海外経済報告(平成12年10月四半期報)
世界経済の概観
我が国をとりまく世界経済情勢をみると、原油価格の大幅な上昇などの不安定要因を抱えているものの、総じて良好な状態が続いている。アメリカでは年初に比べれば減速しているものの、景気は拡大を続けている。ヨーロッパ、アジアでも景気は拡大している。失業率は総じて低下している。物価をみると、エネルギー価格の上昇から消費者物価上昇率がやや高まっている。経常収支は、アメリカでは好調な内需拡大に加えて原油輸入額の増加もあり、経常収支赤字額は過去最高となった。
トピック:原油価格の上昇と影響
1 南北アメリカ 北米、景気拡大続く
アメリカ
アメリカでは、年初に比べれば減速しているものの、景気は拡大を続けている。
年初に比べれば、個人消費、住宅投資は減速している。このところ個人消費は伸びが回復しているが、住宅投資は伸びの鈍化が続いている。民間設備投資は情報通信関連投資を中心に引続き好調に推移している。鉱工業生産(総合)は増加している。雇用は拡大しており、失業率は低水準で推移し労働市場のひっ迫が続いている。賃金は安定しているものの、諸手当を含む雇用コスト指数は伸びが高まっている。物価は総じて安定している。経常収支は、原油輸入額の増加もあり貿易収支赤字が拡大したことから、赤字額は過去最高を更新している。
金融面の動向をみると、9月の長期金利(10年物国債)は、ほぼ横ばいで推移した。株価は、原油価格の上昇やユーロ安に伴う、企業の相次ぐ業績下方修正などを背景に下落した。
-最近のトピック-
連邦準備制度は、米国経済の過熱感後退を示す経済指標が続いたことから、10月3日に行われたFOMC(連邦公開市場委員会)では利上げを見送り、フェデラル・ファンド・レートの誘導目標水準(現行6.50%)及び公定歩合(同6.00%)の据え置きを決定した。
カナダ
カナダでは、個人消費や民間設備投資などの内需を中心として、景気は拡大している。物価は総じて安定しており、失業率も低い水準で推移している。
-最近のトピック-
カナダの代表的株価指数であるTSE300指数は、好調な経済を背景に上昇しつづけている。年初に8,000ポイント台だった同指数は、9月に11,000ポイントを突破した。
メキシコ
メキシコでは、民間消費と固定資本形成の増加により景気は拡大している。物価をみると、消費者物価上昇率は低下している。
-最近のトピック-
メキシコ政府は、IMFから95年通貨危機支援のために融資されていた32億ドルを一括で繰り上げ返済した。
ブラジル
ブラジルでは、堅調な外需と消費の回復により景気は回復している。物価をみると、消費者物価上昇率は低水準で推移している。
-最近のトピック-
8月31日に初めて開催された南米サミットでは、メルコスルとアンデス共同体によって遅くとも2002年1月までに自由貿易圏を成立させること等を盛り込んだブラジリア宣言が採択された。
2 ヨーロッパ 景気は拡大している
ユーロ圏
ユーロ圏では、景気は拡大している。雇用情勢の改善等から個人消費が大幅に増加しておリ、内需が拡大している。また、世界経済の好調やユーロ安により輸出は大幅に増加し続けている。物価は、エネルギー価格の上昇から消費者物価上昇率がやや高まっている。
欧州中央銀行は、10月5日の政策委員会において、物価の上昇圧力を抑制するため、政策金利(短期オペの最低応札金利)を0.25%ポイント引上げ、4.75%とした。
-最近のトピック-
・ユーロは、9月、対円・対ドルともに各市場で史上最安値を更新した。9月22日には、欧州中央銀行の主導の下、ユーロ買いの協調介入が行われた。
・デンマークでは、9月28日、ユーロ参加の是非を問う国民投票において反対多数となり、ユーロ参加は当面の間見送られることとなった。
・ユーロ圏ではガソリン価格が上昇しており、これに対して一部の国で抗議行動がみられた。
西ヨーロッパ(ユーロ圏)
ドイツ
