むすび

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(2015 年の日本経済)

日本経済は、アベノミクスの下、デフレ脱却・経済再生に向けて大きく前進した。経済がデフレ状況ではない中で、好循環が着実に回り始め、景気は緩やかな回復基調をたどった。企業収益が過去最高水準で推移する中で、雇用者数が増加、完全失業率が20年ぶりの低水準となった。また、名目賃金の伸びが上昇を続け、実質賃金もプラスに転じている。

しかし、所得面の改善が投資・消費といった支出面の改善につながるテンポに鈍さがみられている。企業の設備投資は、過去最高水準の企業収益に比して、低水準にとどまっている。大企業では保有現預金等が増加傾向にある一方、設備投資、研究開発、賃金支払に関する前向きな支出は伸びが鈍い。個人消費は、実質総雇用者所得が増加しているが、物価上昇に比して緩慢な賃金の改善や、身の回り品の価格上昇などから、改善に力強さがみられていない。

物価面は、デフレ脱却に向けて着実に前進している。消費者物価は緩やかに上昇しており、GDPデフレーターや単位労働コストは改善傾向にある。一方、デフレ脱却に向けては、縮小傾向にあるものの、依然マイナスとなっているGDPギャップの着実な縮小が重要である。

こうした景気・物価動向を踏まえると、投資・消費といった支出面の拡大を通じた、好循環の加速・拡大が必要である。将来の期待成長率が高まる中で、設備投資や賃金支払といった前向きな企業行動が強まっていくこと、賃金の継続的上昇により所得の見通しが確かなものとなることを通じて、家計の消費が拡大していくことが重要である。

また高齢化が進展する中で、消費動向や労働供給に対して高齢者層の与えるインパクトは年々強まる傾向がみられる。

消費については、高齢者層のうち、無職の世帯は、就業している世帯に比べて、可処分所得と消費支出が少ない。現在就労していないが就労を希望する高齢者の労働参加の実現は、消費を拡大する可能性がある

労働供給の観点からも、高齢者就業者や就業を希望する高齢者が一層増えていくよう労働環境の整備を進めることが重要である。

(今後の展望とリスク)

景気の先行きについては、企業収益が改善し、雇用・所得環境の改善が続く中で、各種政策の効果もあって、緩やかな回復に向かうことが期待される。個人消費については、労働需給が引き締まりつつある中で、賃上げの継続・拡大等により所得環境の改善が続き、個人消費は持ち直していくことが期待される。設備投資については、企業収益の改善等を背景に、増加していくことが期待される。また、一億総活躍社会の実現に向け最優先で推進する必要のある「緊急経済対策」に取り組むことにより、民間の取組ともあいまって、投資促進・生産性革命の実現や賃金・最低賃金の引上げを通じた消費の喚起等への取組等を推進し、名目GDP600兆円経済実現に向けた動きを加速するとともに、デフレ脱却への歩みを確実なものとし、足下の景気をしっかり下支えすることが見込まれる。

こうしたメインシナリオに対する下方リスクとしては、消費者や企業のマインドの改善が遅れ、実体経済の回復が抑制されることである。国民が、デフレ脱却・経済再生に対する将来展望を確信し、積極的に投資活動を行い、安心して消費活動が進められるよう、景気回復と持続的成長力の向上に向けた適切な経済財政政策運営が求められる。

海外経済の面では、中国経済を始めとするアジア新興国等の減速や資源価格の下落がみられる中で、アメリカの金融政策正常化が進んでいる。こうした下で、中国を始めとするアジア新興国等の景気が下振れするリスクや国際金融市場の変動などが世界景気に与える不確実性にも留意が必要である。

(企業ダイナミズム向上への挑戦)

成長力を高めるためには、企業レベルからみると、企業の誕生(起業)やその後の成長といったダイナミズムが重要である。その際、特に、企業数や従業員数が多い中小企業の動向が注目される。

我が国は開業・廃業が諸外国と比較して少なく、雇用創出効果が高い社齢の若い企業の全体に占める割合が相対的に低い。起業活動を促し、新規企業を増やすことや、M&Aや新事業展開を通じてダイナミズムを向上することが重要である。

特に、資金調達面での制約の解消が重要である。中小企業は金融機関からの借入が多く、借入をする際には、個人保証や不動産担保といった、収益力以外の条件を求められることが多い。一般に保有不動産の少ない中小企業では資金調達が難しい場合が多い。不動産担保以外の担保やリスクマネーの供給などを通じた資金調達の多様化が重要である。また、金融面の支援においては、企業のライフステージに合わせ、例えば一律の信用保証の保証割合を改めるなど、企業と金融機関がともに成長力を高めていくようなインセンティブを持つ仕組みとすることが重要である。

また、起業希望者が減少傾向にある中で、起業意識が諸外国に比べても低いことを踏まえると、起業教育もカギとなろう。

(対外的な稼ぐ力と稼ぎ方)

少子高齢化等を背景とした国内供給制約や新興国の台頭などの中で、我が国の対外的な活動は変化が求められている。それは我が国にとって成長力向上への挑戦でもある。量産型の輸出財で新興国がシェアを伸ばす一方で、財の高付加価値化を進めること、サービスを含め比較優位を有する分野を伸ばすこと、さらに生産やサービス提供の海外展開なども含めて、国際分業の利益を実現し、我が国が対外的にしっかりと所得を得ていくことが重要である。

我が国の対外的に稼ぐ力として、「財輸出」、直接投資などの「第一次所得受取」、「サービス輸出」の合計(対GDP比)をみると、2013年以降、上昇しており、中でも第一次所得やサービス輸出の伸びが財輸出を上回るなど、その稼ぎ方には変化がみられる。

財輸出については、製造工程が複数の国を跨ぎ各国ごとに付加価値を高めていくグローバル・バリューチェーンが深化していく中、単純な輸出数量ではなく、輸出財に含まれる国内で生産された付加価値に注目する必要がある。国内付加価値を高めることができている財では、新興国の台頭の中にあっても、我が国の世界シェアの低下が抑えられている。輸出財の生産において、サービス投入も含めた国内付加価値の比率を高めていくことが、稼ぐ力を高めていくカギとなる。

海外からの所得受取については、財輸出に比べて伸びが高い。直接投資収益の投資国別の収益率(リターン)と、毎年の変動(リスク)をみると、アメリカに比べて総じてリスクは高いものの、収益率については、全体としてはアメリカをやや下回っている。情報提供や人的能力向上等を通じてリスク対比で収益率を高めていくことが重要である。

サービス輸出についても、財輸出に比べて伸びが高い。中でも、最近、大きく増加している訪日外国人旅行者による消費(インバウンド消費)が注目されている。近隣国の所得水準の増加や自由貿易協定の締結などが訪問外客数を有意に増加させることは、世界的な傾向として認められるところであり、アジア諸国・地域の成長やTPP協定、さらにはオリンピック・パラリンピック東京大会などの好機をいかしていくことが重要である。

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