第1章 景気動向と好循環の確立に向けた課題 第1節

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第1節 景気の現状と好循環の確立に向けた課題

アベノミクスの取組の下、我が国経済は、緩やかな回復基調が続いているが、他方で、世界経済のリスクの高まりや、国内需要に力強さが欠けていること等を背景に一部に弱さもみられている。本節では、我が国経済の現状やリスク要因等について概観した上で、好循環の進捗状況とその確立に向けた課題について確認する。

1 景気の現状

はじめに、我が国経済の現状を概観した上で、先行きのリスク要因について確認する。

景気は緩やかな回復基調が続いているが、海外要因などのリスクは高まり

我が国経済は2012年11月1を底に緩やかな景気回復基調が続いている。こうした景気の回復基調の背景には、<1>アベノミクスの取組の下、企業活動の回復や労働参加の高まり等によって雇用・所得環境が改善してきたこと、<2>企業収益が過去最高水準まで上昇したこと、<3>物価面では、日本銀行の取組もあってデフレからの脱却に向けて進展していることなどがある。加えて、2014年半ばからの原油価格の下落によって交易条件が大幅に改善し、原油輸入国である我が国は大きな恩恵を受けてきた。

他方、2014年4月の消費税率引上げ後は、消費税率引上げに伴う駆け込み需要の反動減(異時点間の代替効果)や価格上昇による実質所得の減少に伴う効果(所得効果)に加えて、消費者マインドの弱さや、世界金融危機以降の各種施策に伴う耐久財の買い替え需要の先食いもあり、個人消費は横ばい状態を続けている。また、設備投資については、2015年度には持ち直しに向かったが、高い水準にある企業収益に比べるとやや力強さに欠けている。

こうした中、2015年度の景気動向については、緩やかな回復基調が続いているものの、一部に弱さもみられた。中国経済を始めとする新興国経済の落ち込みや、それに伴う国際的な金融資本市場の動きによって、我が国の金融資本市場も大きく変動し、企業や家計のマインドへの影響を通じて国内需要が下押しされた。また、中国の経済構造の転換や資源価格下落によって新興国・資源国の需要が弱かったこともあり、世界貿易の伸びが低いものにとどまる中、我が国の輸出についても弱さがみられた。こうした外的要因のほか、国内の要因についても、実質賃金の伸びが弱いものにとどまったことに加えて、耐久財の買い替え需要の先食い2、食品価格等の上昇による消費者マインドの改善の足踏みや冷夏・降雨や記録的な暖冬といった天候要因等を背景に、個人消費の伸びがマイナスとなった。

2015年12月に米国で金融引締めが始められる中、2016年初めには、新興国・資源国経済の不振もあって原油価格の一層の低下や国際金融市場の大きな変動が生じた。その後の米国の利上げペースが予想よりもゆっくりしたものになるとの見方が広がる中、円相場は円高方向で推移したほか、株価も18,000円台から一時期14,000円台へ下落するなど、我が国の金融資本市場も大きな変動を経験した。加えて、4月に発生した平成28年(2016年)熊本地震(以下本節において「熊本地震」という。)によって、家屋や企業の生産拠点などのストックが広範にわたり毀損し、最大18万人以上が避難生活を余儀なくされるなど、熊本地方を中心に甚大な被害が発生した。また、6月には、英国のEU離脱が国民投票によって支持されたことから、先行きの不透明感が高まる中で、為替相場が円高方向の動きとなり、株価も大きく下落する場面もあった。このように、我が国経済を取り巻くリスクは高まっており、新興国経済の下振れリスクに加え、英国のEU離脱に関する国民投票結果の影響、中東などをめぐる地政学的なリスク、国際的な金融市場の変動リスク等を注視していく必要があるほか、熊本地震の影響にも引き続き留意が必要である。

政策面では、消費税率10%への引上げを2019年10月まで延期することや総合的かつ大胆な経済対策を2016年秋に向けて取りまとめること等を盛り込んだ「経済財政運営と改革の基本方針2016」等が2016年6月に決定された。日本銀行は、2016年1月の金融政策決定会合で「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入を決定し、同年2月から適用している。

2015年度のGDP成長率は緩やかな伸びにとどまる

GDPの動向をみると、2015年度は、名目GDP、実質GDP、GDPデフレーターが、18年ぶりにそろって前年比プラスとなり、経済再生とデフレ脱却に向けて前進する姿がみられた(第1-1-1図(1))。

一方、実質GDPの四半期ごとの動きをみると、2015年1-3月期は比較的大きなプラスとなったものの、4-6月期以降は小幅な増減を繰り返している(第1-1-1図(2))。

