昭和31年
年次経済報告
経済企画庁
建設
建設業及び建設資材の動向
以上述べたような事情は、建設業や建設材料関係にも種々の影響を与えた。建設業では、29年度下半期より緊縮予算やデフレ経済の影響を受けて、工事受注が減少し、30年度上半期にも暫定予算や一般的な投資手控えによって工事受注の減少が続いた。このため工事手持量は一層悪化し、大小業者間の市場争奪をめぐるあつれきや、ダンピング入札が問題化した。ところが、下半期には遅れていた公共事業工事の発注が進み、建築投資が急激に上昇したので、事態は著しく改善されてきた。
しかし、公共事業を中心とする土木工事の発注に頼っている地方中小業者は必ずしも不況を脱出できなかったようにみうけられる。すなわち、第52表にみられるように公共事業費の総事業費は前年度を1割下回るばかりでなく、公共事業のなかでも直営工事よりも請負工事のウエイトが著しく高い災害復旧事業費が、30年度も大幅に減額されたことや、 第48図 にみられるようにその多くが公共土木工事とみられる地方公共団体発注の前払保証工事(工事費の前払金を支払う場合、前払保証会社がその保証をした工事)は地方財政の窮乏も手伝って前年より4割も減少し、かつ保証額(前払金に相当する)の請負金額に対する割合も減少したことによって前記の中小業者の市場の狭隘化と資金の窮屈化がみられた。
なお一方で、輸出振興対策の一環として、建設業の海外進出の問題がとりあげられたが、賠償問題ともからんで建設業界でも協力体制を整えた。ビルマのバルーチャン水力発電所工事を契機として海外建設工事の国際競争入札に参加することになったが、建設業の海外進出には資金等における問題が大きく、いまだ十分な実積をあげていない。
次に建設材料価格をみると、上半期においては建設需要の減少に伴い木材、セメントなど前年度下半期に続いて徐々に値下がりを示し、鋼材も反落したので、下半期における建築活動好況の間接的な誘因となったことは見逃せないが、下半期に入ると、建設活動の活発化に伴いようやく落ち着きをみせ一部ではやや反騰した。このうちセメントについてみると、上半期における国内の建設需要の減退を輸出需要の増大によりカバーし、下半期の国内建設需要増大により引き続き旺盛な需要をみたが、供給力の著しい向上によって、価格は軟調を示している。これに反し金融価格は海外市況から価格が騰貴し、ことに下半期において建築活動が活発化したときにおいてその状況が著しかった。ところが建設業においては、金属材料の見込購入ができず、また地域的にも需要地が分散するため、合理的な金属材料の購入が不可能で、金属価格の上昇は直ちに建築コストにひびき、ひいては建設業の経営に悪影響ををもたらすことが多く、やがては建築発注者にも建築費の上昇となって影響が及ぶものとみられている。従って、今後の建築活動にとっては金属価格の動向が注目されるところとなっている。