ドイツでは、景気は拡大している。個人消費の大幅増とともに機械設備投資とソフトウェア等投資が内需の伸びを支えている。世界経済の好調とユーロ安を背景に、輸出は引続き大幅に増加している。生産は増加しているものの、製造業新規受注の伸びが鈍化しており、また、景況感が悪化している。物価は、エネルギー価格の上昇から消費者物価上昇率がやや高まっている。
-最近のトピック-
ドイツでは、7月14日、所得税・法人税の大幅減税を主な内容とする税制改革法「税制改革2000」が成立した。
フランス
フランスでは、個人消費の伸びが鈍化したものの、固定投資の高い伸びが続いており、内需主導で景気は拡大している。外需は輸出の大幅増により、プラスに寄与している。生産はこのところ横ばいで推移している。失業率は高水準ながらも低下している。物価は総じて安定している。
-最近のトピック-
フランス政府は、8月末に2001~2003年で総額約1200億フランの大型減税案を発表した。同案には、エネルギー価格の上昇に対応して、石油関連税の一部引き下げを9月21日より前倒し実施することが含まれている。
イタリア
イタリアでは、固定投資の高い伸びが続いており、個人消費も堅調に推移しているものの、輸入の大幅な増加により外需がマイナスに寄与し、景気拡大のテンポは緩やかになってきている。物価は、エネルギー価格の上昇から消費者物価上昇率がやや高まっている。
-最近のトピック-
イタリアでは、失業率は高水準ながらもやや低下している。7月の失業率は、北部の4.7%に対し、南部21.0%と地域間格差は大きい。
西ヨーロッパ
イギリス
イギリスでは、設備投資に力強さはみられないものの、個人消費や輸出は堅調に推移しており、景気は拡大している。生産は、ハイテク部門を主導に増加している。また、雇用面をみると、失業率は約25年ぶりの低水準で推移している。イングランド銀行は10月の金融政策委員会で、8か月連続で政策金利の据置を決定した。
-最近のトピック-
消費者物価は安定しているが、ガソリン価格は上昇しており、これに対して一部で抗議活動が起こった。
中・東ヨーロッパ、ロシア
ポーランド
ポーランドでは、これまで好調だった消費及び投資の伸びが鈍化したものの、輸出の増加に支えられ、景気は拡大している。
-最近のトピック-
ポーランド中銀は8月、インフレ率の高まりを受けて、公定歩合を20.0%から21.5%に引き上げた。
ハンガリー
ハンガリーでは、EU経済の好調を背景に輸出が牽引役となり、景気は拡大している。消費者物価上昇率は近年著しく低下しているが、7月からは原油価格の上昇を背景にやや高まりつつある。
-最近のトピック-
ハンガリー経済省は、インフレ率について、2000年末には9%以下にならないとし、政府見通しの6.0-7.0%を上回る見方を示した。
チェッコ
チェッコでは、総固定資本形成が好調で、景気は拡大している。
-最近のトピック-
8月のチェッコ中銀政策決定会合は、2000年末の純インフレ率(規制価格の引上げの影響を除いた消費者物価上昇率)の見通しを2.1-2.9%から3.2-3.9%に上方修正した。しかし、金利については変更を行わず据え置いた。
ロシア
ロシアでは、 輸出の好調、固定投資の大幅増及び個人消費の増加により、景気は拡大している。
-最近のトピック-
ロシア政府は8月、2001年度予算案を承認し、国会へ提出した。税収が確実に増加していることを背景に、ロシア建国以来初の均衡予算となった。
3 アジア 景気は拡大している
中国
中国では、公共投資を中心とした固定資産投資の拡大や輸出の増加等に牽引され、景気の拡大テンポはやや高まっている。物価は安定している。
-最近のトピック-
2000年下半期中に500億元の国債を増発し、インフラ投資を拡大することを決定した。
香港
香港では、景気は回復している。実質GDPは、二桁の成長が続いているものの在庫投資の寄与が大きい。物価は、衣料・靴、住宅等を中心に引き続き下落している。
-最近のトピック-
香港特別行政区政府は、不動産市場が低迷していることを受け、8万5千戸の公共分譲住宅供給計画の撤廃(6月)や、金融機関による住宅ローン上限の引上げ(7月)等を行った。その後、建物売買件数は大幅に増加した。
