昭和29年
年次経済報告
―地固めの時―
経済企画庁
国民所得にみる国内経済の拡大
右のような経過を辿った昭和28年の経済全体の動向は、国民所得の推計によってこれを最も統括的に把握することができるであろう。28年の国民所得は前年よりおよそ16%増加したのであるが、26年から27年へかけての伸びは17%であったから、ほぼ前年と同じような増大テンポを維持したといえよう。これを国民一人当たりの実質所得でみれば戦後初めて戦前水準を超え106%に達した。一人当実質消費支出も同じく戦後初めて戦前水準を上回り108%に到達した。
国民所得をまず生産の面についてみると、不作の影響を受けて農林水産業の所得が6%の上昇にとどまったことを除いては、ほぼ一様の増加率を示している。この点は27年が前年に比べて製造業関係での伸びが低く、サービス業関係での伸びが大であったのと著しい対象をなしている。
次にこの国民所得の分配面をみると前年に引き続いておよそ2割の著しい上昇率を示しているのは勤労所得である。ここに賃上げの影響がうかがわれる。前年は法人所得は2割以上減退し、個人業主所得が2割以上も増加したのであるが、この年は不作の影響によって農家所得の伸びがわずかであったため個人業主所得の上昇率は10%にとどまり、法人所得は企業利潤の増大を反映して前年とは反対に約15%上昇している。
第三にこの国民所得がいかなる部面に向かって支出されたかをみるならば、前にも述べた通り個人消費が約20%7,000億円増大し国民所得全体の伸びをも凌駕していることが注目される。この点が既述の貯蓄率の伸び悩みと見合っているのである。民間投資もおよそ20%、2,300億円増加し、消費、投資いずれも平行して国民所得を上回る伸びを示した結果、外国との物質サービスの取引の総まとめである海外純投資が前年の黒字から赤字、すなわち入超になっていることはいうまでもない。