海外経済報告(平成13年4月四半期報)
世界経済の概観
世界経済をみると、全体として成長に減速がみられる。アメリカでは、景気は昨年末に比べれば減速は緩やかになっているものの、株価下落などで先行きに不透明感がある。ヨーロッパでは景気は安定した拡大を続けているものの、一部の国で景況感の悪化がみられる。アジアでは景気の拡大テンポは鈍化している。失業率は総じて低下している。物価をみると、消費者物価上昇率はやや高まっている。
1 南北アメリカ アメリカ、利下げ
アメリカ
アメリカの景気は、昨年末に比べれば減速は緩やかになっているものの、株価下落などで先行き不透明感がある。
アメリカでは、耐久財消費や住宅投資などに底堅い動きがみられるものの、企業収益の悪化から設備投資が抑制されているなど、内需は緩やかな伸びにとどまっている。一方で、消費者心理や企業の景況感に下げ止まりの兆しもみられる。製造業では、在庫調整が進むなかで、生産活動が停滞し雇用調整が行われているが、建設業、サービス業等では雇用の拡大が続いている。
金融面の動向をみると、3月の長期金利(10年物国債)は、おおむね低下基調で推移した。株価は、追加利下げ期待などから初旬に上昇し、その後企業業績の先行き懸念が依然根強いことなどから大きく下落したが、月末にはやや持ち直した。
-最近のトピック-
1.連邦準備制度は、3月20日に行われたFOMC(連邦公開市場委員会)ではフェデラル・ファンド・レートの誘導目標水準を0.50%ポイント引き下げ、5.00%とし、公定歩合も0.50%ポイント引き下げ4.50%とした。今後の物価および景気動向に対するリスク評価を「景気低迷警戒」(2000年12月19日以来継続)とした。
2.ブッシュ大統領は2002会計年度の予算案において、2002~2011年度に1.6兆ドルの減税を行うことを提案した。現在、予算関連法案・予算決議が連邦議会で審議されているところであるが、下院ではブッシュ大統領の提案にほぼ沿う形で所得税率変更など関連法案が可決されている。一方で、上院では減税規模を1.2兆ドル未満にとどめる予算決議が可決されている。
カナダ
カナダでは、内需が減速しており、景気の拡大テンポは鈍化している。物価は、やや上昇している。失業率は低水準で推移している。
-最近のトピック-
カナダ中央銀行は、2001年1月23日に0.25%ポイント、3月6日に0.50%ポイント公定歩合を引き下げた(現行の公定歩合は5.25%)。
メキシコ
メキシコでは、景気の拡大テンポはやや鈍化している。物価上昇率は低下している。
-最近のトピック-
フォックス大統領は 2月16日、ブッシュ・アメリカ大統領と会談し、移民問題を協議する高級事務レベル会合の定期的実施について合意した。
ブラジル
ブラジルでは、消費の拡大により景気は拡大している。物価は安定している。
-最近のトピック-
ブラジル中央銀行は3月21日、アルゼンチン経済情勢の不安等からレアル安となったため、基準金利(SELIC)の誘導目標値を0.5%引き上げ15.75%とした。
2 ヨーロッパ 景気は安定した拡大を続けているものの、一部の国で景況感の悪化がみられる
(1)西ヨーロッパ
1)ユーロ圏
ユーロ圏では、景気は安定した拡大を続けているものの、一部の国で景況感の悪化がみられる。
2000年10~12月期には、原油高の影響で鈍化していた個人消費の伸びがやや回復したほか、政府消費や在庫投資が増加した。一方、固定投資の伸びには鈍化がみられる。ユーロ安を背景として輸出は増加を続けた。
物価は、エネルギー価格や食料品価格の上昇から、消費者物価上昇率がやや高い水準で推移している。
-最近のトピック-
・2月26日、EUの機構改革等を内容とするニース条約の調印式が行われた。
・欧州委員会は、「2000年包括的経済政策指針」の実施状況を報告した。潜在成長力及び雇用の促進において前進がみられたことを評価する一方で、構造改革などについて分野や国によって残された課題も多いと指摘している。