韓国
韓国では、危機後の急回復に比べれば減速しているものの、民間消費、機械設備投資が好調なことから、景気は拡大を続けている。エネルギー価格の上昇を受け、消費者物価上昇率にやや高まりがみられる。
-最近のトピック-
10月5日に開催された韓国銀行(中央銀行)の金融政策決定会合において、政策金利(コールレート翌日物の誘導目標水準)を0.25%引上げ、5.25%とすることを決定した。
台湾
台湾では、民間投資の急増が続いているものの、民間消費の伸びが緩やかになったことなどから、景気拡大のテンポはやや鈍化している。
-最近のトピック-
台湾では、8月以降株価が下落基調で推移しており、年初来の最安値を更新した。
シンガポール
シンガポールでは、エレクトロニクスを中心とする生産増加に支えられ、景気は拡大している。
-最近のトピック-
シンガポール政府は、世界的なエレクトロニクス製品需要の増加と好調なアジア域内貿易が引き続き見込まれるとして、2000年のGDP成長率見通しを5.5~7.5%から7.5~8.5%に上方修正した(8月)。
インドネシア
インドネシアでは、景気は回復している。エネルギー価格の上昇などにより、消費者物価上昇率に高まりがみられる。
-最近のトピック-
国際原油価格の上昇を受け、輸出が99年半ばから前年比二桁の増加を続けている。
タイ
タイでは、景気は緩やかに拡大している。物価は総じて安定しているが、このところやや高まりがみられる。バーツは、政治的不透明感などから、98年2月以来の水準まで減価している。
-最近のトピック-
タイ政府は、4~6月期のGDP成長率が予想を上回る好調だったにもかかわらず、2000年の経済成長率見通しを5%に据え置いた。
マレイシア
マレイシアでは、景気は拡大している。電気・電子機器等の輸出が牽引役となり、鉱工業生産は引き続き好調を維持している。
-最近のトピック-
98年9月以来固定されている為替相場について、政府は固定制を継続すると表明した。
フィリピン
フィリピンでは、民間消費の好調を主因に、景気は緩やかに拡大している。治安情勢の悪化などにより、為替(対ドル)レートは、このところ減価している。
-最近のトピック-
フィリピン中央銀行は、通貨ペソの減価を受け、9月8日に政策金利の引上げを発表した。
インド
インドでは、景気は回復している。鉱工業生産は高い伸びが続いている。物価は石油関連製品の価格の引き上げなどから上昇率が高まっている。
-最近のトピック-
インド準備銀行(RBI、中央銀行)は7月21日、公定歩合を現行の7.0%から8.0%に引き上げた。
オーストラリア
オーストラリアでは、堅調な消費と民間投資により景気は拡大している。物価はやや高まっている。
-最近のトピック-
7月からのGST(Goods and Services Tax)の導入に伴い、住宅購入の駆込みと新車の買控えがみられた。
4 国際金融・商品
国際金融
7~9月期の米ドルは、対ユーロでは、7月初旬は米国景気の減速感やユーロ圏景気拡大への期待から減価したが、その後、米欧の景況感格差やECBの金融政策に対する不透明感などから増価基調で推移した。対円では、米日の景況感格差などから増価基調で推移した。9月29日現在、対ユーロでは6月末比7.4%増価、対円では、同1.9%増価している。なお、アジア通貨は、タイ・バーツが、対ドルで減価基調で推移した。
-最近のトピック-
欧米日など主要国の通貨当局は、ユーロ減価が世界経済に与える潜在的な影響を懸念し、9月22日にユーロ発足後初めての協調介入を実施した。
国際商品
CRB商品先物指数(1967=100)は上昇基調で推移し、9月にほぼ2年半振りとなる230ポイント台を記録した。
原油価格は、OPECの3度(2000年3月、6月、9月)の増産合意にもかかわらず、高値で推移した。
-最近のトピック-
原油価格が高値で推移したことを受けて、アメリカが政府石油戦略備蓄(SPR)の市場への放出を決定した。OPECは、9月末にOPEC首脳会議を開催し、消費国との対話を重視する姿勢を表明した。