参考1 「選択する未来」委員会報告
II 主な政策の方向性
経済、産業、金融、国土、地域、雇用、教育、人材育成、福祉等に係る主な政策や関連する取組が、望ましい未来像を共有して同じ方向性を指向すれば、相乗効果が生み出される。
1.成長と発展の持続する経済社会へ
【ポイント】
- 人口動態は、経済の成長力を決定する3要素(労働投入、資本蓄積、生産性(TFP)19)全てに影響を与える。そうした観点からも、人口を1億人程度で安定化させることが重要。
- 人口規模の安定化の経済への押上げ効果が現われるまでには時間がかかるため、イノベーションにより生産性を飛躍的に向上させるジャンプ・スタートが必要。
- 企業の付加価値創造力の強化、ビジネスの「新陳代謝・若返り」、グローバル化への対応により、生産性(TFP)上昇率を世界トップレベルに引き上げ、さらに、世界に誇れる「日本ブランド」を構築することで世界をリードする国を目指す。
(1)「縮小スパイラル」の回避
長期的な経済の成長力は、労働投入、資本蓄積、生産性(TFP)の上昇の3要素で説明されるが、人口動態はこれら3要素の全ての側面から経済成長に変化をもたらすものであり、成長・発展の重要な基盤である。労働投入は生産に従事する現役世代の人口と労働参加率に依存し、資本蓄積は高齢化率の動向による貯蓄率の変化の影響を受ける。また、生産性向上の切り札となるイノベーションは、個人の発想のみならず、多様なアイデアをもつ人々の交流の中からも生まれることから、現役世代の人口増加率が交流の機会の増減を通じて、生産性上昇率に影響を与える。未来のために、人口急減への早急な対応をとり、経済の「縮小スパイラル」を回避することが不可欠である。
(2)生産性の飛躍的向上に向けたジャンプ・スタート
人口減少に歯止めをかけ、人口を1億人程度で安定させることができたとしても、経済への押上げ効果が現われるまでには相当程度時間がかかる。したがって、人口減少の流れに歯止めをかける取組を進めると同時に、生産性を飛躍的に向上させていくための取組を同時に進めていく。そのために、徹底的な改革に直ちに取り組み、2020年代初頭までの期間に集中的に改革を実行することにより、世界トップレベルの生産性に引き上げるジャンプ・スタートを切る。
①創意工夫による新たな価値の創造
ジャンプ・スタートで生産性を飛躍的に向上させるため、様々な分野においてイノベーションを起こしていく。イノベーションとは、新しい技術による製品開発にとどまらず、新しいビジネスモデルの構築や経済社会の変革等も含む広範な意味を持つものであり、「創意工夫による新たな価値の創造」と言えるものである。広範なイノベーションにより生産性を向上させるため、従来の「モノづくり」から一歩進んで、サービスやシステム、デザイン、ブランドストーリーなども含めた「モノ・コトづくり」20への取組や、思い切ったICT投資-ハードだけでなく人材育成が重要-とのその活用等を通じた潜在的な需要を開拓するための取組などを進める。
社会の変革のためには、人々の意識が変化していく必要がある。日本では生産性向上が重要であるという認識が未だに十分に浸透していない。これは逆に言えば、生産性向上の余地が大きいことを意味する。個々人や企業の経営者が生産性向上の意識を高めて取組を始めれば、至る所で生産性を向上させることができる。企業経営や生産活動の現場において、イノベーションを重視する意識もより強くなっていく必要がある。個人や企業が自信を持って積極果敢にチャレンジする精神や、新しい技術の潮流をいち早くつかみ世界に先んじて取り込んでいこうという気概を取り戻すことが重要である。
政府は、あらゆる政策を総動員して、イノベーションを促進し生産性を飛躍的に向上させるための環境整備を早急に進めるとともに、民間の取組を後押ししていく。ハードルは極めて高く困難な挑戦であるが、2020年代初めまでに思い切った改革を進めていく。
②生産性向上のための集中的な改革
生産性(TFP)上昇率を世界トップレベルに引き上げていくことを目指して徹底的な改革に取り組んでいく。
(企業の付加価値創造力の強化)
企業の付加価値創造力を一層強化する必要がある。ICT化や研究開発はもとより、ブランディングやマーケティングも含む知識資本の強化、企業における人材の多様性の確保や外部との関係性の拡大やオープン・イノベーションの強化による多様なつながりの拡充が重要となる。また、イノベーションを促進する社会全体での環境整備も重要であり、多様な人材の育成とその活躍の場の拡大や人材育成・イノベーション機能における大学の役割の強化、地域においての多様性とつながりの拡充、時代の変化に即応した規制改革などが求められる。
