第3章 人口・経済・地域社会をめぐる現状と課題

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第1節 人口をめぐる現状と課題

Q3 少子化対策に関する現行制度は、どのようになっていますか。

A3

●現行制度までの経過

1990年の「1.57ショック」(合計特殊出生率が1.57と「ひのえうま」という特殊要因により過去最低であった1966年の合計特殊出生率1.58を下回ったこと)を契機に、政府は、出生率の低下と子どもの数が減少傾向にあることを強く認識し、対策の検討を始めた。

1994年に最初の総合的な少子化対策となる「今後の子育て支援のための施策の基本的方向について」(「エンゼルプラン」)が関係省庁の合意で策定された。エンゼルプランでは、少子化の要因として晩婚化の進行と夫婦出生力低下の兆しを挙げ、これらの背景には女性の職場進出、子育てと仕事の両立困難、育児の心理的・肉体的負担増大、住宅事情、子育てコストの増大などがあると指摘した。そして、保育サービスの充実を中心とする7項目について具体的対応策を列挙し、特に、保育サービスの拡充は「緊急保育対策等5か年事業」に基づき重点的に実施した。

その後、少子化問題への国民的議論が喚起されたとはいえ、出生率の低下は止まらなかった。1999年には、改正版ともいうべき「重点的に推進すべき少子化対策の具体的実施計画について」(「新エンゼルプラン」)が関係省庁の合意で策定された。新エンゼルプランは、エンゼルプランと緊急保育対策等5か年事業を見直したもので、エンゼルプランと比べて固定的な性別役割分業を前提とした職場優先の企業風土の是正という点をかなり大きく扱うこととなった。

●少子化社会対策基本法

新エンゼルプランの後、2001年7月には、働き方改革重視の視点から「仕事と子育ての両立支援等の方針」が閣議決定され、「待機児童ゼロ作戦」が開始されるなど、政府は次々と対応策を講じてきたが、この間も出生率の低下は止まらなかった。そこで、政府一体となり少子化対策を推進するため、少子化対策関連の立法化を初めて進めることとなった。

2003年7月に成立した「少子化社会対策基本法」は、今後の少子化の目的、基本的理念、施策の基本的方向、国・地方公共団体・事業主及び国民の責務を定めている。同法は、国の責務のひとつとして大綱のとりまとめを課していることから、少子化社会対策会議のもとで「少子化社会対策大綱」が策定された。同大綱を受けて、新エンゼルプランに代わる新たな実施計画として「少子化社会対策大綱の具体的実施計画(子ども・子育て応援プラン)」が策定された。子ども・子育て応援プランは、少子化の流れを変えるための「4つの重点課題」と「28の具体的行動」を提示し、計画の実施期間である2005~2009年の5年間に講ずる施策や数値目標、実現した場合の将来の社会の姿(おおむね10年後)を示すなどした。

●次世代育成支援対策推進法

「少子化社会対策基本法」と同時に成立した「次世代育成支援対策推進法」は、地方公共団体や企業(常時雇用労働者101人以上)が、次世代育成支援のための取組を促進するよう、行動計画の策定を義務付けた法律である。10年間の時限立法である同法は、特に男性を含めた働き方の見直し等の観点から事業主が子育て支援を進めるよう促している。

なお、同法は2014年4月に一部改正され、法律の有効期限を2025年3月まで10年間延長するととともに、子育て支援の実施状況が優良な事業主について厚生労働大臣が認定する新制度(特例認定制度)を創設するなど、次世代育成支援対策の更なる推進・強化が図られている。

●子ども・若者育成支援推進法

少子化対策の一つに若者の自立支援、特にニートや引きこもり等の社会的自立が困難な子どもや若者への取組が大きな問題となっている。2010年4月に成立した「子ども・若者育成支援推進法」では、教育、福祉、雇用等の関連分野における子ども・若者育成支援施策の総合的な推進と、ニートやひきこもり等困難を抱える若者への支援を行うための地域ネットワークづくりの推進が図られている。とりわけニートやひきこもり等に対して、関係機関が現場レベルにおいてより一層連携して支援する地域協議会の仕組みが定められたことが特色である。

●子ども・子育て支援法

2010年1月には、「子ども・子育てビジョン」が閣議決定された。同ビジョンでは、エンゼルプラン、新エンゼルプラン、子ども・子育て応援プランに次いで、2010~2014年度の5年間を対象とした4番目の少子化対策プランとして、子ども手当等の経済的支援も含めた包括的な子育て支援策が打ち出された。さらに政府は「子ども・子育てビジョン」の確実な実現に向けて「子ども・子育て新システム」を構築することとし、少子化社会対策会議およびその下位会議で制度設計を行った。そうした検討なども踏まえながら、社会保障・税一体改革の一環として、2012年8月に子ども・子育て支援法など関連3法が成立することとなった。

同法では、認定こども園・幼稚園・保育所を通じた共通の給付を行うこと(「施設型給付」)、小規模保育等(家庭的保育、事業所内保育、居宅訪問型保育)への給付を行うこと(「地域型保育給付」)、認定こども園制度を改善すること、さらに、地域の実情に応じた子ども・子育て支援(利用者支援、地域子育て支援拠点、放課後児童クラブなどの「地域子ども・子育て支援事業」)を充実することを定めており、従来の少子化対策関連法以上に対策の量的拡充や多様化、予算措置を行っていることが特徴である。サービスの実施主体は市町村であり、市町村は地域のニーズに基づく計画策定、給付・事業を行うこととしている。また、市町村においても「子ども・子育て会議」を設置することが努力義務とされた。

子ども・子育て支援法の種類
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