平成30年度年次経済財政報告公表に当たって

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年次経済財政報告は、昭和22年に前身となる「経済実相報告書」が公表されてから72回目、昭和26年に「年次経済報告」いわゆる「経済白書」と名前を変えてから68回目にあたります。

その間、「もはや戦後ではない」(昭和31年)と、戦後復興を成し遂げた日本経済の姿と課題を描き、また「先進国への道」(昭和38年)、「バブルの教訓と新たな発展への課題」(平成5年)、「改革なくして成長なし」(平成13年)といった副題とともに、時代を切り取り、シャッターに収める「白書」の役割を追求してきました。

現在、景気回復は戦後最長が視野に入り、また、AIやIoT、ビックデータといった第4次産業革命がもたらす技術革新によって、私たちの生活や経済社会が画期的に変わる、そうした時代に入っています。名目GDPも過去最大の550兆円に拡大し、企業収益は過去最高の75兆円を記録しました。就業者数は、この5年間で251万人増加し、直近の有効求人倍率は1.60倍と1970年代前半以来、実に44年ぶりの高水準となっています。

一方で、需給ギャップは縮小を続け、ここにきて逆転、プラスとなっています。つまり、実際のGDPが大きく増加しているのに対し、そのベースとなる経済の基礎体力、潜在成長率の伸びが十分追いついていない。今、日本経済の最大の課題は、少子高齢化という壁を乗り越え、サプライサイドの改革を通じて潜在成長率を引き上げることです。このため、安倍政権では、一人ひとりの人材の質を高める「人づくり革命」と成長戦略の核となる「生産性革命」に最優先で取り組んでいます。

今年の白書では、こうした日本経済の現状について、あらゆる角度から多様な分析を行い、これらの政策を推し進めることが、人類未到の人生100年時代を見据えた経済社会、そして圧倒的スピードで進む第4次産業革命が拓く「Society 5.0」を実現し、日本経済を新たな成長経路に乗せるための鍵となるというメッセージを示しています。白書の副題は「「白書」:今、Society 5.0の経済へ」としました。

第1章は、「景気回復の現状と課題」です。今回の景気回復期間は戦後最長に迫っていますが、需給ギャップがプラスとなる中で、回復のベクトルと持続性を高めるためには、企業の労働生産性を高め、人手不足に対応するとともに、賃上げの動きをさらに続けていくことが重要です。

第2章は、「人生100年時代の人材と働き方」です。人生100年時代を見据え、学び直しを促進することが、技術革新に対応した多様な人材を育て、年齢にかかわらず全ての人が元気に活躍できる社会を実現するためにも重要です。また、時間や場所によらず、女性や高齢者も働きやすい多様な働き方を実現していくことが、今、求められています。

第3章は、「『Society 5.0』に向けた行動変化」です。第4次産業革命が進む中で日本経済の競争力を高め、新技術・システムの社会実装を進めていくためには、知識・技術面を強化するだけでなく、時代の変化に適応した組織、制度面の対応や起業の活発化などの取組が重要です。また、イノベーションや生産性向上の成果を、賃金や教育訓練等の形で人材への投資に還元することも重要な課題です。

今年の白書は、3人の「読者」を意識して作成しました。1人目は、経済学や経営学を勉強し、経済分析やマーケットリサーチを専門とされている方。こうした方にとっては、新しいデータ、基礎資料として価値があり、今後の分析や政策議論にも資する多くの素材を提供できるように心掛けました。

2人目は、企業を経営されたり、会社勤めや個人で事業をされたり、経済の現場で様々な活動に従事されている方。こうした方には、それぞれの方々の日々の仕事が日本経済全体とどのように関係しているのか、どういう接点や共通した課題があるのか、といったことが理解してもらえるように心掛けました。業務の傍ら分厚い本書を手に取る時間も限られていると思いますので、関心のあるテーマだけでも拾い読みができるよう、各節や個別のテーマごとに話が完結するように工夫してみました。

3人目は、自分が暮らす日本経済に今何が起きているのか、これからどう変わっていくのか知りたいと思っておられる方。それぞれの目標や大いなる好奇心を持って、これから社会に出ていく若者。今回の白書では、専門家でなくてもわかりやすいようなグラフや分析を心掛け、また、章ごとに主要な分析の要点をまとめた「白書の注目点」というコーナーも新たに設けましたので、「入門書」もしくはネット検索のように気軽にご覧頂きたいと思います。

昭和22年当時、日本で最初となる「白書」が刊行された目的は、集め得る限りの資料や統計を基礎として、終戦直後の苦しい我が国経済の現状を国民に伝え、国民と一緒に問題を考え、かつ解決していくためであったと記されています。それから70年余が過ぎましたが、現在でも「白書」の役割は当時と変わりません。そんな思いを込めて、副題を「「白書」:今、Society 5.0の経済へ」とした本書が、日本経済の現状や日本が直面する課題への対応に関する議論に資することになれば幸いです。

平成30年8月

経済財政政策担当大臣

経済財政政策担当大臣 茂木敏充

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