昭和30年

年次経済報告

 

経済企画庁


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建設

停滞した新規建設活動

概況

 昭和29年度の新規建設活動は、約9,060億円と見積もられ、28年度より150億円ほどの微減を示した( 第49表 参照)。しかしこの見積もりは財政支出分(建築を除く)については予算より、その他のものについては実積または見込みより推計したものであって、実際には、年度当初において28年度予算による工事が相当繰り越しされてきたため29年度の新規建設活動は前年度をやや上回ったものとみられる。

第49表 新規建設活動推計額

 このように停滞した主な原因としては、第一に、緊縮政策の一つの重点である財政投融資削減の線に沿って公共事業費、住宅対策費をはじめ国鉄、電々公社などの建設的支出の予算が28年度の3,270億円から29年度の3,070億円に減少したこと、第二に、財政投融資削減に関連して電源開発資金供給が抑えられるとともに、水力開発のピークが過ぎて水力開発費がかなり減少したこと、第三に、産業設備投資の減退と同様の理由によって鉱工業用建築需要が著減したこと、第四に、特需及び安全保障諸費関係の建設工事が激減したことが挙げられる。

 次に、年間の推移をみれば、上期においては前年度下期に引き続き高水準の建設活動が行われた。これは第一に、28年度予算の成立遅延及び同年度秋の莫大な災害補正予算の計上により、同年度中に工事が終了せず29年度に繰り延べられたこと、第二に、28年度下期に大量着工した建築が継続されたことによる。これは、緊縮財政にもかかわらず第1・四半期に財政が大幅な散超となった主要な一因であり、かつデフレ緩和の力となった。ところが、下期には、上期の高水準の活動を支えていた繰越工事が消滅するとともに、緊縮経済の影響による民間建築の減少が目立ち、建設活動は漸次後退するに至った。

公共事業の転換

 29年度の公共事業予算(国費分のみ、食糧増産対策費中の土木工事分を含む)は、緊縮財政の方針によって、1,529億円で前年度より12%減と、やや大幅に削減された。地方負担分を含めた総事業費は2,226億円で前年度より9%減であった( 第50表 参照)。主要項目別にみると、前年度より最も減少率の高かったのは災害復旧費であるが、これは29年度には28年度ほどの大規模な災害がなかったためである。また、総事業費では、食糧増産対策費のみが前年度を上回ったが、これは国庫補助率の低い耕地整備事業及び開拓実施事業などの零細事業が加わったからである。

第50表 公共事業費

 このように公共事業費が前年度より削減されたのは戦後はじめてであるが、注目すべき若干の特色をもっている。第一に、従来とかく資金効率の悪いといわれた総花的な事業計画を修正し、単年度完成の小規模工事、次に述べる災害関連工事のほかは新規事業をやめ、一方継続事業については、効率的な工事の施工を図り事業を集中的重点的に行うこととし、かつ国費による群小工事の補助事業を極力避けることとした。29年度においては必ずしもその成果が得られていない面はあるにせよ、このような方向が打ち出されたことは意義深いことである。第二に災害復旧事業の一部に、それと合併して施設の改良を行う災害関連事業が創設され、災害復旧事業と改良事業の区別をはっきりさせた。第三に、「道路整備費の財源等に関する臨時措置法」が施行され、揮発油税収入相当額が道路整備事業にあてられることになり、道路整備5ヵ年計画の資金的裏付けが得られたことである。一級国道においてすら道路構造令規格不適格延長が3割に及んでいる一方、自動車の増加著しいものがある今日道路の整備は急務といわねばならないが、このための事業を揮発油消費量に見合わせて行ってゆくことは意味のあることであろう。第四に、戦後のたび重なる災害復旧事業の莫大な残事業量をいかに措置するかは事業資金の不足から絶えず問題になってきたがこの残事業量を厳密に再調整することに第一歩をふみ入れたことが挙げられる。29年度は28年災害についてかなり厳密な査定を行っている。この査定には若干の問題を残してはいるが、むしろ復旧事業の早期完成を期しうる面があると考えられる。第五に、29年度の補正予算に緊急就労対策事業が計上されたことである。最近では生産力効果に重点をおいてきた公共事業は、失業者の増加に従って、雇用吸収の役割を再び見直されてきた(「 」の項参照)。

