昭和30年
年次経済報告
経済企画庁
< 昭和30年度版経済白書 >
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昭和29年7月発行
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昭和30年版
はしがき
昭和29年度の日本経済は、戦後10年を迎えて、これまでのインフレ環境から大きく転換した。戦後の回復につぐ動乱後の膨張がついに行き過ぎて、28年度に国際収支の危機を招き、その解決を緊縮政策に求めた結果がここに現れたのである。ここ数年来累増の一途をたどった日銀券は減少に転じ、物価も下がり、毎年顕著な上昇を続けてきた鉱工業生産や消費もほとんど足踏み状態になった。
もっとも29年度を全体としてみれば、前年度に比べて生産や消費が減るほどの強い収縮はおこっていない。緊縮政策の主な推進力となった金融の引締めは年度当初かなりのデフレ圧力をつくりだし、一時は経済規模を収縮の方向へ導いたが、一方で海外市況が好転して輸出が予想外に伸びたためである。またこのような海外環境は、物価や国際収支にとって誠に幸運だったといえる。この点、内外の関係は前年度と著しく違っていた。28年度は海外の市況が停滞していたときに、我が国の経済はインフレ的に膨張したため、加重された力をもって物価の割高と輸出の不振がもたらされたが、29年度では全く逆の関係を示している。物価の低落はそのまま国際価格への接近となり、デフレ圧力で高まった輸出意欲は比較的順調にそのはけ口を海外に見出すことができた。その結果、生産や消費を切り下げるほど強いものにはならなくても、当面の目標とした国際価格へのさや寄せと国際収支の改善は一応達成された。卸売物価は年度中に5%下って、対外的な割高は一頃のような問題にはならなくなったし、国際収支は3億ドル余の黒字を記録した。
こうして緊縮政策の目標はひとまず達成されたが、またインフレのベールが取り除かれて、ながらく覆い隠されていた戦後インフレの歪みがあらわになったことも、29年度経済がもつ大きな意義である。我々はいま、緊縮政策から一歩を進めて、ここに提示された幾多の問題と真剣に取組み、地固めの効果を育てつつ発展へのレールを敷くべき重要な時期にさしかかっている。このときにあたって、29年度経済の跡をたどりながら、なにが提示された問題であるか、いかにそれを処理して前進への道を求めていくか、以下本報告書が検討するところである。
生産と消費の停滞
序
経済審議庁では、このたび「昭和30年度年次経済報告書」を公表した。一般に「経済白書」と呼ばれるものである。本報告書昭和22年いらい毎年会を重ねて、今年が9回目に当たるが、時あたかも戦後10年を迎えて、これまでのインフレ環境から大きく転換した昭和29年度経済分析が主な内容になっている。緊縮経済によって表面化した戦後インフレ期の諸問題を画きだしたことも、今次報告書の特徴である。また前回の報告書は29年度を「地固めの時」と呼んだが、こんかいはようやく緒についた地固め効果を育てつつ、「前進への道」を求めることに、その主題をおいた。
内外の諸事情勢を顧みるとき、日本経済は単に足踏みすることを許されない。足元を固めながら、いかに発展への方途を見出すか、本報告書はその基本的な考察を行ったもので、広く国民各位の一読を切望する。
昭和30年7月 高碕 達之助 ( 経済企画庁長官 )