「日本経済レポート(2025年度版)」刊行にあたって
内閣府政策統括官(経済財政分析担当)は、毎年夏の「年次経済財政報告(経済財政白書)」公表後の経済状況に関する分析を行い、「日本経済レポート」として公表しています。今回のレポートでは、2025年の我が国の経済動向や物価・賃金の動きを振り返るとともに、家計部門の属性に着目した物価上昇の影響の違いや、企業部門の力強い成長、さらには賃上げに向けた人的投資やM&Aの現状・課題について分析を行いました。
第1章では、我が国のマクロ経済の動向を概観するとともに、賃金と物価の好循環の実現に向けた現状と課題を点検しています。我が国経済は、2025年における米国の関税引上げという逆風に見舞われながらも、内需を中心とした緩やかな回復が続いています。米国の関税措置については、2025年7月の日米間の合意により、ひと頃に比べれば不透明感は緩和してきていますが、引き続き景気を下振れさせるリスクの一つとなっています。また、食料品など身近な物の価格上昇が続いていることにも注意が必要です。賃金は緩やかながら安定的に上昇しているものの、物価上昇には追い付いておらず、これが消費の回復に力強さが欠ける一つの要因となっています。ただし、賃金の影響が大きいサービス価格も徐々に上昇してきており、また、食料品価格の上昇が鈍化するなど物価動向にも変化の兆しがみられます。こうした中で、本レポートでは、財・サービス別の物価動向や人件費率の高低別の賃金の動きを詳細に点検することで、経済の供給力を引き上げ、賃金と物価が相互に連動して安定して上昇していく、賃金と物価の好循環を実現させていくことの重要性を確認しています。
第2章では、成長型経済の実現に向けた課題について、物価高の影響、賃金と生産性、企業行動の観点から分析を行っています。食料品価格が主導する物価上昇の影響を、家計の属性別にみると、消費支出に占める食料品の割合は、所得の低い世帯などにおいて増加する傾向が顕著にみられます。結果として、こうした世帯では、直面する物価上昇率が相対的に高くなっており、消費が押し下げられるとともに、全体の景況感も押し下げられるといった悪影響が生じている可能性があります。また、国全体では定着しつつある賃金上昇の広がりも、年齢別や産業別でみると、必ずしも広がりが十分ではない層も確認されます。物価上昇を上回る賃金上昇の定着に向けては、賃上げをいかに全体にいきわたらせるかも課題であるといえます。賃金上昇の実現には、労働生産性の向上も重要です。我が国の労働生産性は、主要国に比べ低水準にとどまっており、今回の分析では、その一つの要因として人的投資や自己啓発の意欲が低いことなどを示しています。さらに、生産性向上には企業の成長が不可欠です。この点で、M&Aは、今回の分析でも企業の生産性を有意に押し上げる効果が確認され、生産活動の効率化などを通じて企業の成長を促進すると考えられます。こうしたM&Aによる企業再編の環境整備を行うことなどを含めて、我が国経済の成長力を底上げしていくことも重要です。
本報告の分析が日本経済の現状と課題に係る認識を深める上での一助となれば幸いです。
令和8年2月
内閣府政策統括官
(経済財政分析担当)
吉岡 秀弥
※本報告の本文は、原則として2025年12月31日までに入手したデータに基づいている。