昭和29年
年次経済報告
―地固めの時―
経済企画庁
民間投資の盛行
設備投資は 第10図 にみる通り前年度に比べて約1,500億円、2割7分増加している。どんな部門に投資が増えているかというと、およそ次のような四つのグループに分かれるようである。第一に財政投融資に依存度の高い産業である。電源開発計画には1,700億円、新造船には500億円の投資が行われた。しかもこれだけ巨額な金が投資されると、いろいろ派生的な投資が生まれる。例えばダムを造るセメントがたくさん要るのでセメントの売れ行きが増え、セメント会社でも投資する。電機会社でも変圧器や遮断器を造る設備を拡張した。第二に前年以来の合理化投資の継続である。石炭の竪坑の開さくや鉄鋼圧延設備の合理化などがその好例であろう。新製品のための新設備も拡張された。第三に兵器特需の動向あるいは自衛力の漸増に見合って兵器生産関係でも投資が行われた。また比重は小さくともその傾向として見逃すことのできないのは第四の国内消費の増大に基づく投資の増加である。27年には消費は増えたけれども、消費財需要の増大は既設設備で賄って設備まで増やすという状況には立ちいたらなかった。しかし28年になると、例えば真空管、テレビ、電機冷蔵庫、モータースクーター、蛍光燈などいわゆる耐久消費財についてその売れ行き増大に伴って設備の拡張が行われた。以上総合して設備投資の傾向をみると、第一に気のつくのは財政投融資依存産業の投資の比重が減じたことである。電力、海運、鉄鋼、石炭のいわゆる四大重点産業の設備投資の全産業中に占める比率は前年度の44%から39%に低下した。第二は、いわゆる過剰投資が次第にあらわになったことである。精糖、過燐酸石灰、毛紡などではこの傾向が著しい。なお合理化投資は旧式設備を廃棄しない限り生産能力だけからいえば二重投資になる可能性を生ずるが、合理化設備だけをとってみても将来の予想需要との関係で問題を残している場合がある。また経営の多角化、新製品のための新設備も28年投資の一特色であった。市況の先行きが不安であるほどかえって自社だけは良い製品を安く造り、他社では造れない新製品を売り出して市場を確保しようという心理が働いたようである。
このように7,000億円にせまる設備投資の資金源をみれば 第11図 に示す通りであって依然として自己資金による部分は少なく、外部資金特に金融機関からの借入金、政府投融資の比重が大きい。開発銀行から10の資金が出ると、政府が金を出すならばということで市中銀行も協調融資に応じて10の資金が貸出され、その他社債などを含めると総計28の投資が行われる結果となった。従って広い意味での財政投資関連部分の比率は設備投資全体のおよそ4割程度を占めるであろう。
次に設備投資と並んで産業投資に大きな比重を占める在庫投資の動向をうかがってみよう。ここ数年来の在庫投資は26年が最も大きく6,000億円に達したが、27年には4,000億円弱となり、28年には再び微増して約4,500億円の水準であったと思われる。すなわち27年には、前に述べた輸入在庫の食いつぶし傾向を反映して在庫投資が製造業では減少し、その反面、内需の増大に伴って商業部門ではかなりの増加を示した。28年の在庫投資は製造業でも商業部門でも前年を上回る規模に達したようである。
およそ在庫投資はその経済循環に及ぼす役割から二つに分けて考えることができる。企業者が生産を増やそうとして原材料の仕入高を増やしたり、商業者が販売の増加に応じて商品の仕入れを積極的に増やす場合と、こうして売ろうとした商品が思ったように売れないで思いがけず滞貨となってしまう場合がこれである。ところで昨年の在庫増は、どちらがその増加の原因であったのであろうか、どうも前者すなわち意図した在庫の比重が大きかったのではないかと思われる。何故ならば生産量の伸び方がメーカーの在庫の増えた割合よりむしろ大きい。流通在庫の増大も販売量の増大に見合ったものであったろう。ただし下期に至っては流通段階において繊維など軽工業の前記第二の原因による在庫増がみられたようであり、銀行の運転資金の貸出しも卸小売部門で増大している。
民間投資の第三の区分である個人住宅においては個人所得の増加と住宅不足に基づく需要の強さによって、投資が前年より約3割増加している。ただし建築床面積は、木材価格の高騰のために約1割の増加にとどまった。なお、建設戸数のうちの約3割は住宅金融公庫からの融資を受けた住宅であった。