昭和29年
年次経済報告
―地固めの時―
経済企画庁
輸出価格と国内価格
かくして我が国物価は国際物価に対して割高となったが、これでは当然のことながら輸出が困難である。このような状態で輸出をしようとすれば、ここにいわゆる二重価格的現象が発生することになる。もっとも、かかる現象は多かれ少なかれどこの国にもみられるところだが、特に我が国の場合には商策として国際相場以下のダンピングを強行するのとは違って、物価水準が対外的に割高な結果生ずるいわば消極的なものである。主な商品の輸出価格と国内価格とを比較すると、 第68図 に示す通りである。これによると、昭和25年6月以降輸出価格が国内価格を下回るような現象を生じたのは、セメント及び硫安を除いて大体28年初頃からであるが、特に同年の後半から目立ってきた。もっとも、棒鋼、薄板などの鉄鋼製品は、26年3月頃から国内価格が高騰を続けていたのに対して国際市況が軟化に転じたため二重価格になっているが、28年の後半頃からバーターとかコンビ取引の実施とも関連して、輸出価格の方が国内価格よりむしろ上回っている。29年3月末現在で価格差の比較的大きいものとしては人絹糸、硫安、セメントなどであるが、このうち人絹糸、硫安は主としてイタリアの人絹糸、西ドイツの硫安などに対抗するという要素を含んでいると思われる。しかしこうした現象も最近における物価の下落から次第に解消する方向で進んでおり、既に繊維関係では輸出価格が国内価格を上回るものもでている。
ところで国内価格より輸出価格が安いという姿では輸出するよりも国内へ売った方が得であるから、企業にとっても輸出意欲が阻害されることになる。しかも物価の割高は単に物価が高いだけではなく、コストそのものが高くなっているため、輸出を増やして販売額のうち輸出向けの割合が多くなると企業の採算がとりにくくなってしまう。従って、輸出の伸長はもとより、これを維持するのにも輸出による不利益をカバーするなんらかの補強策が必要になってくる。こうした要請から28年に入って輸出に対する税制上の優遇措置や、繊維、鉄鋼、プラントなどに対するリンク制度や求償貿易方式などの諸方策が採用されたわけである。
このような補強策をテコとして輸出が維持されるとともに、他方入超は特需の収入で埋め合わされてきたけれども、こういう状態が永続きするとますます割高な物価水準の底が固まり、そこからぬけだすことが一層困難になってくる。その結果、特需の減少に応じて輸出を伸ばそうとすれば、さらに補強策を拡大しなければならず、それは他面で正常な輸出振興への努力を阻害する結果となって、結局悪循環を繰り返すことになる。この点からも、実力以上に膨張し過ぎた国内市場の収縮と、合理化によるコスト引下げを行って物価の低落をはかり、もって正常輸出への途をきり開いてゆくことが当面の重要な課題として浮び上がっている。