GDPを構成する需要項目ごとの推移をみると、個人消費については、2014年4月の消費税率引上げに伴う駆け込み需要の反動で同4-6月期に大きく落ち込んだ後、小幅な増減を繰り返しており、回復に遅れがみられている3。住宅投資についても消費税率引上げ後に落ち込みがみられたが4、日本銀行の金融緩和を受けて住宅ローン金利が低水準で推移したことや各種の住宅支援策5の効果等を背景に2015年初から上向きに転じ6、同年1-3月期から3四半期連続で前期比プラスとなった。2015年末頃からはおおむね横ばいの動きとなったものの、GDP統計に先行する着工戸数は、住宅ローン金利の低下などを背景に2016年春頃からは再び持ち直しの動きをみせている7。設備投資については、2014年末頃からおおむね横ばいで推移していたが、2015年中頃からは持ち直しの動きもみられている。輸出については、2015年第1四半期にかけて3四半期連続で前期比プラスとなったが、海外経済の伸び悩みが続く中で小幅の増減を繰り返している。

このように、特に2014年4-6月期以降については、各項目とも、一部に持ち直しの動きがみられる場面もあるものの、おおむね力強さを欠いている。ただし、海外からの所得等も考慮した実質GNI(国民総所得)については、2014年半ば以降の原油価格下落を受け、交易条件(輸出デフレーターと輸入デフレーターの比)が改善し、交易利得の変化がプラスに寄与する中で、海外所得の受取もあり、増加傾向で推移している(第1-1-1図(3))。

次に、中長期的な成長力を確認する観点から、我が国が保有する資本ストックや労働力を過不足なく活用した場合に達成し得る経済成長率である潜在GDP成長率の動向をみてみよう。潜在GDP成長率は、2000年代後半以降、おおむね0%台半ばで横ばいの推移を続けている(第1-1-1図(4))。この背景について各要因の動きをみると、労働投入については、少子高齢化・人口減少が長期的な下押し圧力となる中でマイナスの寄与を続けているものの、景気の緩やかな回復基調の下、高齢者や女性の労働参加が進み、マイナス幅は縮小している。資本投入は設備投資の伸び悩みなどから、その寄与はゼロ近傍で推移している。全要素生産性は寄与のプラス幅が低下傾向にあり、最近は小幅のプラスとなっている。このように我が国経済は、短期的な需要、中期的な成長力の双方が緩やかな伸びにとどまっている。

2 我が国経済が抱えるリスク要因

次に、我が国経済が抱えるリスク要因について整理しよう。

英国のEU離脱問題の影響については注視が必要

世界経済は、中国を始めとした新興国経済に減速がみられる中、回復に力強さが欠けている状況にある8。世界経済の最近の動きをみると、米国では、これまでのドル高方向の動きや原油価格下落の影響もあり、企業部門の一部に弱めの動きもみられるが、回復が続いている。欧州でも、企業部門に脆弱性は残るものの、緩やかに回復してきている。他方、新興国では、中国は投資や輸出など一部に弱い動きがみられ、緩やかに減速しており、一部の資源国では、資源価格下落の影響によりマイナス成長が続いている。

こうした中、2016年6月23日に英国で行われた国民投票でEUからの離脱が支持されたことから、国際金融資本市場は大きく変動し、我が国においても、ドル円レートは一時1ドル=100円を割り込むなど円高方向に推移し、株価も1万5,000円台を割り込む局面もあった(第1-1-2図(1))。英国のEU離脱問題については、今後の世界経済における大きなリスク要因にもなり得ることから、ここでは英国のEU離脱問題による我が国経済の主なリスクについて、想定される影響の主な波及経路を含めて整理する。

まず、第一には、既にみられている金融資本市場の変動による影響である。上に述べたとおり、英国の国民投票でEU離脱が支持された後、我が国では、為替レートは円高方向に推移し、株価は下落した。特に6月23日からの1週間の推移をみると、他の主要通貨に比べて円が最も増価した9。急激な為替レートの円高方向への動きや株価の下落は、企業や家計のマインドに影響を与える可能性があるとともに、輸出金額の減少等を通じて企業収益にも影響を与える可能性があること等10から、こうした金融資本市場への影響を注視するとともに、金融機関の円滑なドル調達を含めて、市場の安定に向けて国際的に協力していくことが重要である。

第二には、不確実性の高まりによる影響である。英国がその離脱の意思を欧州理事会に正式に通知するまでの過程、そして、英国とEUとの新たな関係を構築するための交渉にはそれぞれ一定程度の期間を要することが見込まれるが11、これらの期間中には、先行き不透明感から英国の家計や企業が支出を先延ばしし、英国の需要全体が押し下げられる可能性がある12。また、国境を越えた自由な貿易・投資や人の移動などを通じて経済効率性を追求するという世界経済の枠組みに対する懐疑的な見方が勢力を増すのではないかという不安心理が、英国のみならず世界各国の経済活動の重しとなる可能性もある。このような不安を払拭するために、主要国が協調して自由主義経済体制をより一層強固なものとしていくよう、努力を続けていくことが重要である。

