが5~12月にかけて前年に比べて安値を示した。特に、一般用材及び合板の価格低下がはなはだしく、東京市場における価格を前年度に比較すると一般用材のスギ小丸太材、板類及び挽割、挽角類はそれぞれ4%、12%、9%の低下を示した。合板は内需の特殊物だけが値上がりしたが、一般ラワン合板は著しい生産増加のため13%の低下で、輸出合板も著しい安値を示した。これらは木材供給量が相当増加したことと、資本的に業界が脆弱なため、金融緩慢にもかかわらず事業量増大の割合に資金の供給が少なかったことなどによるものである。例えば全国銀行の31年3月末林業関係に対する借出残高は、前年同期比約5%の増加で、総貸出高増加率約10%に比べて低く、特に中小業者に対する貸出は、前年とほとんど変わらなかった。
杭木、パルプ用材も一般に値下がりしたが、なかんずく、東北、北海道地区が安く、坑木は15~11%低下し、パルプ用材は23~15%の低下であった。これは、北海道の風倒木処理による影響が大きかった。
薪炭の需給並びに価格
薪炭需給の規模は28年をピークとして、其の後次第に縮小の傾向をたどっているが、30年度の木炭は、29年度に対して需要が95.5%、生産が93.3%と下降した。
需要の減少は家庭燃料に対する消費の傾向が薪炭からガス、煉豆炭、灯油などに変わりつつあるためであり、ガスの消費は都市において10.7%上昇し、煉豆炭、灯油の消費は都市、農村においてそれぞれ11.6%、10.5%の上昇を示した。
なお、生産低下の原因としては、30年度は、農家の副業製炭が豊作などの関係もあって減少したこと、原木価格が高値を維持したこと、あるいは生産期における悪天候等による操業の短縮、並びに全般に需要が減少したことなどが挙げられる。また、在荷量についても、全般に前年度に比して減少しているが、なかでも11月以降の在荷減が甚だしい。これは、生産に対して季節的に需要が上回ったためである。
次に木炭価格についてみると、全般に軟調で、消費地においても、生産地においても前年度価格を大きく下回っているが、これは代替燃料の伸びに伴う木炭の需要減と、業界の資金繰りの窮屈化に基づくものであり、12月以降において、やや持ち直したのは、需要の増加とこれに伴う在荷の減少によるものである。
薪については、年間生産量はおおむね横ばいの線をたどったが、価格は木炭同様低調であった。
今後の問題点
以上のように、30年度の木材価格は一般に低調であったが、需要面の上昇によって木材業界も、31年に入ってから若干愁眉をひらくことができた。この需要の上昇は、輸出増加を動因とする国内景気の好転、それに基づく木材関連産業の好況、消費水準の上昇等によるものである。しかし、木材業界が資本的に脆弱なため、木材価格の安定を困難にしている。
また、最近の木材需要の傾向は、パルプ用材、合板用材にみるごとく、木材利用の高度化が進み、総需要量中に占める割合も、パルプ用材は前年度の18%から20%に、合板用材は4%から4.6%へと、それぞれ増加傾向を示しているのに対し、一般用材及び坑木などの割合は年々減少傾向をたどっている。また、薪炭についても、家庭燃料の消費傾向は、漸次、ガス、灯油、煉豆炭等に変わりつつあり、その需要の伸びと、家庭燃料中に占める割合は減少しつつあるので、木材需要の構成比の変化は今後の木材産業の指導、育成に当って、十分な考慮を必要としている。
木材の供給面についても、30年度は順調に確保されたが、これは北海道の風倒木処理の影響、及び外材の輸入がおおむね順調であったからである。しかし、北海道の風倒木処理作業も順調に進捗し、30年までに全体の48%の処理を完了しているので、今後は北海道材の供給も多少減少するものと思われる。しかも我が国の森林資源は、連年過伐を続け、特に民有林は29年度275%、30年度285%と漸次過伐度が増加しており、資源の枯渇と国土保全の危機が叫ばれている現状であるから、今後の木材供給については、国内資源を対象とする限り安泰でない。なお、外材の輸入に依存することも、海外市況の好況、あるいは木材価格や運賃の国内材に対する割高などで楽観できない。従って、木材の需要については、奥地林の開発、あるいは廃材の高度利用など、未利用資材の利用、開発をはかるとともに、木材、並びに木材関連産業の適正配置、及び合理化を推進する必要がある。