 第六に、予算補正に際して資材価格の値下がりや、入札及び工事の合理化による節約を6-7%と見込んで、事業費の削減ほど工事量の圧縮がないものと考慮したことである。

 次に、公共事業における建設業の生産性向上についてみてみよう。 第51表 にみるごとく一般公共土木事業についてみると、昭和26年度から28年度までの労務者一人当たりの実質工事費は18%の増加となっている。この労働生産性向上は工事の面における合理化によるよりは、むしろ建設方式の技術的改良や使用資材の高度化によってもたらされた面が強い。例えば、道路改良においてほ装工事が進展しているが、同一延長の場合その一人当たり工事費の方が砂利道のそれよりも大きい。それは他面道路の寿命をのばし、自動車に与える効果もすぐれていて投資の生産効果をも高めているようだ。また、多目的ダムは27年度以降29年度までに10ヵ所完成し30ヵ所工事中であるが、河水統制が堤防構築等にとどまらずかかる総合開発方式を採用していることについても同様のことがいえるであろう。従って、その指標の増大は国土構築物の堅ろう化、質的改善などを通じて、生産効果を増大させることをも意味するであろう。その反面、単位事業費当たり雇用量の減少を招いているわけであり、公共事業の一面である雇用吸収策と矛盾するかのようにみえるが、他方では資材需要の増大を通じて、資材産業の発展を促している。例えば第51表において実質事業費34%増に対し、同期間におけるセメント使用量は86%の著増を示している。このように近年公共事業における建設業の生産性向上において好結果を得ているようだ。

第51表 一般公共土木事業における労務者一人当実質工事費指数

民間建築投資の減退

 建築活動は公共事業とともに建設活動の二つの柱をなしているが、建築床面積着工量は前年度を9%下回り、24年度以来の最低を示した。これは緊縮経済の影響によるものであるが、財政の直接支出する建築の発注は前年度を3%上回ったのに反し、民間建築の発注は12%減と、両者の間に差があったばかりでなく、前者においては国と地方公共団体との間に、後者においては法人と個人との間にそれぞれ差異があったことが特徴的である。

 すなわち、財政の直接支出する建築のうち国の発注する建築は、緊縮財政の効果が現れて前年度より19%減となったが、地方公共団体発注の建築は、公共事業の場合と同様に上期において前年度予算分の国庫補助事業(住宅、文教施設等)が繰り越しされたことと市庁舎等が大量に着工されたことによって約8%増加を示した。また民間建築では法人発注の建築は産業設備投資の減退と同様な理由で16%減とかなり大幅に減少したが、個人建築は消費者に対するデフレ圧力が弱かったので10%減にとどまった。これらの推移をみると、 第42図 のように民間建築はいずれも緊縮政策の影響が経済界全般に及んだとみられる29年4月頃から前年同期を下回るようになり、その影響を敏感に反映した。

第42図 建築主別着工床面積

 このように、発注者別には地方公共団体発注の建築を除いてはいずれの建築も緊縮経済の影響を強く受けたが、これを用途別の着工床面積でみると、新規設備投資の著しい減退を反映して鉱工業用建築が3割近くの急激な減少をみせたのに対し、消費者との関連の強い住宅、商業用、農林水産用はいずれも1割減にとどまった。これに反して、地方公共団体の建築著増に伴って公務文教用建築のみは1割増を示した(住宅建設については「 」の項参照)。

 次に構造別の着工床面積をみると、鉱工業用建築の激減から鉄骨造も前年度から26%の著減をみせ、木造も住宅などの減退から11%下回ったのに反し、その他造は4%、鉄筋コンクリート造は12%の増加を示した。鉄筋コンクリート造増加の主因は公務文教用建築物であって、28年度におけるその増加要因であったアパート建築は財政資金による住宅の停滞から伸び悩んだ。

 このように、鉄筋コンクリート造の増加があったことと、年度平均では木造建築費が上昇したことによって床面積の低落にもかかわらず投資額はほとんど横ばいを示した。


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