第三には、今後の英国とEUの関係の変化が貿易や投資に直接的に及ぼす影響である。英国とEUや他国の間で結ばれる新たな貿易・投資協定の内容次第ではあるが、特に英国とEUの間で貿易・投資の障壁が高まった場合、輸出や投資の落ち込みにより、英国の経済が落ち込む可能性がある13

以上のような経路を通じたリスクについては、各国の政府が協調して明確なメッセージを発信し、不透明感を払拭していくことが重要である。

英国経済の落ち込みによって、EUだけでなく、EU向け輸出が多い中国などのアジア諸国や米国、ひいては我が国についても、輸出が減少する可能性がある。また、英国へ進出している我が国企業の収益が圧迫される等の影響を受ける可能性もある。そこで、最後に我が国と英国やEUとの経済関係について確認しておこう。

まず、2015年の我が国の輸出金額は総額で75.6兆円、うち英国向けは1.3兆円、EU向け14は6.7兆円でそれぞれ全体の1.7%と8.8%となっている(第1-1-2図(2))。次に、我が国の対外直接投資残高は2015年末で147.8兆円、うち英国向けは10.4兆円、EU向けは22.2兆円で、それぞれ7.0%と15.0%を占めている。対外直接投資残高の内訳を業種別にみると、英国では金融・保険業のシェアが最も高く2015年末では全体の約3割を占めており、3.4兆円となっている。これは、我が国の金融・保険業に関する対外直接投資残高全体の10%強に相当するものであり、我が国は特に金融・保険業において英国と深い関わりを持っていると考えられる。

このように我が国の英国向けの直接の輸出と投資のシェアはそれほど大きくはないが、中長期的には、英国と他国との新たな貿易・投資協定の内容いかんでは、我が国から英国への輸出や投資に影響が出る懸念もある。さらには、英国経済の落ち込みが世界的な貿易・投資フローを減少させる可能性もあり、今後の事態の推移を注意深く見ていく必要がある。

新興国経済の動向や熊本地震の影響などにも引き続き注視が必要

英国のEU離脱問題以外にも、中国を始めとした新興国及び資源国経済の現状や先行きなどへの懸念、中東などをめぐる地政学的なリスクなど15、世界経済に関するリスクは未だ払拭されていない。

さらに、リスクという観点からは、2016年4月に発生した熊本地震の影響が挙げられる。熊本地震を受けて、被災地では、地域住民の生活基盤、地域経済を支える生産施設・設備や社会インフラ等のストックが広範にわたり毀損した16。こうしたストックの毀損は、住民生活のみならず、生産や雇用など地域経済、さらには一時的にサプライチェーンを通じて他地域の生産にも影響を及ぼした。その後の復旧により、サプライチェーンを通じた影響は小さくなったものの、地域経済や内外観光等への影響は続いており、引き続きその影響に留意する必要がある。

3 好循環の所得面での進捗状況

アベノミクスは、デフレではない状況をつくり出すとともに、所得から支出への好循環を進めることを企図していた。そこで、まず、企業収益、雇用、賃金といった所得面の動向について確認しよう。

企業収益の改善は中小企業にも広がり

企業収益の動向をみると、経常利益は2014年度に過去最高17となった後、2015年度についても引き続き高い水準となっている(第1-1-3図)。ただし、2015年7-9月期以降、3四半期連続で前期比マイナスが続くなど、改善に足踏みがみられている。

規模別・業種別の内訳をみると、大企業については、非製造業は比較的底堅く推移する一方、製造業は海外経済の伸び悩みが続き、円高方向の動きによる下押し圧力もある中で、輸出企業を中心に収益が下押しされたことなどから、特に2015年半ば以降、利幅が縮小している。一方、中小企業については、2014年中頃までは大きな改善がみられなかったものの、原油価格の下落などを背景に収益環境が改善し、製造業・非製造業ともに収益は増加してきている18。今後については、為替レートの円高方向の動きが続けば収益の下押し圧力となる可能性がある。また、英国のEU離脱問題等に伴う先行きの不透明感は企業のマインドを抑制する恐れがある。以上をまとめると、企業収益は、高い水準にあり、中小企業への広がりもみせているものの、全体としてみると、改善に足踏みがみられており、円高方向の動きや先行き不透明感がみられる中で、今後の動きについても注視が必要といえよう。

為替レートが輸出数量に与える影響は低下

次に、企業部門を取り巻く環境として、輸出の動向を確認する。輸出については、上に述べたとおり、最近は小幅の増減を繰り返しているが(前掲第1-1-1図(2))、一般的に、輸出数量と為替レートの間には、例えば、円が減価すると輸出数量が増加するという関係が想定される。しかし、2012年秋以降の円安方向の動きが続いた局面では、実質実効為替レートが2割程度減価したにもかかわらず、輸出数量はおおむね横ばいで推移しており、両者の関係が希薄化している可能性がある。そこで輸出数量に対し、世界の輸入需要と実質実効為替レートのそれぞれが及ぼす影響を計測し、輸出数量の動向の背景を分析する。

