昭和29年
年次経済報告
―地固めの時―
経済企画庁
経済膨張と生産・企業
増大した鉱工業生産
昭和28年度の鉱工業生産(当庁指数)は昭和9─11年基準で161と、前年度の131を約24%上回った。これは動乱ブーム時の急増につぐ上昇であるとともに、世界的にも類例のない上昇ぶりであった。いま製造工業を投資財の多い耐久財と、消費財に関連の深い非耐久財とに分ければ 第36図 のようにそれらの対前年度上昇率がほぼ同程度となる。これは27年度において非耐久財のみが顕著に上昇したのに比べて著しい相異である。
これを業種別にみれば非耐久財のなかでは食品、ゴム及び皮革、化学、印刷製本がいずれも前年度より3割ないし3割5分の増産を示し、耐久財では機械、金属の生産増大が目立つ。半面鉱業は前年度より微増、製材木製品も1割程度の増加に止まった。
28年度における生産増大の原因としては次の諸点が数えられる。第一には電源開発や公共建設事業など財政投資の影響である。例えば、電気機械、鉱山・建設機械、セメントなどは前年度よりいずれも3割程度の増産を示した。第二には一般産業における投資需要の増大で、これが鉄鋼や一般機械の増産をもたらした。また第三には国内消費需要の増大で、このため特に紙パルプ、医薬品、ゴム皮革、繊維あるいは耐久消費財のラジオ、蛍光灯、スクーター、小型三輪車、光学機械などの増産が著しかった。他方、第四に輸出増加が生産の増大に貢献した例としては、綿織物、人絹織物、硫安などに止まった。
このように28年度における鉱工業生産の増大は国内の投資、消費需要の増加による面が大きく、反面輸出、特需が生産増大に果たした役割は小さかった。
次に昭和25年度に対する28年度の鉱工業生産増加率をみると、第36図のように、総合指数において約73%の増大を遂げ、耐久財、非耐久財ともほぼ同程度の上昇率を示している。このような動乱後における生産規模の拡大は、26年度までは輸出、特需の増加に支えられていたが、27年度以降は、国内市場の拡大に負う面が多い。最近の主要商品の出荷構成をみても、 第37図 のごとく25年度に比べて輸出、特需の割合が縮小し、国内向供給量はかなり顕著に増大している。
企業利益の増大
国内需要の拡大は、前述したような鉱工業生産の増大をもたらしたが、同時に企業の利益にも好影響を与えた。
まず通産省調による133社の総資本利益率、売上高利益率及び総資本回転率の推移をみれば 第29表 のごとく、27年下期まで低下した利益率が28年上期に回復したことがわかる。
28年上期に総資本利益率が回復した原因は、 ①輸入原材料の値下がり、 ②売上高の増加に基づく総資本回転率の上昇、 ③操業度上昇によるコストの低下などである。第一の輸入原材料値下がりによる利益の増大は、輸入原材料の価格が27年後半以降の海上運賃の値下がりから顕著に低下したのに対して、国内価格が高水準に推移したために生じた。特に 第38図 にみるように綿紡、毛紡、石油精製、ソーダなど原材料の輸入依存度が高い業種において利益率が顕著に上昇した。
第二の売上高の増加による総資本利益率の回復は、いうまでもなく生産上昇が顕著だった業種に多い。すなわち財政投融資によって需要が喚起されたセメント、電線や、国内投資、消費需要が増大した紙、パルプ、一般産業機械などがある。これらの業種では、売上高利益率が前年度と横ばいあるいは若干低下したにもかかわらず、売上高の著増によって総資本回転率が上昇したことが、総資本利益率を上昇させる原因となった。
第三の操業度上昇によるコスト低下は、合理化の効果とともにマージンを増加させる役割を果たした。特に化学工業などのように連続操業を行う装置産業に著しかったものと思われる。このように内需の拡大による生産増大は、輸入原材料の値下がりと相まって、企業利益をも回復させたのである。しかしながら28年下期には総資本回転率が変わらなかったにもかかわらず売上高利益率が低下したので総資本利益率が低下した。
しかしながら28年下期には総資本回転率が変わらなかったにもかかわらず売上高利益率が低下したので総資本利益率が低下した。