「日本経済2011-2012」刊行にあたって
内閣府経済財政分析担当では、毎年末に「日本経済」シリーズを公表し、「年次経済財政報告」後の日本経済の現状に関する分析を提供しています。今回の報告書のねらいは、持ち直しのテンポが緩やかとなった景気が、以前の基調に復し、さらに自律的な回復へと移行できるかどうかを検討することにあります。そのため、今回は 3章立てで分析を進めましたが、そのポイントは以下のとおりです。
第1章では、景気の現状を分析しています。分析を通して、①東日本大震災後の復調が鈍化した背景には、輸出の鈍化や利益低迷による設備投資の不振があり、欧州政府債務危機の早期終息や円の安定化が重要であること、②円高にはリスク回避的な動きによる面もあるが、デフレも要因となっていること、③震災後に生じている電力の供給制約を克服する必要があること、などを指摘しています。
第2章では、被災地の状況を多面的に分析しています。その結果、①震災直後に生産が完全に止まってしまった事業所の影響が大きい鉄鋼やパルプ紙工業の生産が他地域に比べて低迷していること、②沿岸部では、求職者の増加に求人数の増加が追いついていないため、有効求人倍率の改善の遅れや職種間のミスマッチがみられること、③企業やマーケットの将来予測は経済的なショックなどを安定的に織り込んでいるわけでないこと、などを明らかにしています。
第3章では、リーマンショック後の国際金融市場の連動性に焦点を当てています。ここでは、①ギリシャショックは我が国には伝播しなかったが、イタリアとスペインが破綻した場合には、我が国に対する影響は大きいと考えられること、②我が国で財政リスクが顕在化していないのは、基本的に国内における貯蓄超過によると考えられるが、経済情勢やリスク管理の強化を企図した制度的要因を背景に、国内資金が日本国債の保有に向かうインセンティブがあることも無視できないこと、などを指摘しています。
日本経済にとっては、様々なリスクにさらされる中で、改めてその体勢を立て直し、自律的回復へ向けた基盤を固めていくことが重要となっています。そのためにも、雇用の回復と安定、デフレの克服が急がれます。
本報告書の分析が、日本経済の現状に対する認識を深め、その先行きを考える上での一助となれば幸いです。
平成 23年 12月
内閣府政策統括官
(経済財政分析担当)
齋藤 潤
※本報告の本文は、原則として2011年12月2日までに入手したデータに基づいている。