推計結果によると、世界需要が増える、または、為替レートが減価する際に輸出数量が増加することが示されている(第1-1-4図(1))。ここで、世界需要や為替レートと輸出数量の関係に変化が生じているかを検証するために、時間の経過とともにそれぞれの係数がどのように変化するかを確認する。2012年以降、世界需要の係数は安定的である一方、為替レートの係数は、輸出数量と逆相関の関係は維持するものの、徐々に小さくなっている。すなわち、為替レートが輸出数量に与える影響は最近になるほど小さくなっており、円安方向の動きがみられる局面においても、輸出数量が伸びにくい構造となっていることが示されている19

この背景には、我が国企業による海外生産の拡大や電気機器などの一部の産業における輸出競争力の低下といった要因に加え、企業が収益志向の行動に変化していることが挙げられる。すなわち、為替が円安方向に推移する時に現地通貨建ての輸出価格の引下げを抑えて収益増を志向する姿勢に変化している20。これは、新興国が台頭する中で、我が国企業が財の高付加価値化によって対外的な稼ぐ力を発揮していることと対応していると考えられる21。そこで、我が国の輸出財の高付加価値化指数をみると22、長期的に上昇しているが、2015年には一層高まっており、高付加価値化が進んでいることが分かる(第1-1-4図(2))。

我が国の対外的な稼ぐ力の変化については、この他にも、サービス輸出や対外直接投資収益の伸びが、上にみた財の輸出に比べて、相対的に高くなっている点にも現れている。サービス輸出については、訪日外国人の増加に伴い、外国人の国内消費(いわゆるインバウンド消費)が2015年度は前年比44.0%増の3.3兆円となり、また、特許料収入が同7.3%増の4.5兆円となるなど拡大している。また、対外直接投資収益や証券投資などの対外金融債権・債務から生じる利子・配当金等の受取を示す第一次所得の受取は同5.9%増の29.3兆円と経常黒字を支えている23

このように、我が国の対外的な稼ぐ力の変化は、財の高付加価値化、インバウンド消費の増加、対外直接投資などからの所得の受取の増加などにみられている。我が国が対外的な稼ぐ力を発揮していくには、引き続き、高付加価値化や観光先進国に向けた取組などを進めていくことが課題といえよう。

他方、英国の国民投票でEU離脱が支持された後、為替レートの円高方向の動きがみられたが、円高方向の動きが継続した場合、輸出関連企業の収益は圧迫されることとなり、また輸出数量についても、今後、英国やEUなどで実体経済が下振れた場合、下押しされる可能性があることにも留意が必要である。

人口が減少する中で、高齢者や女性の労働参加が進展

次に、雇用・所得の動向について確認しよう。まず、雇用を取り巻く環境については、少子高齢化・人口減少によって生産年齢人口のマイナス基調が続いている。特に、最近では団塊の世代が65歳以上となる中で、2013年から2015年までの3年間の生産年齢人口の減少幅は、それ以前の3年間の減少幅の約2倍となっている(第1-1-5図)。一方、景気の緩やかな回復基調が続く中で、高齢者や女性の労働参加が進み、労働力人口は2013年から前年比プラスに転じている。このように労働力人口が増加する一方で、企業の採用意欲にも改善がみられ、有効求人倍率は2016年4月には1.34倍と24年ぶりの高水準、就業地別で集計すると初めて全都道府県で1倍を超える結果となった24。また、完全失業率は、2015年3月以降、3%台前半と18年ぶりの低水準が続いているなど、雇用情勢は改善している。

高齢者や女性の新規の労働参加は、短時間労働を中心に非正規雇用の形態をとることが多いことなどから、非正規雇用者数が増加する一方、正規雇用者数は減少傾向にあった。しかし、2015年には企業の労働力確保の意識の高まりなどを背景25に正規雇用者数が8年ぶりに前年比プラスに転じており26、3年にわたるアベノミクスの取組の下、労働市場の動きにも変化の兆しがみられている。こうした労働市場の変化の背景として、我が国における「働き方」にも変化が生じている可能性がある。この点については、第2章において詳細に取り上げる。

賃金の増加には裾野の広がりがみられる

賃金の動向については、景気が緩やかな回復基調にあり、労働需給が引き締まりつつある中で、我が国全体の賃金所得を表す総雇用者所得(一人当たり賃金に雇用者数を乗じたもの)は、実質でみても2015年7月から2016年4月まで10か月連続で前年比プラスとなるなど緩やかに増加している。また、一人当たり実質賃金は、女性や高齢者の労働参加の進展に伴うパートタイム労働者27の比率の上昇が下押しに寄与しているものの、一般労働者・パートタイム労働者ともに名目賃金が増加する中で28、2016年2月以降は、物価上昇率の低下もあり、プラスに転じている。こうした動きの背景にある賃上げの状況について春季労使交渉の動きをみると、2016年には今世紀に入って最も高い水準の賃上げが3年連続で実現される見込み29であり、加えて、中小企業にも賃上げの動きの波及がみられる30