ドイツ
ドイツでは、景気は緩やかに拡大している。個人消費はプラスに転じたが、機械設備投資の伸びが鈍化したことから固定投資が減少した。ユーロ安等を背景に、輸出は引続き増加したが、輸入の伸びがそれを上回っており、純輸出の寄与はマイナスとなっている。生産は増加しているが、製造業の景況感は悪化している。物価は、エネルギー価格の上昇などから消費者物価上昇率がやや高い水準で推移している。
-最近のトピック-
ドイツ政府は、1月31日年次経済報告を発表し、2001年の経済成長率について2000年を下回る2.75%と予測した。1月1日に施行された「税制改革2000」による減税がプラスの効果をもたらす一方、米国の景気減速や高水準な原油価格の影響を厳しく評価した結果としている。なお、3月中旬以降、民間機関等では、政府見通し以下の水準にまで見通しを下方修正する動きがみられる。
フランス
フランスでは、固定投資が内需の伸びを支え、景気は安定した拡大を続けている。生産は緩やかに増加している。物価はこのところ安定している。
-最近のトピック-
フランスでは、最新の政府経済見通しが公表された。昨年末成立した2001年度予算法での経済見通しを改訂し、2001年の実質GDP成長率は2.9%と、0.4%の下方修正となった。2002年は修正なく3.0%となった。
イタリア
イタリアでは、景気は安定した拡大を続けている。個人消費や固定投資の伸びは鈍化しているが、輸出の伸びが成長に寄与している。
-最近のトピック-
内閣は3月9日、国会の上下院両院の総選挙を5月13日に実施することを閣議決定し、大統領は国会を解散した。
2)イギリス
イギリスでは、原油生産の減少はあるものの、景気は安定した拡大を続けている。10~12月期には、設備投資や輸出が好調であった一方、個人消費はやや減速した。鉱工業生産は、原油生産の減少もあり、緩やかに減少している。失業率は低水準で推移しており、物価は安定している。イングランド銀行は4月5日、世界経済の減速、株価の急落、口蹄疫の影響を考慮して、2月の0.25%ポイント引下げに引き続き、政策金利を0.25%ポイント引下げ5.50%とした。
-最近のトピック-
・ブラウン財務相は3月7日に予算案を発表した。低所得者層への減税や学校・病院に対する歳出増などを主な内容としている。
・家畜伝染病である口蹄疫の感染被害が拡大しており、政府は、家畜・肉製品・牛乳など動物関連商品の他国への輸出を禁止している。また、これによる観光業等への影響が懸念される。
(2)ロシア
ロシアでは、固定投資の大幅増及び個人消費の増加により、景気は拡大している。しかし、足元では鉱工業生産の増加テンポに鈍化がみられる。
-最近のトピック-
ロシアの対外債務問題を巡る動きが目立つなか、債務返済の財源確保のため、ロシアでは予算法改正法案が審議され、3月下旬に採択された。
3 アジア 景気の拡大テンポは鈍化している。
中国
中国では、景気の拡大テンポはやや鈍化している。なお、年初来の統計には、春節が1月だったことや第10次5か年計画への切り替わりなどによる影響がみられる。
-最近のトピック-
3月の全国人民代表大会で採択された2001年度予算案では、1500億元の国債発行によりインフラ建設を拡大するなど、積極財政政策の継続が盛り込まれている。また、2001年の経済成長率見通しは、7%となっている。
香港
香港では、景気の拡大テンポは鈍化している。輸出の大幅な鈍化に加え、民間消費の伸びが緩やかになってきている。
-最近のトピック-
香港特別行政区政府は、たばこ税・酒税等の小幅増税を含む2001年度(4~3月)予算案を発表した(3月7日)。なお、2001年の経済成長率見通しは4%となっている。
韓国
韓国では、生産や個人消費の伸びの鈍化に加えて、輸出の伸びが鈍化したことから、景気は減速している。
-最近のトピック-
韓国銀行(中央銀行)は2月8日、翌日物コール金利の誘導目標水準を0.25%引き下げて5%にすることを決定した。