(ビジネスの「新陳代謝・若返り」)
生産性の低いビジネスが淘汰され、生産性の高いビジネスが生き残っていくよう、ビジネスの「新陳代謝・若返り」が活発化する必要がある。資金調達手段の多様化や金融機関の目利き力の強化、健全な資本市場の形成、行政手続の簡素化・迅速化に加え、事業に失敗した人が再び社会に受け入れられていく意識が醸成されていくことによる起業の活発化や労働市場の円滑化、市場機能を阻害する規制の改革が求められる。また、適切なタイミングでの非効率な事業からの撤退や不採算事業の移転による事業再編が重要となる。
(グローバル化への積極的対応)
さらに、これらの取組をグローバル化への積極的な対応で後押ししていく。グローバルなつながりは、個々の企業が付加価値創造力を強化するだけでなく、新たな融合を通じて、ビジネスの「新陳代謝・若返り」を促進する。様々なつながりを拡大する経済連携の推進や対日直接投資の拡大の環境整備、グローバル人材の育成、グローバル・バリュー・チェーン21の構築、金融ビジネスの活性化を進めていく。
③「日本ブランド」で世界をリードする
世界トップレベルの生産性を目指した取組に加えて、日本の良さを付加価値に結び付けていくことにより、生産性をより一層高め、世界をリードすることが可能になる。価格に反映されていない持ち味の付加価値化、日本発の優れたビジネスの仕組みを発展させた新たなビジネスモデルの形成、ロボット等の日本が既にリードしている先端技術を活用した経済社会の変革に取り組む。日本独自の強みを発展させるために、国民が共感し、世界に誇れる「日本ブランド」を構築するとともに、グローバル社会のルール作りに積極的に参画していく。
2.地域の疲弊、衰退を緩和、反転させる
【ポイント】
- 東京一極集中に歯止めをかけるとともに、東京と地方が相互に支え合いつつ、それぞれが持続的発展を遂げ、長期的な成長を担っていく。
- 地域の主体性と「創意」・「人材」を活かしつつ、「個性を活かした地域戦略」を推進することが重要。地域の置かれた状況は多様であり、それぞれの地域の持つ独自の個性を活かせるような「選択と集中」による地域づくりを行う。
- 地域の再生のためには、生活の利便性を高めながら経済活動の活性化を図る「集約・活性化」に向けた取組が求められる。その際、「所有から利用」への転換、ファシリティ・マネジメントの考え方を導入する。
- 「新しい絆」によるネットワークを形成。関係者がビジョンを共有し、地域への愛着と誇りを持って、持続可能な循環型の地域社会を形成していく。
(1)「個性を活かした地域戦略」の推進
①東京一極集中の是正と地方への人の流れの促進
東京への一極集中傾向に歯止めをかけるとともに、人口急減・超高齢化の克服を目指す必要から、東京と地方の関係を二項対立で考えるのではなく、相互に支え合いつつ、それぞれが持続的発展を遂げ、日本全体の長期的な成長を担っていく地域としてとらえるべきである。
地方において健康で心豊かな生活が実現できることをより多くの人々に実感してもらい、地方への人の流れを促していくことが急務。また、働く場づくりとしては、地方への本社機能等の移転誘導や産学官金労連携による地域内発型産業の振興、さらにテレワークの積極的活用等が考えられる。
②求められる「創意」と「人材」
「地方創生」とは、地域に住み、関わる人々が、地域の未来に希望を持てるようにすることである。どのような地域をめざすのかについて、地方自治体や住民がビジョンと戦略を共有し、その実現に向けて、長期的な視野に立って取り組んでいく。
その際、重要なのは、地域の主体性と「創意」・「人材」である。地域の自治体や住民が主役となり、モノマネではなく、自らの創意を生かして地域資源を活用していく。その戦略立案と実行には、人材が不可欠であり、地域の内外に広く求めていく。国は、そのような地域の取組に対して、できる限りのサポートをしていくという役割を担い、全国一律のバラマキは行うべきではない。
③「選択と集中」による地域戦略
地域の置かれた状況は多様であり、それぞれの地域の持つ独自の個性を活かせるような地域の戦略を選択し、資源を集中する「選択と集中」による地域づくりが必要である。従来の産業の枠組を超えて、魅力のある商品やサービスを提供できる最適な分野のマッチングによる付加価値の向上が求められ、積極的な取組の全国的な展開や他分野への応用を推進する。