賃金の動向を一般労働者とパートタイム労働者に分けてみると、2013年以降、一般労働者・パートタイム労働者ともに前年比で増加している(第1-1-6図(1))。また、増加率については、2013年以降、最低賃金が3年連続で高い水準で引き上げられたことなどを背景に31、特にパートタイム労働者で高く、2015年のパートタイム労働者の時給は1,069円と過去最高となっている。さらに転職市場でも最近では転職後の賃金が上昇に転じる動きがみられているなど、賃金上昇には裾野の広がりがみられる(第1-1-6図(2))。一方、経済の好循環の進展という観点から、労働分配率の動きをみると、企業収益が高い水準となる中で、大企業・中小企業ともに緩やかな低下傾向にある(第1-1-6図(3))。2015年に入ってからは大・中堅企業を中心に小幅に上昇する動きもみられるものの、おおむね同水準での推移にとどまっており、賃上げの動きに広がりはみられているものの、高い企業収益が十分な賃金上昇につながっていない。

この背景には、上に述べたように、一般労働者の方がパートタイム労働者に比べて賃金上昇が相対的に低くなっていることがある。企業の経済成長率の見通しと賃金上昇の関係をみると、経済成長率の見通しが上昇するほど賃金上昇率が高くなるという緩やかな関係がみられる(第1-1-6図(4))32。こうしたことから、デフレマインドが残り、予想成長率が低い中で、企業は一種の固定費とみられる正社員を中心とした一般労働者の賃上げに抑制的になっている等の可能性が考えられる33。経済の好循環を確立するためにも、成長戦略を着実に実行し、企業の経済成長率見通しを高め、それを持続的な賃金上昇につなげていくことが重要である。

4 好循環の支出面での進捗状況

次に、好循環の支出面の進捗状況について確認する。

所得の伸びと比べても消費は力強さに欠ける

家計部門における支出面の進捗状況について、個人消費の動きから確認しよう。上に述べたとおり、一人当たり賃金が低い伸びにとどまっていることが個人消費の弱さの一因ではあるものの、最近では、マクロでみると雇用者数の増加もあって雇用者報酬は緩やかながら増加している。こうした所得の伸びと比べると、個人消費は横ばいで推移しており、力強さに欠けている(第1-1-7図(1))。つまりは、所得面から支出面への波及に遅れがみられるが、この背景については、2015年にみられた短期的な要因と、構造的な要因が考えられる。まず、短期的要因については、同年4-6月期の冷夏・降雨や記録的な年末の暖冬等による天候要因に加え、食料など必需品価格の上昇や同年後半以降の株価下落などの影響により消費者マインドの改善に足踏みがみられたことが考えられる(第1-1-7図(2))。

一方、構造的な要因については、世界金融危機後の家電エコポイントなどの振興策の実施や消費税率引上げに伴う耐久財の買い替え需要の先食い、家計が将来不安を抱くことに伴う消費抑制などが考えられる。こうした構造的な要因については、2節で掘り下げて分析する。

設備投資は企業収益に比べると低い伸びにとどまる

これまでみたように、企業収益は高い水準にある。成長力の強化には企業の設備投資の拡大が不可欠であるが、少子高齢化や新興国の台頭の下で、既存市場の成長が期待し難い状況となっているため、企業は収益の確保に向けて、新規の設備投資の抑制、償却の済んだ老朽設備の継続稼働といった行動をとりやすくなると考えられる。こうした中、新たなニーズや市場の開拓、製品・サービスの高付加価値化などによる生産性の向上へと企業行動の転換を促していくことで積極的な設備投資につなげていく必要がある。こうした企業部門の取組については第3章で取り上げることとし、ここでは、まず企業部門における所得面から支出への波及の状況として、設備投資の動向を中心にみていこう。

財務省「法人企業統計季報」によれば、設備投資は、2013年半ば以降、一時的に弱い動きもみられたものの、総じてみればプラスの動きがみられており、2015年については、年央頃からは持ち直しの動きがみられている(第1-1-8図(1))。業種や企業規模別の動きをみると、2013年から2014年にかけては、設備投資の増加には非製造業が寄与してきた。非製造業の動きを規模別にみると、大企業の設備投資が堅調であることに加え、2013年10-12月期頃からは中小企業にも徐々に増加の動きがみられ始めており、特に2015年以降については、更に増加幅が拡大している。また、製造業についても、2015年には大企業、中小企業ともに増加している。このように、設備投資は業種や規模を問わず増加に広がりがみられている。

一方、高い水準の企業収益に比べると、設備投資の伸び率は低い水準にとどまっている(第1-1-8図(2))。経済の好循環という観点から企業行動をみると、収益の増加が設備投資の伸びに十分に結び付いていないという意味で、所得面から支出面への波及が遅れている姿が浮かび上がっている。設備投資の伸び悩みについては、第3章において詳細な分析を行っているが、その背景をまとめると、企業の将来の予想成長率が低く、一部の業種では海外移転の進展や国際競争力の低下が影響していることが背景として考えられる。一方で、企業は、M&Aや研究開発、海外への投資などを増やしており、企業の投資活動に変化が起こっている可能性がある。

