昭和29年
年次経済報告
―地固めの時―
経済企画庁
膨張経済下の国民消費水準
昭和27年に年間16%に達する著しい向上を遂げた国民消費水準は、28年においても引き続いてさらに13%の大幅な上昇を記録し、前年において昭和9~11年平均水準の96%とほぼ戦前並に到達していた消費水準は、28年には遂に109%と戦前を約1割弱凌駕するに至った。またこれを国民所得統計における国民一人当たり実質消費支出によってみても、前年より12%の上昇で戦前の108%とほとんど同様の結果を示している。
27年における消費水準の上昇は朝鮮動乱を契機とする好景気の波及過程によるものと考えられ、個人所得の増大も27年末頃にはおおむね一段落するものとみられていた。それ故28年当初においては同年の個人所得ひいては個人消費も停滞するものと観測されていた。しかるに28年の消費が現実には右のごとく予想を遥かに上回る上昇を見たのは、総説にも述べたごとく主として財政金融に支えられた新投資が鉱工業生産の著増を惹起し、これに伴って賃金所得が新たなる増大を示したことと、財政の消費的支出が増大したことによるものであった。すなわち28年の消費増大は国内投資を起点とする工業生産著増と財政規模の増大という経済膨張の過程から生じたとみられる点が特徴であろう。
しかし一方、農家に目を転じると28年後半の凶作によって収穫量の減少を惹起したため、それによる農産物価格の騰貴にもかかわらず農家所得の増加率は前年より著しく鈍化し、従って農家の消費水準も都市に比較して相対的に頭打ちの傾向を示すに至った。すなわち27年には都市、農村とも16%と平行的上昇を見た消費水準も、28年には都市の17%上昇に比し農村は9%の上昇にとどまり、上昇率にかなりの跛行性を生じている。
ところで以上の様な所得増から生じた消費購買力の増加が物価の上昇に吸収されず、実質的消費すなわち消費水準の上昇となり得た理由は、農産物価格の騰貴にもかかわらず消費財工業生産物の著増からその物価が時期的には思惑などから多少の変動も見られたものの、年間平均では比較的落付いていたからに外ならない。そして消費財工業生産の増大をうらづけたものは27年までに蓄積された外貨を背景とする消費財原材料の輸入急増であった。これは輸出の不振及び不作による食糧の追加輸入と相俟って28年の国際収支を急激に悪化せしめる一大要因となった。