令和3年度年次経済財政報告公表に当たって

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「変革のラストチャンス」──昨年の年次経済財政報告ではこのように表現しました。新型コロナウイルス感染症の影響により、デジタル化の遅れをはじめ、我が国経済が抱えてきた長年の課題の数々が浮き彫りになり、「今こそこうした課題への宿題返しを行い、日本経済を変革するラストチャンス」との強い危機感の下、変革への決意を込めたものです。

政府は、2020年10月に2050年カーボンニュートラルを宣言し、また、本年9月にデジタル庁を設置しました。民間においても2021年上半期の新規上場企業数は59社となり、2007年以来の102社となった2020年のペースを上回っています。2021年の設備投資計画ではデジタル化やグリーン化、研究開発など未来に向けた企業の強い投資意欲が感じられます。こうした下で年内にも実質GDPはコロナ前の水準を回復することが期待されます。感染症との闘いはこれからも続きますが、ラストチャンスとの強い危機意識を政府と民間が共有し、我が国は変革に向けた大きな第一歩を踏み出したと評価しています。

我が国では、感染症による未曽有の危機に対し、前例のない大胆な経済支援を講じた結果、倒産件数は過去50年で最も低い水準で推移し、失業率も先進国の中で最も低い水準に抑えられてきました。

一方、世界を見渡すと、欧米諸国はより一層大胆な経済支援とワクチン接種の進展を背景に経済活動の水準を上げていく中で、さらに先を進んでいます。感染をゼロにすることができない中で、感染対策と日常生活の両立に向けた道を探り始めています。

そうした状況で、日本の経済社会にとって、新たな課題が明らかになってきています。潜在的な消費意欲が高い一方で感染拡大に左右されやすい状況、また、企業収益が改善する一方で東南アジアでの感染拡大による部品供給不足がみられます。さらに、倒産件数、失業率が低水準である一方で企業債務は大きく増加しており、事業の再構築は待ったなしです。

このように、危機対応のステージから次のステージに移りつつある中で、日本経済にとって、強くしなやかに対応できる力を高め、常に進化し、成長力を高めていくことが重要です。

「レジリエントな日本経済」-危機に直面してもそれを乗り越え、新たなステージへと進化していく力を持つ、すなわち、強さと柔軟性を兼ね備えた「レジリエントな経済社会」を構築することが重要です。日本経済がレジリエントな構造へ進化を遂げていくために、以下の新たな三つの課題に取り組むことが喫緊の課題です。

第一に、感染対策と日常生活の回復の両立です。欧米諸国はワクチン接種の進展を踏まえた経済活動の再開により、感染症下での経済成長をいち早く実現し、次の段階へ進んでいます。我が国においても、10月から11月までの早い時期に希望する全ての人へのワクチン接種完了を実現していく中で、感染対策と日常生活の回復を両立していくため、「ワクチン・検査パッケージ」をはじめ、合理的かつ実効性のある枠組みを早急に構築していく必要があります。これはペントアップ需要を含めて消費の回復を促し、企業収益の改善や積み上がった債務の解消に寄与することとなり、下記の第三の課題への対応にもつながります。

第二に、サプライチェーンの強靱化です。感染症を機に急速に進むデジタル化と電気自動車などグリーン化を背景とした世界的な半導体不足に加え、東南アジアの感染拡大に伴う部品供給の不足により自動車の生産調整が生じています。自動車産業以外の産業でも部品調達難や納期遅れ等が生じるなど、生産調整が広がる可能性があり、感染拡大の国際的なサプライチェーンを通じた影響が懸念されます。昨年も、感染症が世界的に大流行する中で、マスクや医療品等の供給不足を経験しましたが、サプライチェーンの強靱化が改めて課題として浮かび上がっています。経済安全保障の確保の観点からも対策は急務です。

第三に、事業の再構築と人材の円滑な移動に向けた取組の強化です。これまで実質無利子・無担保融資や雇用者一人当たり月額33万円を上限とする雇用調整助成金など、国民の生活、事業、雇用を守るために大胆かつきめ細やかな支援を講じてきました。今後は、デジタル化やグリーン化への変革を進めるだけでなく、危機を乗り越え、さらにその先のステージへの進化を目指し、民間企業や民間金融機関がリスクをとって事業の再構築に取り組むための環境整備やデジタル・グリーン分野など成長産業への労働移動を支えるリスキリングを含むリカレント教育の充実・強化など、新たな挑戦を支えるための環境整備が一層強く求められています。

以上の新たな三つの課題への対応をはじめとして、危機を乗り越える強さと柔軟性を備えた「レジリエントな日本経済」の構築に向けた変革への挑戦が始まっています。変革に向けた官民の今後の取組が進展することにより、直面する様々な課題を克服し、次の時代を切り拓くとの期待を込めて、今年の副題は「レジリエントな日本経済へ:強さと柔軟性を持つ経済社会に向けた変革の加速」としました。今回で75回目となる本報告が日本経済の現状や日本が直面する課題についての議論が深化し、「レジリエントな日本経済」の実現に資することを願ってやみません。

令和3年9月

経済財政政策担当大臣

経済財政政策担当大臣 西村康稔

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