好循環は着実に回り始めているが、更に支出面の回復につなげていく必要

以上、好循環の進捗状況について整理すると、収益の拡大が非製造業や中小企業などにも広がり、労働参加の高まりによって雇用が増加するとともに、緩やかながらではあるものの所得環境についても改善している。ただし、企業収益と比べて賃金の伸びは十分に高まっているとはいえず、引き続き、経済の活性化を図る中で賃上げの動きをより確かなものにしていくよう取り組んでいく必要がある。他方、所得面での改善は、支出面での回復に十分にはつながっていない。雇用者報酬や企業収益の伸びと比べて、個人消費や設備投資は力強さを欠いている。こうしたことを踏まえると、企業収益や雇用・所得環境の改善を起点に、経済の好循環は着実に回り始めているが、これを更に支出面の回復につなげていく必要がある。

なお、社会保険料等の負担の増加が家計の可処分所得の伸びを抑制しているのではないかとの見方がある。SNAベースでみると、2014年度の家計の賃金・俸給は対前年度比で1.8%増加しているものの、社会保険料の負担が同4.1%増加し、結果として、名目可処分所得は同0.7%増にとどまり、実質では消費税率引上げの影響もあり同2.0%減となっている34。また、2015年度には年金保険料などの社会保険料の引上げが行われたが、物価上昇率の低下もあり、実質可処分所得の伸びは2014年度からやや改善していると考えられる。

5 物価の動向

アベノミクスの取組が進む中で、我が国経済はデフレではないという状況となっている。本項では、デフレ脱却に向けた進捗状況を確認するという観点から、物価の動向を点検する。

消費者物価の基調は緩やかな上昇傾向にあるが、そのテンポが鈍化

まず、家計に身近な財・サービスの物価動向をみる観点から消費者物価の推移を確認する。消費者物価のうち、<1>毎月の変動幅が大きい生鮮食品を除いた「生鮮食品を除く総合(いわゆるコア、以下「コアCPI」という。)」、及び<2>物価の基調を表す指数で、生鮮食品、石油製品及びその他特殊要因を除く総合35のいずれの指数でも、2013年春以降、おおむね緩やかに上昇してきた(第1-1-9図(1))36。ただし、前者については、2014年夏以降、おおむね横ばいとなっている一方、後者については、このところ上昇のテンポが鈍化している。

こうした消費者物価の動きの背景をみるため、それぞれを構成する分類ごとの寄与度を確認する(第1-1-9図(2)、(3))。まず、生鮮食品、石油製品及びその他特殊要因を除く総合については、2014年から食料が、2015年に入ってからは更にサービスが押上げに寄与してきた。食料については為替レートの円安方向の動き等が影響していると考えられる37。一方でサービスについては、「外食」や「宿泊料」などで価格上昇がみられ、賃上げの動きがサービス業における価格上昇につながっていると考えられる。ただし、食料については、円安方向の動きによる押上げ効果が一巡する中で2015年末からそのプラス幅を縮小する動きに転じている。コアCPIについては、こうした要因に加え、2014年半ばからの原油価格下落の影響を受けてエネルギーが全体を大きく下押ししている。

さらに、最近の状況をみると、原油価格が2016年2月以降上昇に転じ、4月にはガソリン価格が上昇に転じるなど一部に波及の動きもみられている一方で、2016年初以来、円高方向の動きが続いており、2016年5月時点では物価上昇のテンポが鈍化している。こうしたことから、デフレ脱却に向けて、物価の動向については引き続き注視が必要である。

GDPデフレーターはプラス幅を縮小

上述のとおり消費者物価の基調は緩やかな上昇傾向にあるもののそのテンポが鈍化しているが、デフレ脱却に向けた進展を評価するには、物価の基調や背景を総合的に考慮する必要がある38。そこで、まず、国内で生産される財・サービス全体の価格を表すGDPデフレーターの動きをみると、2014年半ば以降、前年比プラスで推移しているものの、2015年後半からはプラス幅が縮小している(第1-1-10図(1))。また、この間のGDPデフレーターの動きについては、原油価格の下落を受けて輸入デフレーターが低下していることにより押し上げられており、国内需要デフレーターについては民間最終消費支出デフレーターの伸びの鈍化などにより前年比マイナスとなっていることに留意が必要である39第1-1-10図(2))。GDPデフレーターを所得面からみると、アベノミクスの取組の下での継続的な賃上げの動きを背景として、単位労働費用(ユニット・レーバー・コスト)は、2014年4-6月期にプラスに転じて以降、おおむね前年比プラスの動きを続けており、今後とも、持続的な賃上げに取り組んでいくことが期待される。

