令和6年度年次経済財政報告公表に当たって
我が国経済においては、1991年以来33年ぶりの高い水準となる賃上げ、過去最大規模となる名目100兆円を超える設備投資、過去最高を更新した企業収益、バブル期の水準を取り戻した株価など、前向きな動きが随所に見られます。我が国経済は30年来続いてきたデフレから脱却する千載一遇のチャンスを迎えており、投資や賃金が抑制される「コストカット型経済」から、民需主導の成長型経済という新しいステージへの「光」が差しています。
現在、最も求められることは、物価上昇に負けない賃金上昇を実現し、消費に力強さを取り戻すことです。社会構造、人口構造が変化する中、デフレに二度と後戻りしない、自立した民需主導の新たな経済を作っていかなければなりません。
そのために今後重要となってくるのは、安定的な物価上昇の下での持続的かつ構造的な賃上げです。まずは、今年の春季労使交渉における高い賃上げの流れを全国の中小企業や地方経済など全国津々浦々に広げていかなければなりません。
その上で、こうした高い賃上げに支えられて消費が増加し、企業収益が押し上げられ、それがまた賃金上昇という形で家計に還元され、次の消費につながっていくという好循環を実現しなければなりません。
同時に、企業はその収益を原資として、研究開発投資やソフトウェア投資といった無形資産投資、フロンティアの開拓、デジタル等新技術の社会実装などを行うことが求められます。政府は、こうした企業の取組を支援するために所要の制度・規制改革に取り組み、生産性を向上させることが求められます。これらを実現することにより、「コストカット型経済」の中で染み付いた「デフレ心理」を払拭し、賃金と物価が上がることが当たり前だという社会規範を我が国経済に定着させていく必要があります。
令和6年度年次経済財政報告は、昭和22年に発刊されて以来、今回で78回目となります。今回の報告では、現下の経済情勢を詳細にレビューするとともに、物価・賃金動向について、様々な指標に基づく広範な分析を行い、デフレ脱却に向けた歩みは着実に進んでいることを示しています。また、我が国経済の桎梏とも言える人手不足に対する企業部門の対応として、省力化投資の現状と効果、課題等を分析するとともに、稀少な労働力が、賃金をシグナルとして、企業と職種をまたいで円滑に移動し、経済全体としての生産性が向上するための課題等について分析しています。くわえて、家計部門に蓄積されてきた豊富な金融資産、住宅資産、さらには高齢労働者が培ってきた知識や経験といった有形・無形のストックについて、これをいかに有効に活かし、豊かさを感じられる経済につなげていけるかを議論しています。
今回の報告が、我が国経済を熱量あふれる新たなステージに移行させていくために、政策を立案・遂行していく上での客観的データとして活用されていくとともに、広く経済の現状認識や実証的な分析に活用されていくことを強く願っております。
令和6年8月
経済財政政策担当大臣