a)農林水産業を活かした地域活性化:農林水産業を中心とした地域資源の再発見、ICT技術を活用した産直、直販などマーケット化、生鮮輸送などの流通技術の活用、都市住民との交流や健康増進など場の提供
b)観光・交流を活かした地域活性化:国際的、広域的な人流、物流の受け皿づくり、地域がオープンに海外と直接つながっていく取組の推進、地域資源の発掘や魅力の向上、これを担う人材の確保、長期滞在を含めた新しい形態の広域交流等
c)産学官金労連携による地域活性化:急速なペースで進行する高齢化に対応した健康・医療などの先進的な地域づくりや、バイオ、ICTなど先端技術を利用した地域づくりについて、産学官金労の連携の下での取組
④東日本大震災復興の取組から見た地域づくりの知見
「新しい東北」の創造に向けた取組は、中長期の地域づくりの検討にも大きな方向性を与えるものであり、被災地での新たな街づくりの実践を全国における地域づくりに役立てていく。また、地球温暖化等による世界的な食料危機や異常気象、さらには南海トラフ巨大地震等の大規模災害が懸念される。このため、東日本大震災の教訓を踏まえつつ、全国各地において、災害に強いしなやかな地域づくりに取り組む。
(2)地域の再生のための「集約・活性化」
①「集約・活性化」の意義
人口急減・超高齢化の進行によって、成長力の低下だけでなく、コミュニティの崩壊の恐れがあり、財政制約が厳しくなる中で、必要な行政サービスの提供や公的資産の維持管理・更新にも支障が生ずることが懸念される。地域の再生に向けて、行政サービス等を市街地中心部に多機能集約化することにより、生活の利便性を高めながら経済活動の活性化を図る「集約・活性化」に向けた取組が求められる。
「集約・活性化」の選択肢としては、一つの都市の中で、公共交通の活用と市街地の集約・集積を図るコンパクトシティの取組、複数の都市の連携協約、さらには都市相互を交通ネットワークで接続し、広域的な機能分担・連携等を行う方策などが考えられる。農山漁村部も近隣の都市との連携や公的な施設の集約が必要である。
②「集約・活性化」の推進方策と推進体制
「集約・活性化」に向け、地方自治体は、地域住民等の関係者が危機意識を共有し、都市構造の将来予測をもとに、優先順位をつけて中長期的な計画を立てることが求められる。国は、住宅・まちづくりのあり方のモデルの提案やその普及を図るほか、先進的な地方自治体の取組を重点的に支援する。
特に、実務を担う地方自治体職員の能力の向上が求められるところであり、先進的な地方自治体の事例の分析や研究を進め、教育や研修を行うことが有用である。また、現行制度やその運用について、職員の意識改革も含め不断の見直しを進める。
③「所有から利用」への転換
集約の受け皿となる都市の中心部は、空き家や遊休地が多く、有効利用が進んでいない。定期借地権の活用や、特定目的会社を活用した医療、介護サービス付きの高齢者住宅の整備等など資産流動化の拡大が望まれる。民間事業者との連携を図り、空き家の除却または再生と流通を促す仕組み等も整える必要がある。
④公共施設をはじめとする公的資産の適切なマネジメント
公共施設の利用需要の変化が予想されることを踏まえ、公的資産の中心部への統合・再編や効率的な維持管理・更新による長寿命化を推進し、限られたコストで行政サービスの最適化を図るファシリティ・マネジメントが必要である。
⑤合意形成へのルールづくり
行政サービス水準の低下や郊外部等からの転居による負担の可能性もあり、住民が合意しないケースも予想される。解決に向けた手続や選択肢について住民と情報を共有し、市民討議会22等の手法を活用しながら、住民自治の理念の下で合意形成を図りつつも、最終的には政治の決断とリーダーシップで施策の実現を図っていく。
(3)地域の「新しい絆」によるしなやかな地域づくり
①「新しい絆」の意義
住民自らの参加の下、地域へのプライドを持ちうるような持続可能な循環型の地域社会を形成していく。そのため、地域づくりの担い手の活用と能力発揮によって、地域の人と人、地域コミュニティ、企業、非営利組織、地方自治体などをつなぐ「新しい絆」、すなわち外に開かれた新たなネットワークを形成し、これら関係者が持続可能で豊かな地域社会の形成に向けたビジョンを共有することで、地域の社会的課題が解決され、地域社会の変革や成長につながっていくことが期待される。
②担い手としての人材等の活用
