はじめに
我が国経済は、アベノミクスの取組の下、雇用・所得環境が改善し、一部に弱さがみられるものの、緩やかな回復基調が続いている。雇用者報酬は名目でみても実質でみても増加しており、企業収益も高水準で推移するなど、経済の好循環の所得面では改善が進んでおり、今後は、個人消費や設備投資など好循環の支出面にいかにつなげるかが大きな課題となっている。他方で、日本経済を取り巻く世界経済の情勢をみると、新興国・資源国経済の脆弱性等のリスクに加え、2016年6月に英国の国民投票でEU離脱が支持されたことによって、世界経済の先行き不透明感が更に高まっている。
本報告では、こうした海外経済に関するリスクの高まりがみられる中で、経済の好循環を確立するために、消費や投資などの国内需要の回復と、労働市場や企業活動など供給面の強化をいかに同時に図るかについて論じる。
第一章「景気動向と好循環の確立に向けた課題」では、最近の日本経済の動向と先行きに関するリスクを確認し、国内需要が力強さを欠いている背景について分析を行うとともに、財政健全化の進捗状況やデフレ脱却に向けた金融政策の取組について概観する。
第二章「少子高齢化の下で求められる働き方の多様化と人材力の強化」では、少子高齢化が進展する中で、景気回復もあって人手不足感が高まっていること等について、女性や高齢者の労働参加に影響を与えている要因や転職市場の機能について分析し、多様な働き方の実現や人材力を強化するための課題と必要な取組について論じる。
第三章「成長力強化と企業部門の取組」では、企業収益の改善にもかかわらず力強さに欠ける設備投資の動向について背景を探るとともに、最近広がりがみられるM&A、研究開発投資、海外投資を含めた広い意味での企業の投資活動を分析し、企業の前向きな投資を引き出すための課題を論じる。加えて、企業のコーポレート・ガバナンスの取組の現状とその効果について、投資を含めた企業の積極的な活動を促す観点から検証する。
最後の「おわりに」では、本報告の主な分析の内容を引用しつつ、それらが示唆する日本経済の課題についてメッセージを述べる。