台湾
台湾では、景気の拡大テンポは鈍化している。投資の大幅な鈍化に加え、民間消費の伸びが緩やかになってきている。輸出の伸びは鈍化している。失業率は高まってきている。
-最近のトピック-
中央銀行は公定歩合を4.625%から2月、3月に三度にわたり引き下げ、4.125%とした。
シンガポール
シンガポールでは、生産や輸出の伸びが鈍化しており、景気の拡大テンポは鈍化している。
-最近のトピック-
シンガポール政府は、2001年度(4~3月)予算案とともに法人税及び所得税の引下げ等からなる新税制措置を発表した(2月23日)。
インドネシア
インドネシアでは、民間消費と固定資本投資が堅調に推移したことから、景気は回復している。エネルギー価格の上昇などにより、2000年後半以降、消費者物価上昇率に高まりがみられる。
-最近のトピック-
中央銀行は、物価の高まりや為替レートの続落に対し、翌日物介入金利を0.5%引上げ、12.125%とした。
タイ
タイでは、景気の拡大テンポは鈍化している。物価は安定している。
-最近のトピック-
2000年の実質GDP成長率は、改訂政府見通し4.5%を0.2ポイント下回る4.3%となった。政府は2001年の成長率見通しを3.5~4.0%としている。
マレイシア
マレイシアでは、民間消費と総固定資本形成の伸びの鈍化から、景気の拡大テンポは鈍化している。
-最近のトピック-
政府は、景気の拡大テンポの鈍化に対応して3月27日、追加的な予算措置を講じて約30億リンギ(約790億円)の景気刺激策を実施することを決定した。
フィリピン
フィリピンでは、民間消費が堅調に推移しており、景気は拡大している。エネルギー価格の上昇などにより、消費者物価上昇率に高まりがみられる。
-最近のトピック-
1月20日、エストラーダ大統領からアロヨ大統領へと政権交代が行われた。
インド
インドでは、このところ鉱工業生産の伸びが鈍化するなど景気の拡大テンポがやや鈍化している。卸売物価は石油製品の価格の引き上げの影響などによりやや高い水準で推移している。
-最近のトピック-
準備銀行(中央銀行)は3月1日、公定歩合を0.5%引き下げ7.0%とすることを決定した。
オーストラリア
オーストラリアでは、住宅の駆込み需要の反動減をはじめとする民間投資の落ち込みにより景気は減速している。
-最近のトピック-
準備銀行は政策金利であるキャッシュレートを6.25%から2月、3月、4月と3度にわたり引き下げ、5.0%とした。
4 国際金融・商品
国際金融
1~3月期の米ドルは、アメリカ経済が減速しているにもかかわらず増価した。対ユーロでは、昨年末のアメリカ経済の急減速以降減価した後、横ばいとなっていたが、3月にはドイツ経済の成長率予想の下方改訂が相次いだことなどから増価基調で推移した。対円では、日本経済の先行きを懸念する市場の見方などもあって増価基調で推移した。3月30日現在、対ユーロでは2月末比6.9%増価、対円では、同10.4%増価している。 アジアの通貨では、韓国ウォンやインドネシア・ルピアが、3月に対ドルで減価した。
-最近のトピック-
・このところ企業業績の下方修正が相次いでいることなどから、世界の主要市場では株価が下落傾向で推移している。
・2月下旬、トルコでは、政治対立を機にリラに減価圧力が加わり、変動為替相場制へ移行した。トルコは支援を受けるため構造改革プログラムについてIMF理事会と協議中。
国際商品
CRB商品先物指数(1967=100)は、1月後半に230ポイント超まで上昇したが、2月以降は概ね下落基調で推移した。
原油価格は、OPECの1年10ヶ月ぶりの減産合意の影響などから1月から2月上旬にかけ上昇した。その後、2月中旬以降は景気減速による需要減少の見通しなどから、下落基調で推移している。
-最近のトピック-
・OPECは需要減少による原油価格下落を回避する目的で、2月1日からの150万b/dの減産に続き、4月1日から100万b/dの追加減産を実施することを決定した。