最後にGDPギャップの状況について確認すると、世界金融危機後の2009年以降、そのマイナス幅は趨勢的に縮小傾向で推移し、2014年1-3月期には消費税率引上げ前の駆け込み需要もあり、一時的にプラスとなった。2014年4-6月期には駆け込みの反動減によって再びGDPギャップがマイナスとなり、7-9月期にはマイナス幅が拡大した。その後は労働需給が引き締まりつつあること等もあってマイナス幅は縮小したが、最近は経済成長が緩やかなものにとどまっていることから、GDPギャップの縮小に足踏みがみられている40第1-1-10図(3))。

デフレ脱却にはGDPギャップの着実な改善が重要

ここまで、消費者物価を始めとした各指標の動向を確認した。アベノミクスの取組が進められる下で、我が国経済はデフレ脱却に向けて着実に前進してきたが、2016年に入ってからは、消費者物価やGDPデフレーターで改善の動きに鈍化がみられている。デフレ脱却の実現のためには、多少の外的なショックがあってもデフレ状況に後戻りすることなく、緩やかな物価上昇が持続可能となる必要があり、そのためには、経済全体の需給動向を示すGDPギャップのマイナス幅が着実に縮小することが重要である。

上に述べたとおり労働需給が引き締まりつつある中でGDPギャップのマイナスが続いているが、その要因としては、需要の弱さに加え、製造業を中心に既存の資本ストックの活用や古い設備の廃棄が進んでいない可能性なども考えられる41。次節では、需要の弱さの背景の一つである個人消費の動向について、力強さを欠いている要因を詳細にみていこう。