地域づくりの担い手として、地域経営のノウハウを有する人材、地域と地域外を結びつけるノウハウをもつグローカル23な人材、地域との関わりへの意欲のある「ワカモノ」などに、経験の場を与えて「地域のリーダー」として育成していく。
また、熱意や能力を持った人材が円滑に地域に根付くことができるよう、人材の発掘や起業支援等について、地方自治体を中心に制度的に取り組む。その際、都市圏の中高年層の経験を活かす人材バンクなどの構想を具体化することが求められる。
更に、地域外の人材をより有効に活用していくためには、地域づくりに必要な人材を地域自らが考えて自ら呼び込む、一種の逆指名のような視点が重要である。
③社会的投資等の促進
地域内外の資金が、地域の社会的課題を解決するための活動に供給されるような社会的投資の促進を図る。投資に対する社会的な収益を定量的に評価する社会的インパクト評価の導入や、休眠預金の活用も検討に値する。
社会的課題の解決に重要な役割を果たすことが期待されるNPO等は、その活動が社会からの共感を呼び、これが実際の寄附に結び付くような広報や一層の情報開示を図る必要がある。また、地域金融機関によるソーシャルビジネス24向け融資の普及、クラウドファンディング25の利用拡大、ふるさと納税制度やNPO等にかかる寄附税制の普及啓発が望まれる。
3.「人」を育て、愛しみ、多様さを伸ばし、活躍を実現する
【ポイント】
- 変化の中で、経済社会全体が活力を増し、未来に向けた持続的発展を実現するためには、一人一人の「人」の力が不可欠。若者、女性、高齢者などすべての人が、それぞれその能力を最大限発揮し、活躍することで生産性を高めていくことが必要。多様な人々の「草の根の知識」が土壌となってイノベーションを生み出していく。
- 「人」を大切にしていくことは、安心して子どもを産み育てられる環境の実現にもつながる。それは、人口急減・超高齢化の克服にもつながり、人口規模の維持がさらなるイノベーションの創出につながることで、持続的な成長・発展にも寄与していく。
(1)人材育成-人が活躍するために必要な力の養成
①人間ならではの総合的な力の養成
激しい変化が予測される未来の社会において、人間ならではの活躍ができるよう、小さい頃から、一次情報に直接触れる野外活動や価値観の異なる多様な人々との交流など、琴線に触れる様々な体験を積むことを通じて、その人自身の力を引き出し、「心」の成長をはじめとして人間ならではの総合的な力を育んでいく。
②汎用的なスキルの養成
不確実な未来に柔軟に対応し、イノベーションを起こし、付加価値を創出するためには、リーダーシップやコミュニケーション力、問題を発見し解決する力など、分野横断的に必要とされ多面的な状況に対応しうる汎用的なスキルが欠かせない。
中学・高校・大学教育においては、デザイン・シンキング26の手法の採用や、リーダー教育の取り入れ等、その養成の在り方を検討し、取組を始める。大学入試制度については、知識・技能を基本としつつ、多面的な評価ができるよう見直す。職業実践を通じて実際に問題解決していく中で養成される面が大きいため、試用的雇用の拡大など、職業実践の機会を増やす取組も重要である。
③専門的なスキルの養成
イノベーションや付加価値の創出のためには、特定分野毎に必要となる専門的なスキルが不可欠。ある教育段階において画一的に教授するのでなく、教育課程や就職後も含めた様々な時点から、各人の選択に応じ、産業・企業特殊的なものからグローバル競争に対応できるレベルのものまで、必要なスキルを獲得できる仕組みを構築する。
各大学が、その個性・特色を踏まえた選択に基づき、機能別に分化していくことを前提に、大学の専門的なスキルの養成機能を強化していく。さらに、職場での実践が非常に有効であり、インターンシップやデュアルシステム27など、教育機関における学習と並行して行う職場での一定期間以上の実践の機会の充実も検討し、具体的な施策につなげていく。
④人材育成のための環境整備
社会全体で人の育ちを支える観点から、働くことを身近に捉え、充実した人生となるようキャリア教育を戦略的に推進するとともに、グローバル化にも対応しうる創造性豊かな教員の養成を行う。さらに、子どもの育ちや教育の機会が家庭の経済状況に関わらず確保されるようにするなど、多様性に富んだ人材を受け入れ、活躍のチャンスを与え、力を引き出し、活かす社会的土壌の形成を進めていく。
(2)働き方とその環境-すべての人が活躍できる社会の仕組みづくり
①すべての人が活躍できる雇用システムの構築
