昭和29年

年次経済報告

―地固めの時―

経済企画庁


[前節] [目次] [年次リスト]

各論

農業

水産業

漁業経済の動向

遠洋漁業の発展

国際漁場に対する占領期間中の制限諸法規が改廃されて以来、鮪漁業、以西トロール、以西底曳網漁業、鮭鱒漁業、かに漁業、捕鯨漁業等の遠洋漁業に発展の機会が与えられた。

とりわけ28年に入ってからは、対米輸出の好調を背景とする鮪漁業等について漁船の新造、大型化が急速に進められ、また以西トロール、底曳網漁業では、戦前の主要漁場である南シナ海への進出も実現し、さらに北洋の母船式鮭鱒漁業でも公海に新しい漁場が開拓され、今後恒常的に操業し得る見込みを得るに至った。

また、東南アジア、中米地域における諸国との漁業提携が進み、現地資本との共同事業、あるいは漁業基地の提供もあって当該国への水産物の輸出が行われ、それら諸国への水産物供給、漁業開発に好ましい成果をあげている。

水産物の生産状況

こうした状況を反映して、28年度における水産物の生産は、マグロ類、サケ、マス類、カレイ、ヒラメ類などは27年に比して増産されたが、沿岸沖合漁業の不振からニシン、イワシ、カツオ、サバ、ブリ類は著しく減産した結果、生産高は11億2千万貫と前年に比して6%程度の減少となった。

沿岸沖合漁業が不振であった理由は、日本近海における海流異変及び濫獲による資源涸渇、李ライン等による漁場制限等によるものである。

魚価及び主要資材の動き

右に述べたような生産の減少にもかかわらず、都市、農村の消費需要は前年度より引き続き高まっており、高級魚、大衆魚とも需要は強く、また鮪類を中心とした水産物輸出も好調であったため、魚価は年間を通じて堅調を持続した。一方漁業用資材は、石油類、原棉等の輸入が順調であったため、重油類、漁網等いずれも漁業への供給が円滑に行われ、また合成繊維工業の育成により合成繊維漁網の増産も行われた。

漁業経営の状況

遠洋漁業の好調と、沿岸沖合漁業の不振という二つの現象は、漁業経営の面でも明暗二つの動きをもたらしている。すなわち、遠洋漁業を主とする水産大会社では、捕鯨業、北洋母船式鮭鱒漁業、缶詰業の好調と経営方法の改善、企業合理化と相まって企業内部には採算の悪化した近海漁業、海運業等の業種をかかえながらも総合経営方法による企業の強みを発

しかし、中小漁業経営のうち、定置漁業、施網漁業、底曳漁業等の業種を主とする経営体では、一般に著しい不漁におそわれたため、激しい過度操業と漁獲競争が起こり、漁場紛争等の好ましくない現象が各地に生じ、また経営もかなり窮迫したものが、一部に現れている。

一方漁家経済を前年度と比較してみると、一般的には国内市場における消費需要の増大によって漁家経済収支は好転している。すなわち動力船漁家では一般に沿岸沖合漁業の不振から漁獲高は減少したが、価格の堅調によって漁業収入はかえって増加し、また資材費、労賃費の減少もあったため事業収支は好転し、漁家経済としても経済余剰を増加せしめている。また無動力船漁家においては、沿岸漁場の狭溢化、人口の過剰等に強く影響されながらも、価格関係の好転により、その事業所得は対前年比15%の増加を示し、さらに兼業収入はそれ以上に増加したため、膨張した家計費をカバーしてなお対前年比58%増の経済余剰を示した。

第95図 漁家収入の推移

今後の水産業の問題点

右にみたように、我が国の水産業は、最近遠洋漁業の発展に明るい面を見出しているが、これらの面にはなお多くの国際的問題が残されている。

すなわち、李ラインの制約によってトロール、底曳網漁業は相つぐ漁船砲撃、拿捕事件に直面しているし、また豪州アラフラ海における真珠採取に関する国際法上の紛争、北太平洋での母船式鮭鱒漁業についてのソ連邦との関係、本年3月1日以降のビキニ環礁における水爆実験による相つぐ被災事件等国際的解決を要する問題は数多く残されていて、今後これらの面に一層の努力をかたむけねばならない。


[前節] [目次] [年次リスト]