昭和29年
年次経済報告
―地固めの時―
経済企画庁
昭和28年度財政への反省と29年度1兆円予算の編成
昭和28年度の我が国財政は、積極的に国内経済の基盤を確立するため産業の合理化を促進して経済自立達成の礎地を整備することを目的としたものであった。そしてこの意味において、28年度の財政は以上にみてきたごとく基礎的生産力の拡充や設備の合理化にかなりの役割を果たしたことは否めないが、反面においてそれは支出額の増大を通じて国内需要を増大せしめ、ひいて経済規模の一段の膨張を促し終局的に国際収支の大幅な逆調をもたらす大きな要因となった。このような状態に対処する方策として28年10月以降金融の引締めが実施されるに至ったが、ついで財政面からも緊縮方針が要請され29年度予算においていわゆる1兆円予算が編成された。
この29年度新予算をまず規模についてみると、一般会計で9,995億円と前年度に比し277億円の減少となっている。また経費の配分もかなり重点化の傾向を強め、特に民間の投資活動に重大な役割を果たしていた財政投融資が公共事業費を含めて総額480億円に上る大幅な削減を受けている。さらに財源としても一般国債の発行、蓄積資金の放出などがとりやめられ一般に財政の緊縮、健全化の方針が貫かれている。しかしこの予算においても防衛関係費、地方財政費、社会労働費、あるいは人件費等消費的色彩の濃い経費が増大しており、また地方財政も国の財政に対応して若干緊縮されてはいるが、経費の性格にもより、また事業の増大、制度の改正などもあって若干の規模拡大を来たしており、この結果国地方を通ずる財政規模(一般会計の純計)としては総額1兆5,443億円と前年度(1兆5,273億円)をわずかではあるが上回るものとなっている。
右のごとく29年度予算は、ここ2、3年来の予算に比較すれば、かなり引き締められたものではあるが、その性格上急激なデフレを招来するごときものではなく加えて28年度の支払未済分が多額に上り、それが29年度の支払増大の大きな要因となることも予想されたので、緊縮政策遂行の見地から実行予算が編成され、一般会計の199億円をはじめとして総額356億円の予算の節約、財政投資の若干の圧縮が行われることとなった。