誰もがその能力を活かせる仕事に就き、高いモチベーションをもって働けるようになることが不可欠。正規雇用と非正規雇用が二極化する現状を脱し、労働に対し適正な対価が支払われる雇用システムを構築する。
「ポスト型の人事管理」や「同一労働・同一賃金」の考え方を我が国において培われてきた雇用システムの良さを生かしながら取り入れて、ベストミックスといえる雇用システムを考えていく。
まず、日本の雇用慣行の中では曖昧になっていることの多い「職務」を明確化し、企業内外からその職務遂行に適した人材を登用する「ポスト型の人事管理」を拡大していく。その上で、明確化された職務に対し、正規・非正規といった雇用形態に関わらず、「同一労働・同一賃金」の考え方に基づいて、適切な対価を払っていくこととする。適切な対価とは、少なくとも夫婦で働けば子どもを産み育てられる程度の水準とすることが適当である。
これにより、労働者の賃金を安易にコストカットの対象と捉えるのではなく、正規雇用と非正規雇用の二極化から脱却していくことを目指す。低賃金の働き方が解消され、労働が適切に評価される仕組みとなることで、労働者のモチベーションが上がり、生産性の向上につながることが期待される。また、誰もが意欲を持って仕事に取り組むことで、イノベーションが生まれる土壌も醸成される。夫婦で働けば、子どもを産み育てることができる所得水準の確保と家族に対する支援の充実等が相まって、人口急減の克服に向けた環境整備にもつながっていく。
さらに、正規・非正規の二極化からの脱却をめざし、明確化された職務に応じた賃金が支払われる仕組みを採り入れる場合には、賃金カーブはフラット化していくことになる。それにより、企業間移動による不利益が小さくなり、主体的に自分の能力を生かせる職務を企業外も含め求めていく動きへの障害が小さくなることで、雇用の流動性が高まることとなる。
雇用の流動性が高まれば、多様なキャリアパスの形成が可能となり、自分に合った働き方が可能となることで、女性や高齢者などの更なる活躍が促進され、新たなイノベーションの源泉となっていく。同時に、労働市場全体で見ても、未来の産業構造の変化に応じた労働移動が可能となる。
このような雇用システムを構築していく過程においては、高い生産性を生み出せない産業や企業が淘汰されることがありうるが、持続的な成長を期してあらたな雇用システムを「選択」することの結果として、「覚悟」を持って、社会全体でしっかり受け止めていく必要がある。
②ワーク・ライフ・バランスの実現
人の活躍の前提として、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現は不可欠。健全な暮らしと健康確保のため、長時間労働は抑制すべきである。長時間労働等に起因する過労死や、いわゆるブラック企業などの是正への対応が必要である。職務を明確化した人事管理が拡大すれば、無限定な働き方が減少し、男女とも育児や親の介護と仕事の両立とともに、生産性の向上が期待される。
また、基盤的な取組として、組織風土を改善していく取組に対する支援や、優れた企業の積極的な評価、テレワークの普及などのICTを活用した仕事の効率化などを進めていく。
③若者、女性、高齢者の活躍
人口減少が進む中、すべての人が多様な能力を最大限発揮し活躍できるよう、それぞれの特性を踏まえた活躍の場を提供していく。就労に向けた多様な機会を用意することによる若者の活躍促進、社会の意識を変え、多様なキャリアパスを実現することによる女性の活躍促進、年齢に関わらず個々の状況に応じた多様な社会参加・働き方を可能とすることによる高齢者の活躍促進などの取組が重要である。
(3)豊かな生活とその基盤-心身ともに豊かな生活の実現
経済面だけでなく、健康で社会的関係の面でも充足した心身ともに豊かな生活を実現することが、人の活躍の一つの姿。高齢者が、年齢に関係なく、その人らしく多様な社会参加・働き方を実現していくためには、生活習慣の改善などの健康維持等により、健康寿命を延伸することが不可欠となる。
超高齢社会において高齢者を支え、人生の最終章を安心して暮らせるようにするため、医療等の情報を一元化・分析した上で、ICTを活用して在宅医療や介護に関する情報と様々な生活情報をうまく組み合わせて新しい包括的なサービス提供につなげていく仕組み等を構築する。
地縁血縁が少なくなっていく社会の中では、新しいコミュニティのあり方が求められており、支えあいのコミュニティをいかに再構築していくか、という視点も重要である。