(1)内閣府経済社会総合研究所「景気基準日付」より。
(2)耐久財は、2008年の世界金融危機以降の取得支援策、地上デジタル放送への移行、消費税率引上げに伴う駆け込み需要などからトレンドを大きく上回って増加していた。詳細は、2016年3月24日の経済財政諮問会議内閣府提出資料を参照。
(3)消費税率引上げ後の個人消費の回復に遅れがみられる背景については、本章第2節を参照。
(4)2014年4月の消費税率引上げ時には、住宅ローン減税の拡充やすまい給付金などの平準化措置がとられた。
(5)フラット35Sの金利引下げ幅拡充、省エネ住宅ポイント、住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置の拡充等。
(6)住宅着工の動向については付図1-1を参照。
(7)「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の住宅ローン金利等への影響については本章第3節を参照。
(8)世界の実質成長率については、付図1-2を参照。
(9)2016年6月23日から6月30日にかけて、円はドルに対して2.8%、ユーロに対して5.2%、ポンドに対して12.9%、それぞれ増価した。
(10)この他、インバウンド消費額に影響を与える可能性が考えられる。
(11)欧州連合条約第50条においては、脱退の通知から原則2年後に脱退する国への欧州連合条約及び欧州連合運営条約の適用を停止する旨が定められている。
(12)HM treasury and The Rt Hon George Osborne MP(2016)は、英国がEUを離脱した場合、残留時と比較して、離脱選択後2年以内に英国のGDPが-3.6%から-6.0%下振れるとの試算を示している。
(13)HM treasury and The Rt Hon George Osborne MP, Cabinet Office, Prime Minister's Office, 10 Downing Street(2016)は、英国のEU離脱は将来的に英国のGDPを押し下げるとしており、離脱から15年後の影響について、EUとの協定の内容ごとに、例えば、以下の推計結果を示している。欧州経済領域(European Economic Area:EEA)の一員となる場合:-3.4%~-4.3%、EUとの経済協定なし(一般的なWTO加盟国)の場合:-5.4%~-9.5%。
(14)EUのうち英国を除いた数値。以下、本項においてEUの数値について言及しているものは同様の取扱いをしている。
(15)この他、テロなどの国際組織犯罪が投資、観光、貿易などの経済活動を抑制するリスクも想定される。
(16)内閣府政策統括官(2016)では、平成28年(2016年)熊本地震による、熊本・大分両県のストック(社会資本・住宅・民間企業設備)の毀損額について、約2.4~4.6兆円程度と試算している。なお、激甚災害指定時の「災害復旧事業費の査定見込み額等」では、公費負担による災害復旧事業にかかる費用等について、初期段階の実態からの推計費を計上している。試算は、個人住宅や民間企業の機械設備及び建屋等、官民の保有する広範なストックの毀損額について、これまでの地震災害を例とし、幅をもって推計していることに留意する必要がある。
(17)財務省「法人企業統計年報」によると、2014年度の企業の経常利益(全規模全産業、金融業・保険業を除く)は、約65兆円と過去最高を記録。
(18)中小企業の収益環境の動向は付図1-3を参照。
(19)例えば、為替レートの係数が0.1縮小すると、為替レートが20%減価した場合の輸出数量の増加幅は2%ポイント程度低下する。
(20)内閣府政策統括官(2015a)を参照。
(21)我が国の稼ぐ力の検証については内閣府政策統括官(2015b)を参照。
(22)輸出数量は、輸出財の金額を輸出価格で、実質輸出は輸出財の金額を品質の変化を加味した輸出物価でそれぞれ除したものである。そのため、例えば、ある品目について同じ品質の価格動向を表す輸出物価と比べて輸出価格が上昇する場合(実質輸出の増加幅が輸出数量の増加幅を上回る場合)、当該品目の高付加価値化が進んでいることを示すと考えられる。
(23)財務省「国際収支統計」より。外国人(非居住者)の国内消費は、旅行収支の受取、特許料収入は知的財産権等使用料の受取。
(24)有効求人倍率は2016年5月には1.36倍となり、引き続き全都道府県で1倍を超えた。
(25)企業の雇用スタンスの変化については、第2章を参照。
(26)ただし、雇用者数に労働時間を乗じた総労働時間の動向をみると、2013年以降増加しているものの、その増加幅は雇用者数の増加に比べると小幅なものにとどまっている(付図1-4を参照)。これは、女性や高齢者の労働参加が進み、働き方が多様化する中で短時間労働が増加しているためであると考えられるが、雇用者に比べて総労働時間の伸びが低いということは、我が国全体の労働投入や生産活動、雇用者全体の所得の伸びも雇用者数の伸びに比べると相対的に低くなることには留意が必要である。
(27)常用労働者のうち、<1>1日の所定労働時間が一般の労働者より短い者、<2>1日の所定労働時間が一般の労働者と同じで1週の所定労働日数が一般の労働者よりも短い者、のいずれかに該当する者。
(28)一人当たり名目賃金及び実質賃金の前年度比については、以下のとおり。
名目賃金:2011年度:-0.3%、2012年度:-1.0%、2013年度:-0.2%、2014年度:0.5%、2015年度:0.2%。
実質賃金:2011年度:-0.2%、2012年度:-0.8%、2013年度:-1.3%、2014年度:-3.0%、2015年度:-0.1%。
(29)連合の春季生活闘争における賃上げ率は、2014年2.07%、2015年2.20%、2016年2.00%。ただし、2014年及び2015年は最終回答集計結果、2016年は第6回回答集計。なお、賃上げ率が2%を上回るのは、1999年以来である。
(30)商工中金(2016)の調査結果によると、人手不足を背景に、7割以上の中小企業で賃上げを実施予定となっている。
(31)最低賃金(全国加重平均額)の引上げは、2013年は15円、2014年は16円、2015年は18円、3年間の平均は16.3円。これに先立つ3年間は、2010年は17円、2011年は7円、2012年は12円、3年間の平均は12.0円である。
(32)付図1-5もあわせて参照されたい。
(33)久保・塩田・安井(2016)では、フルタイム労働者はパートタイム労働者に比べて賃金上昇ペースが遅い背景について、企業は、<1>将来にわたって低成長が持続すると考えており、雇用調整が困難なフルタイムの賃上げに抑制的になっていることや、<2>近年の社会保険等費用の増加や、一律のベア実施による総人件費の増大を将来的な利益の圧迫要因として懸念していることを指摘している。
(34)名目可処分所得は、2013年度287.0兆円、2014年度289.1兆円。実質可処分所得は2013年度は305.4兆円、2014年度は299.2兆円。実質可処分所得は家計最終消費支出デフレーター(帰属家賃除く)を用いて実質化して計算した。家計の賃金・俸給は、2013年度は207.7兆円、2014年度は211.4兆円。家計の社会保障負担は、2013年度は59.8兆円、2014年度は62.2兆円。
(35)コアCPIから石油製品、電気代、都市ガス代、米類、切り花、鶏卵、固定電話通信料、診療代、介護料、たばこ、公立高校授業料及び私立高校授業料を除いたもの。
(36)消費者物価の前年比の動向については、付図1-6を参照。
(37)輸入物価の動向については、付図1-7を参照。
(38)内閣府は、2006年3月、デフレ脱却を「物価が持続的に下落する状況を脱し、再びそうした状況に戻る見込みがないこと」と定義した上で、「その実際の判断に当たっては、足下の物価の状況に加えて、再び後戻りしないという状況を把握するためにも、消費者物価やGDPデフレーター等の物価の基調や背景を総合的に考慮し慎重に判断する必要がある。」とし、その他の指標の例として、需給ギャップやユニット・レーバー・コストといったマクロ的な物価変動要因を挙げている。
(39)また、「平成28年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度」(平成28年1月22日閣議決定)では、消費税率引上げによる平成26年度のGDPデフレーターへの影響はプラス1.4%ポイント程度と見込まれている。
(40)GDPギャップの水準については、定義や前提となるデータ等の推計方法によって異なるため、相当の幅をもってみる必要がある。
(41)経済産業省「鉱工業指数」では、製造業の稼働率指数は、2010年を100とした場合、2015年度は98.0であり、過去の平均的な水準と比べても低い水準にとどまっている。
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