第4章 識者の意見
高橋 智隆
株式会社ロボ・ガレージ代表取締役
-「選択する未来」委員会 委員
「ロボットや先端技術は日進月歩。人間でなくてもできることはどんどん増えるが、感性と意志をもって未来を変えることは人間にしかできない」
今までのロボットは、人間や家電製品がおこなっていた物理的な作業を代替するものとして位置づけられていた。しかし最近大手IT企業を中心に、人との情報の授受や関係構築に大きな市場があると考えられるようになってきた。ロボットが人とコミュニケーションをとりながらビッグデータやライフログを収集し、それを新たなサービスに活かしていくのである。
日本人は人と人との関係性をとても繊細に捉えていて、それが人とロボットのコミュニケーションを考える上でも役立っている。また、コミュニケーションロボットの成果は、人と機械全般とのインターフェース自体を大きく進化させ、さまざまな製品やサービスへの波及効果が期待されている。
昨今の産業では、何か特定の革新的なデバイス、ハードウェア(キラーハードウェア)があって、その先に産業やサービスが広がる傾向にある。例えば、iPhoneという革新的なデバイスが先にあって、アプリケーションやコンテンツを考えていくアイデア、人材、資金が集まり、裾野が広がっていくように。つまり1つの製品、1つの企業、場合によっては1人の発明者や起業家が、産業構造をがらっと大きく変えるような発明を生み出せるのである。そんなイノベーションを、是非日本から起こしたいものだ。
その為には、世界中の巨大IT企業との開発競争が激化しつつある今、日本が従来からおこなってきた学術研究中心のロボット研究開発体制に十分な競争力があるのか、吟味し直す時期に来ているのではないか。研究補助金目的に研究テーマが歪められていないか、そもそも予算獲得自体が目的となり最終成果に到達出来ていないのではないか。ロボットの将来市場を正しく見積もり、適切な投資をしていくことが求められ、その戦略策定には実際にロボット関連商品・サービスを市場に投入しているプレイヤーが参加すべきであると感じている。
本会議の重点項目である少子化について、人類が今まで積み重ねてきた知識、情報の量があまりにも多く、その習得期間がどんどん長くなり、結婚、出産、家庭を築くという行為が全体的に後ろ倒しになってしまっていることが、一つの要因だと感じている。その解決策として、人間がハンドルし切れない量の情報やタスクを、ロボットや人工知能が担うことができるはずである。
すると我々の働き方は変わっていくはずで、それに応じて知識偏重であった教育も変わっていくべきだろう。人間にしか出来ないことは何かが問われているのである。それは例えばセンスや感性だろう。既に多くの工業製品やサービスにおいて、センスや感性といった「人間性」が鍵となっており、コミュニケーションロボットでは更にその傾向が強まるだろう。そしてその能力を最大限発揮するには人間ならではの「モチベーション」が大切である。それが、この先日本が斬新で活力溢れるジャンプ・スタートを切って成長していくために必要な力なのだと感じている。